「ミチコとハッチン」で山本沙代監督がしたい事〜既存の女性像を破壊する〜






ミチコとハッチン Vol.1 [DVD]

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水曜深夜フジテレビで放送中のTVアニメ「ミチコとハッチン」。監督を務めているのは、新進気鋭の女性監督山本沙代さん。




テレビアニメにおいて、女性監督というのは男性監督に比べて少数だ。今期では「のだめ」の今千秋さん、「ヴァンパイア騎士」の佐山聖子さん等がいるけど、男性監督に比べて圧倒的に少ない。他の女性監督、演出家と言ったら、宮崎なぎささんや加瀬充子さん等が有名だろう。それでも、女性監督は少数だ。その中で女性監督が担当するアニメ作品は、原作が少女漫画か、BL系の作品が多い。ほとんどの女性監督がこの二つのジャンルに割り当てられるといっても過言ではないと思う。もちろん例外もいるけど。なぜ、この二ジャンルに集中するかというと女性の視点で描くということが重要視されるジャンルだからだろう。とは言っても、そこに「女性らしさ」が存在するかというと一概には言えないのではないだろうか。その「女性らしさ」とは何か? 山本沙代監督のインタビュー記事を読むと、女性が持つ「女性らしさ」の意味が感じ取れる。






アニメーションノートのインタビュー記事


−ちなみに、これは僕の完全な妄想ですが、子供の頃しずかちゃんとか嫌いじゃありませんでしたか?



山本 嫌いでしたね。しずかちゃんや南ちゃんの良さがまったく理解できませんでした(笑)



−どのようなあたりがダメでしたか?



山本 男にとって都合の良い感じがダメでしたね。子供ながらに「そんなヤツ、いねぇよ!」と思ってしまって。あとは個性のない感じとかも嫌いなポイントでした。まぁ、あくまでも子供の頃の話ですけどね。


−いまは違うんですか?



山本 肯定的です。南ちゃんみたいな子がウチの隣に住んでて「頑張って、南が応援しているぞ」とか毎日言ってもらえば、なんでも出来ちゃいそうじゃないですか?



−それは悪くないですね(笑)。ちなみに、いま話されたような女性キャラクターに対するフラストレーションみたいなものを、作品に反映することはありますか?



山本 キャラクターの性格や行動にかなり反映させていますね。



−どういうことですか?


山本 「これは男の人が観たら引くだろうな」というような男をくいものにして生きているしたたかで強い女がでてきたり・・・私の好みがでていますね(笑)。デザインでいうとミチコのノーブラ感。アニメによく出てくるお尻みたいな記号的な胸ではなく垂れている自然な感じ・・・


−なるほど。でも、あまり「ノーブラ感、ノーブラ感」言っていると、それはそれでスタッフの人達に白い目で見られそうですけどね(笑)。


山本 気持ち悪いでしょうね(笑)。



(中略)



−山本監督の場合は、何を表現したくてアニメを作っていますか。



山本 今は女ですね。自分が感じた女のマヌケさや女同士の友情とも恋愛ともつかない微妙な関係描きたくて、アニメを作っています。たぶん、「ミチコとハッチン」の見どころも、そのへんになっていくると思います。

                                    アニメーションノート11号 80、81、82ページより一部抜粋



オトナアニメのインタビュー記事






−キャラが勝手に生まれて、動き出したと。ハッチンも同様に?



山本 ミチコと対照的に見せたいというイメージと、ひょろっとしたイメージ。あとは、男の子っぽく見えることもポイントにしています。彼女は、「女の子になることを拒否している女の子」なんですよ。要するに「子」です。だからミチコのファッションもハッチンは不愉快に思っているんです。そんなミチコとハッチンがお互いに代えがたい存在になり、変わっていく様を描きたいんです。



(中略)



−山本監督ご自身のお話もお伺いしたのですが、はじめから監督を目指してこの業界に?



山本 まったく目指してないです(笑)。ただ、自分のオリジナル作品は作りたいって、ずっと思ってました。最初は制作進行で、途中からコンテを描きまくり、今にいたる感じです。



−女性でハードな制作進行上がりというのも、珍しく感じたのですが。



山本 あ、最近多いんですよ。女子の方が根性あるから(笑)



−なるほど(笑)。監督は、ミチコとハッチンだったらどっちですか?



山本 難しい質問ですねー(笑)。ハッチンっぽい時もあったと思うし、ミチコだったときもあったし。今はどちらでもないのかもしれません。



−では最後に、本作の見どころを監督から聞かせてください。



山本 ハッチンの成長が物語にとって重要な要素になってくるので、そのあたりはぜひ注目してみて下さい。あと、ロクでもない男ばっかり出てくるのも見どころですね(笑)。ホントに、クズ野郎ばっか!(笑)



−監督は「基本的に男なんてダメなもんだ」と?



山本 そこまでは思ってないですが、この作品を思いついたと時、丁度男と別れたところで(笑)。彼氏もいないから女友達と旅に出て、そこで思いついた話だからかもしれないですね。




                                        オトナアニメ10号 100、101ページより一部抜粋







このインタビュー記事を読んで感じたのは、女性が持つ「生々しい部分」や女性が持つ「強さ」等を描いたアニメ作品って今まであんまり無かったように思える*1、それに対して山本沙代監督が反旗を翻したように感じた。映画、小説、演劇、漫画等では既に多く描写されているけど、テレビアニメ作品の女性像って従順で、優しくて、主人公を応援するタイプが多かったのではないのだろうか。最近では、完全に「萌え」キャラとしての女性像が定着しているように感じる。インタビューでも言ってるように、女性として山本監督はそういう既存の女性像にフラストレーションを感じていたから、「ミチコとハッチン」を作ったんだなという事がわかる。ほとんどのアニメ作品の女性像って男性の理想的過ぎるというか、なんというか。山本監督はそういう所に、「いやいや、女性ってホントはこんな感じだぜ」と男性視聴者に提示したいんだろう。一話目から「ホントの女って奴はこうなんだよ」っていう匂いがプンプンしていたし。





山本沙代監督は「ミチコとハッチン」で、「女性が描く女らしさ」という分野を新たに開拓しようとしているのではないだろうか。









オトナアニメ Vol.10 (洋泉社MOOK)

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*1:松尾衡監督は「女性」を意識して作っていたけど