『君に届け』第5話が面白い〜色彩と光と風〜

色彩と光と風


 第5話「決意」で目にとまるのは、「光の明と暗」、そして「色彩」。登場人物たちの心理状態にリンクしているかのように、画面に映し出される光と色彩は変化していく。


 Aパートは「わたし、どうしたらいいの」という黒沼爽子の台詞と共に始まる。画面は黒と青の色彩に占拠されており、涙と思われる雫が画面上から落ちてくる。こぼれる雫(涙)に呼応するかのように、食事中の彼女はご飯粒をぽろぽろとこぼす。黒と青の色彩によって、一瞬にして思い悩む現在の爽子の暗い心情を理解ができる。この冒頭のショットが象徴するように、印象的な色彩の使われ方が第5話の特徴になってくる。テスト当日、爽子は教室に入るのだが、何故かいつにも増して教室は薄暗い(前話と比べると)。窓から光が差しているのにも関わらず、どんよりと教室の中は薄暗くなっている。それと同時に教室の光の明と暗が強調されている。テストということで、席順は出席番号順になっており、爽子、矢野あやね、吉田千鶴、風早翔太達の席はバラバラに配置される。第2話「席替え」で示されたように、爽子の席の周りに集まってできた風早達の席は、爽子と矢野・吉田・風早達の融和の象徴であり、あの席の集まりは彼女/彼の絆の表れそのもの。その融和の象徴である席の集まりがバラバラになってしまったのは、爽子と矢野・吉田・風早達の絆が壊れかかっていることを端的に表している。「席」を効果的に使い、彼女/彼達の現在の状況を描く。いつもの席(吉田・矢野)から離れ、別の場所の席にすわる爽子。矢野達から離れ、その離れた席に座ると爽子の姿はより一層暗くなる。窓から席が離れているため、窓からの光があまり当たらず、テストを受けている爽子の姿はあまりにも薄暗い。その薄暗さは、矢野達との関係に苦悩する彼女の心情を表す(図1)。テスト中、爽子はいつもの窓際の席での矢野達との日々を回想する。その回想は煌びやか且つ華やかな、明るい色彩になっており、薄暗く色彩が乏しい現在の教室と対比されている。矢野達との楽しい日々は華やかに映し出され、矢野達と若干距離が生じた現在はその富んだ色彩は失われ白と黒が比重を占めて映し出される。色彩の対比を描くことにより、いかに矢野達との日々が大切で自分が欲していた日々なのかを視聴者に強く印象付ける。爽子が涙をこぼし「もう、どうやって一人でいられたかわからない」と呟く時、爽子を残し画面は白に覆われる。色の消失は彼女の喪失感・迷いを表しているようにみえる(図2)。

図1

図2




 テストを受けている場面から切り替わり下校の場面。木漏れ日の中、爽子は下校する。その姿は木の影に覆われ、太陽から差す眩い光は爽子を十分に照らすことはない。影は強調され、彼女の沈痛な心情が画面から伝わってくる。爽子が顔を上げると道の先には夏休みの初日と同じく風早が待っていた。「なんで避けるの?」と問いただす風早に「私と喋らないで」と返す爽子。しかし、次の瞬間「やっぱり、言えません」と大声で泣きじゃくりながら、今まで自分の中にため込んできた自分の本当の気持ちを抑えきれず風早の前で吐露する。自分の気持ちを吐露した瞬間に、爽子の姿は華やかな色彩で彩られる(図3)。彼女が気持ちを表に出したときに、暗い色彩は影を潜め、明るい色彩へと転換する。風早が「噂なんてどうだっていい。俺にとっては、俺が見ている黒沼だげが黒沼だ」と言い放つと、木の間から眩い日光が差し込み、前までの暗い影を一蹴する。爽子と風早は光(=幸福)に包まれ、爽子達に「そよ風」が吹く。光の明と暗と色彩を使い、爽子と風早の心情・関係が転換・変化する様を視覚的に描き、映像面から物語をより活性化させる。風早と会話する前(図4左)と会話した後(図4右)で同じような構図のショット(前者は影が強く、後者は光が強い。距離も縮まっている)を反復することによって、関係が変化したさまを表している。

図3

図4




 公園のベンチへと場面が切り替わると、あの薄暗い教室や影が強かった木漏れ日の道とは打って変わり、華やかで美しい色彩に富んだ木々の緑の風景と輝かしい光が画面一杯に映し出される(図5)。風早と爽子の絆が戻ったさま、爽子の陰鬱な気持ちが風早によって吹き飛び晴れ渡ったさまが、十二分と言っていいほど表されている。ベンチに座っている二人を捉えたロングショットでは、画面の半分を花壇の綺麗な花達が占拠し、後で中央にはレンズフレア(だと思われる。本編中よく出てくる泡なのかもしれんが・・)が映し出される(図6)。爽子の喜びに溢れる心を花壇の花が表し、フレアがそれに拍車をかける。この場面では煌びやかな色彩と光で溢れた背景で、風早と爽子が幸福に包まれている様子をこれでもかと描く。あの薄暗い教室との対比がかなり強烈。

図5

図6




 矢野と吉田が橋の上で爽子について話す場面。夜の闇の中、光源は電灯の明かりだけ。爽子のことについて話が進む中、電灯の人工的な光が、ぼんやりと温かな・やわらかな光へと変化する(図7)。それは、矢野たちが爽子のことが大好きだと気付いたときに変化したことであり、矢野たちが気付いた爽子への好意・愛情が温かな光に滲み出ている。温かな光によって彼女たちが幸福に包まれている様に見える。この時、風早と爽子の時と同じように矢野たちのもとに「そよ風」が吹いている。そのそよ風は部屋の窓を開けた爽子のもとにも届く。そよ風が吹くとき、登場人物たちは互いの気持ちを通じ合わせる。そよ風は登場人物たちの心が融和する契機として機能している。矢野たちに吹いていたそよ風が爽子のもとにも吹くことから、矢野たちと爽子の心は会わずとも、会話せずとも、もうすでに融和し、心は繋がっているようにみえる。

図7




 Bパートラスト、トイレでの爽子と女子生徒たちの場面。話が進むに連れあれほど明るくなったのに、また暗くなる。窓からの入射光によって光と影の陰影がこれまた強くなっている。爽子の後ろから差す窓の光は、彼女が強くなったこと・意志の強さを印象つけるが、女子生徒たちに光を遮られてしまう(犯罪者って女子生徒が言う所ではイマジナリーラインを越えている?)。いままで薄暗い中では、弱気になっていた爽子だが、最後彼女は拳を握る。それは、陰湿な女子生徒たちを前にしても、友達のために立ち向かう彼女の強さの表れで、それで第5話が終わるのは成長した姿というか、サブタイトルにもなっている爽子の「決意」が垣間見える。




おまけ


 ここでの爽子と風早結構良いな。