『獣の奏者エリン』についてのまとめ〜その1〜


獣の奏者エリン 1 [DVD]

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 『獣の奏者エリン』の個人的な感想まとめみたいなものを、最終回に向けて前から少しずつ書いていたのですが、ちょっと長くなったので「最終回の感想+物語について」と分けて、先に出すことにしました。「最終回の感想+物語について」は第50話「獣の奏者」が終わってからその2で出します。



 その1は観始めたきっかけとスタッフについて。




 『獣の奏者エリン』を観だしたのは、前番組だった『テレパシー少女 蘭』を観ていた流れで、なんとなく観始めたのがきっかけでした。別に前から期待していた作品でもなかったし、上橋菜穂子さんの原作小説『獣の奏者』を読んでいたわけでもなかったので、本当になんとなくで観始めました。監督は浜名孝行、シリーズ構成は藤咲淳一。キャラクターデザインに後藤隆幸。制作はプロダクションI.Gトランス・アーツ。という制作の事前情報を聞いた時は、かなり失礼ですが、あまり興味もわかず「ふーん」程度でした。


 あんま期待しないで視聴した第1話「緑の目のエリン」。まず目を引いたのは、宮沢康紀さんの作画。闘蛇(作中に登場する獣)を抽象的に描いた迫力と力強さがあるイメージ映像(宮沢康紀さんはその後も参加している)。それを観て、「なんか面白そうだな」とかなり漠然とした考えで視聴を継続することに。スキマスイッチが担当するOP曲「雫」が気に入ったのも視聴を継続する一因でした。




 そして、魂消たというか、衝撃を受けたのは、第6話「ソヨンのぬくもり」(脚本・吉田玲子、コンテ・布施木一喜、演出・布施木一喜/高島大輔、作画監督・澤田譲治)と第7話「母の指笛」(脚本・藤咲淳一、コンテ/演出・布施木一喜、作画監督・杉本道明)の二話でした。エリンの母親・ソヨンが世話をしていた「牙」(闘蛇)が全て死亡した罪で処刑されてしまう序盤のクライマックスの話を第6話と第7話の二話を使って描いている。この二話があまりにも秀逸すぎて、僕はびっくりした。特にソヨンが処刑される第7話が凄かった。スタッフを見てみると、布施木一喜さんの名前が目に止まるだろう。全話において演出を担当している(連名で)布施木一喜さんの手腕がすごいのなんのって。第7話は本当に圧巻だった。


 僕が布施木一喜さんの名前を覚えたのは『ARIA』第1期の助監督を務めていた時であり(その後のシリーズでもコンテ/演出などで参加している)、『攻殻機動隊』とかは完全にスルーしていた。その後、浜名孝行監督の『ウエルベールの物語』や『図書館戦争』で名前をちらほら見るようになったけど、それほど意識はしていなかった。

 この『獣の奏者エリン』で初めて意識して、僕はファンになる。




 第7話では冒頭、紅葉した真っ赤な葉と闘蛇の像が捉えられ、それが後半の闘蛇に食い殺されるソヨンへの暗喩として機能していた。ソヨン処刑の時は真っ赤な葉が繰り返し映し出されて、悲壮と死が色濃く描かれていた。第7話はストーリーもすばらしいのだが、この映像面が特に優れており、カット割りも、作画も(第7話は作画監督である杉本道明さんの一人原画)、どれも物語を十二分に盛り上げていた。エリンとソヨンの別れをあますことなく描いていたのは見事としか言いようがなかった(これは当時の感想)。ラストに流れるOP曲であるスキマスイッチの「雫」はより物語をドラマチックに仕上げていた。第6話と第7話を観て、僕は『獣の奏者エリン』の信者というか、大ファンになる。




 布施木一喜さんがコンテを担当する回はどれも素晴らしい。布施木一喜さんの特徴の一つとして、一つのイメージを何回も反復することがあげられるだろう。それは、前述した第7話での真っ赤な葉と闘蛇の像や、最近で言えば第46話「ふたりの絆」など、布施木一喜さんがコンテを担当した回ではよく見受けられることだ。ここまでしなくてもいいだろとか思っちゃう時もあるが(節約なんじゃないのかと思う時もある)、あの執拗に繰り返される一つのイメージから別の新たなイメージを構築しているのではないか、とかいろいろ考えてしまう。現にその方法は映像上成功しているように思える。僕が布施木一喜さんの回で一番印象に残っているのは第27話の「ヒカラにおちて」であり、多分『獣の奏者エリン』の中でも異色中の異色の回だろう。なんで布施木一喜さんの回と言うと、コンテと演出(連名)だけでなく、脚本まで担当している回だからだ(脚本/コンテ・布施木一喜、演出・齋藤昭裕/布施木一喜、作画監督・杉本道明)。僕が思うに、布施木一喜という人物が一番色濃く出ている回なのではないのだろうか。異色の回だといったが、今までのエピソードとは毛色がかなり違い、現実と夢(ヒカラの世界)を彷徨うエリンの姿とヒカラでのソヨンと再会が描かれる。この回の雰囲気をなんと言ったらいいのか、僕が第27話について書いた記事では、『ラーゼフォン』第11話「虚邪回路」みたいな話と書いたが、今となっては適切だったのか判断に悩む。うまく言葉に出来ないが、不思議で幻想的なエピソード且つ、布施木一喜さんの高い表現力があらわれた回だったと思う(詳しくはこれを参照してください)。




 布施木一喜さんの他に、僕が好きなスタッフは監督である浜名孝行さんと玉川真人さんの二人。




 玉川真人さんは、作品の中盤である第25話「ふたりのおつかい」(脚本・坂井史世、コンテ・玉川真人、演出・安藤貴史/布施木一喜、作画監督・薄谷栄之)のコンテで初登場。第25話はヌック(声・藤原啓治)とモック(声・アメリカザリガニ/柳原哲也)というアニメオリジナルキャラクターのドタバタギャグ回で観ていてかなり笑ってしまった(唯一のギャグ回だったかも)。ヌックとモックはエリンが幼い時からずっと側にいるキャラで、視聴者と共に成長を見届けている、視聴者の分身みたいなキャラだと僕は思っています(ナソンもいますが)。エリンの容姿が成長とともに変化していくのに対して、二人の容姿がまったく変化しないのは示唆的なのかもしれません。また、『獣の奏者エリン』の唯一のギャグキャラと言ってもいいでしょう。物語を面白くしてくれる好きなキャラクターです。柳原哲也さんのあの独特の声質がモックのキャラに異様に合っており、藤原啓治さんの演技も素晴らしいです。そんなヌックとモックをより魅力的に面白おかしく描いてくれるのが、玉川真人さんだと僕は勝手に思っています。第36話「卒舎ノ試し」(脚本・後藤みどり、コンテ・玉川真人、演出・高島大輔/布施木一喜、作画監督・松浦仁美)での今までとは違うオーバーなリアクションのヌックとモックのギャグシーンなど、玉川真人さんがコンテを担当した回はヌックとモックのギャグがかなり面白く、気に入ったキャラクターなのかなと思ったりしてしまいます。シリアスな回もとてもうまく描いているのが素晴らしいです。




 浜名孝行監督は、隠喩というか、間接的な描写を多用するなと僕は思っています。第15話「ふたりの過去」での動物を用いたものや、第21話「消えそうな光」でのかたつむり、第47話「清らかな夜」での風車など、他にも挙げれば多くあります。監督の担当した回はどれも興味深いものとなっています。特に第15話「ふたりの過去」(脚本・藤咲淳一、コンテ・浜名孝行、演出・齋藤昭裕/布施木一喜、作画監督・田畑昭)は全編に渡って、隠喩が散りばめられており、見応えがある回となっていると思います。布施木一喜さん、浜名孝行監督、玉川真人さんの三人は物語終盤に進むにつれてコンテを担当する回が増えてきているのを見ると、この作品において重要な三人なのかなと思ったりしています(何らかの事情があるのかもしれないですが)。




 ストーリーやらキャラクターについてはその2で。