『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』第11話が面白い〜アーイシャと音による交流〜

 第11話「来訪者・燃ユル雪原」では、正統ローマ帝国の女性兵士・アーイシャが登場する。ヘルベチア共和国と正統ローマ帝国の緊張も高まり、休戦状態から開戦間近の状態となる。また、アーイシャとホプキンス大佐の登場により、ノエルの過去も明らかになっていく。


 カナタ達とアーイシャは何にも変わらないと示す描写や、アーイシャの話すローマ語を理解できないカナタ達が言語で交流するのではなく音楽によって交流をはかっていくことなど、見所は多い。



雪原の足跡と流れる雲


 Aパート。カナタとクレハは、パトロールのために雪原を歩く(第10話においてのジャコットの失踪を気にするカナタ)。ここでは、雪原の足跡による小ネタがあり、クスッと笑える。カナタとクレハが雪原に残した足跡には、カナタが躓いて倒れたのであろう体の跡が雪に残されており、また立ち止まって注意でもしたのだろうかクレハが一箇所で足踏みしている跡も残されている。雪原に残された足跡による過去の出来事(時間)の視覚化。カナタのドジっぷりとクレハのしっかり者の性格を一瞬にしてあらわしている。




 雪原をパトロールするカナタとクレハ。カナタ達を捉えたロングショット、上空の雲の移動によって、一時雲の影に彼女達は覆われる。日の光を遮る雲は、これから起きるであろう事件を暗示させる。流れる雲は同時に、画面奥にいるアーイシャを日の光で照らし(雲の間から差し込む光によって)、カナタ達と導き合わせる。


 カナタとクレハは倒れているアーイシャのもとへと駆けつける。カナタとクレハはコートを脱がせて軍服を見るまで、ローマ兵だとは気付かない。それは、ローマ兵を知らぬ彼女たちの無知から来るものもあると思うが、軍服を見ないとローマ兵だとわからない見た目は、アーイシャが自分達と何ら変わらないことを指し示してくれる。カナタはローマ兵を鬼みたいな人だと思っていた事をこの後打ち明けるが、本当は自分と何も変わらないただの少女なのだ。


 アーイシャがローマ兵士だと知った時、流れる雲が再びカナタ達を覆い、影に包みこまれる。雲の影は、カナタ達の心が不安で覆われるかのように、彼女たちを影で覆い隠す。



揺らぐ第1121小隊

 アーイシャを時告げ砦まで運び、介抱するカナタ達。アーイシャを見たノエルは激しく動揺する。ノエルに一体何があったのか? そのことについては後述する。アーイシャをノエルに任せて、カナタとフィリシアとクレハはアーイシャの処遇について会話する。フィリシアは、アーイシャのバッグからラッパと拳銃を取り出す。ラッパを取り出した時にカナタは反応し、拳銃を取り出した瞬間、クレハを捉えた短いショットが挿入される。この二つの小道具によって、カナタとクレハの認識の差異がよくあらわれている。カナタはラッパを見て、ローマ兵も私たちとは変わらないのだと確信する。カナタは自分と同じくラッパを使うローマ兵について楽観的に認識するが、拳銃を見たクレハは緊張する。カナタにはラッパしか見えていなく、拳銃(=脅威)を見落としている。逆に、クレハはラッパがよく見えていないだろう。二人の対照的な認識が浮き彫りとなる。


 このシーンでは、クレハ達の会話を主に切り返しで見せていく。クレハ達を捉えたショットには、人物(カナタやクレハ)と並置される形でランプが画面の半分を占拠する。ランプを軸にしてカナタ達の会話が見せられていく。アーイシャの処遇についてどうするか揺れ動くクレハやフィリシアの心情と連繋するかのようにランプの炎はゆらゆらと揺れる(中央に置かれたランプによって人物の配置を明確にしているのかもしれないし、画面にアクセントを加えるために配置されているのかもしれないが)。揺れるランプの炎は、人物の心理を投影したかのように機能する。

 登場人物の心の揺幅を揺らぐ炎の照明が補強しているかのようにみえる。そのためにランプが画面の半分を占拠し、人物と並置されているのかもしれない。



音楽による交流


 目を覚ましたアーイシャは、介抱していたノエルに襲いかかる。体温計を壊し凶器にして、ノエルに押し倒すアーイシャ。押し倒されたノエルはアーイシャの胸を鷲掴みにする(ちなみにノエルは左利きなのだが、右手でアーイシャの胸を掴む)。胸を掴まれたアーイシャは悲鳴をあげる。ここまで、ローマ兵は私たちと何も変わらない、アーイシャはごく普通の少女たということが提示されてきたが、ここでもまた繰り返し提示される。胸を掴まれ悲鳴をあげるアーイシャの反応は、乙女の当たり前の反応。また、シーツで胸を隠し頬を赤らめ恥じらうアーイシャから伝わってくるのは、彼女がカナタ達と何ら変わらない普通の乙女の姿。言葉や肌の色は違うが、本質的な所はカナタ達と何ら変わらない。


 アーイシャが持っていた強い敵対心や不信などを(襲いかかるほどの)、ノエルは胸を掴むことによって一瞬にして払拭する。ノエルは、アーイシャの左胸(心臓)を掴み、彼女の心までも掴んでしまった。




 アーイシャの話すローマ語をカナタ達は理解できない(というかドイツ語?)。その逆に、ヘルベチア語をアーイシャは理解できない。言語による交流は不可能と云っていいだろう。食事を与えるシークエンスでも、カナタは「おいしいとアーイシャは言った」と云うが、実際の所アーイシャがどのような感想を云ったかは不明だ。多分、アーイシャは「おいしい」とは言っていないだろう。認識のズレが生じていることが示される。


 カナタ達とアーイシャの間には言語による交流能力が喪失している。では、どのように交流をはかるのるか? カナタ達は、言語による交流の代替として音楽を使用する。カナタはトランペットで音楽を奏でる。カナタはアーイシャにトランペットを渡し、アーイシャはカナタと同じく音楽(「アメイジング・グレイス」)を奏でる。カナタはヘルベチアもローマも関係なく、音は変わらず響くことに感激する。


 音楽による交流が契機となり、アーイシャは心を開いていく。アーイシャとカナタが音を響き渡らせたことにより、ノエルの垂れた鼻水を見て、初めてアーイシャは笑顔を見せることになる。


 発話ではなく、音によって、人と人は繋がることができる。音は必ず響いて想いは相手へと伝わる。



ノエルの過去


 ユミナとナオミが時告げ砦を訪ねてくる。アーイシャの存在が街の皆に気付かれ始めていることが知らされ、ヘルベチア軍が時告げ砦に向かって大規模に動いていることも知らされる。ユミナはローマ語を駆使して、アーイシャと会話する。そんな中、ホプキンス大佐が時告げ砦へとやってくる。ホプキンスという名前を聞き、取り乱すノエル。ノエルの過去に何があったのか?


 第11話での断片的な過去の映像では、明確にはわからないが、第4話「梅雨ノ空・玻璃ノ虹」ではノエルの過去を示すものがいくつかある。第4話について書いた記事から引用する(こちらの記事を参照)。


 ガラス工房でのカナタとノエルの会話

ノエル「カナタ、僕は機械が好きだ」

カナタ「うん」

ノエル「でも、機械は人を傷つけることもある。タケミカヅチもきっと昔、たくさん人を殺してる。昔、人を殺した機械は、やっぱりこわいと思う?

カナタ「うん」

ノエル「・・・」

カナタ「でも、もっとこわいのは、機械じゃなくて、それを使ってた人たちかな。だって、だって、このラッパ、私が吹くとあんななのにリオ先輩が吹くと、とっても綺麗に歌うんだもん。戦車だってきっと同じでしょ。」

カナタ「それにこの前ね、リオ先輩にタケミカヅチの歌を聞かせてもらったの。あんなに綺麗に歌えるんだもん。きっと良い戦車だよ、タケミカヅチは。」


 ここのやりとりを聞くと、ノエルは大量に人を殺した過去があったのかな? なんて思ったりしました。タケミカヅチについてじゃなくて、ノエル自分自身のことを差し示しているかのように聞こえた。

 セイヤに「人殺し」と言われてハッとしてましたし。

 また、第7話「蝉時雨・精霊流シ」では、「フィーエスタ・デュ・ルミエール」という川に灯籠を流し死者の魂を慰める行事中、ノエルの表情は暗く、俯いていることが多かった。


 第4話・第7話から推測するに、ノエルはたくさんの人を殺めたことがあるのではないか。それがトラウマになり、ローマ人のアーイシャに優しくし(贖罪のため)、ホプキンス大佐を怖がる。それには、「見えない死神」も関係してくるのだろう。


 『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』では、このような伏線の積み重ねが多く、緻密に構成されている。



変化の音


 ホプキンス大佐が引き連れてきた黒のコートを羽織った部隊。大量の「黒」が画面に押し寄せ、その様相から少なからずとも不安な印象を与えるだろう。大量の「黒」は、緊迫した空気を生成し、ものものしさを生みだす。踏みつけられたクレハのぬいぐるみは、今まで通りの時告げ砦(=日常)ではいられないことをを指し示してくれるだろう。その時に聞こえてくる、あわただしい軍人たちの足音、ドアを壊す音。


 カナタ達の所まで聞こえたノエルの今までに聞いたことのない叫び声。ノエルが扉を倒した際の轟音。第2話で絶対に鳴らないことをギャグにしたホットラインが、「リリリリン」とけたたましく鳴り響く。ローマ軍の侵攻と共に発せられる戦車の走行音。本編の最後に鳴り響く銃声音。今までになかった鳴り響く騒がしい音が、変化を告げる合図となる。生成される騒がしい音たちが、聴覚を通して、緊張感を高めてくれる。



最後に


 カナタが第1話で見た「天使の化石」、「見えない死神」とホプキンスとノエルの関係、ローマ軍の侵攻、旅立ったリオ、完成したであろうタケミカヅチ、炎の乙女、今まで積み上げてきたものが一気に動き出す。最終回がどうなるのか期待。