『閃光のナイトレイド』第5話「夏の陰画」が面白いとメモ


 短めにメモ。



 第5話「夏の陰画」には、西尾という男が登場する。西尾と伊波葛は過去に何かあったようなのだが、その具体的な「過去」は一切語られることはない(友人だということだけ)。伊波葛も西尾も、過去を語ることはしないのだ。


 二人の過去は、台詞によって語られず、映像で語られていくことになる。



 アバン。写真館でのシーン。落とした新聞を風蘭が拾おうと机の下に潜ると、葛の足にある大きな傷跡を見つける。葛によると、子供の時に友人と遊んでいた時に、割れた竹を踏んだ際にできた傷らしい。「傷跡」が、第5話の主題になってくる。



 伊波葛は、あるパーティーの集合写真に写っていた男(西尾)に目が行く。葛は、集合写真に写っていた西尾を探すべく、方々に聞き込んで回る。その最中、自分が尾行されていることに気付く。尾行していた者は、愛玲という女性だった。愛玲もまた、葛と同じく西尾を探しているらしい。葛と愛鈴は、西尾を「探し求めている者」同士。

 この後、愛鈴と葛は国民党の諜報機関に捕えられてしまう。国民党も同じく、西尾を探しているのだった。西尾は、皆から「探し求められる」。



 西尾という人物とは一体何なのか? そもそも、葛はなぜ西尾に執着するのであろうか。今回の葛は、いつもの葛とは違う。国民党の諜報機関に捕えられるなんて、普段の彼からは考えられない。三好葵曰く、葛にしては「らしからぬ失態」だ。西尾と関わるなと云われても、葛は愛鈴に会いに行ったりと、西尾と探すことをやめようとはしない。彼の西尾への執着ぶりは、ちょっと異常である。


 どうしても、西尾を求めてしまうのだ。それは、何故か?


 Bパート。どしゃ降りの雨の中、葛は愛鈴に会いに行く。愛鈴の自室でのシーン。愛鈴に腕の傷跡の話を聞かされる。西尾と一緒に乗った車で起きた事故による傷跡らしい。助けが来る間苦しんでいる愛鈴を見て、西尾は自分の腕にも同じような傷を付けたという(硝子で)。その出来事により、彼女は西尾に惹かれることになる。愛鈴曰く、西尾という男は人の心を掴むためなら何でもする男らしい。

 彼は、人の心を掴む術に長けているらしく、人を魅了してやまない男なのだろう。



 この時点で、察しのいい方は気付いていると思うが、葛と愛鈴は「傷跡」を持つ人間だ。ストーリーを先回りして云えば西尾の足には、葛と同じ傷跡がある(ラストで示される)。それは、愛鈴の時と同じく、葛のために西尾が自分で傷つけたものだろう。そう、愛鈴と葛は、傷によって西尾に心を掴まれた人間なのだ。愛鈴と葛は相似形である。二人は、西尾に魅了され、西尾を追い求めてしまう人間なのだ。



 葛と西尾の過去は、言葉で語らず、「傷跡」によって語られる。



・・・・



 逃げてきた西尾と葛が蛍が飛び交う水辺で会うシーン。ここのシーンの台詞は、

西尾「誰だ?」


葛「憶えてないか?」


西尾「俺を追ってるのか?」


葛「一度会いたかっただけだ。今のお前がどうしてるのか」


西尾「俺は先を急いでいる」


葛「・・・そうだったな。いつもそうだった」


葛「お前を待ってる人がいる」


西尾「愛鈴のことを云ってるのか?」


西尾「・・・済んだ話だ。悪いな、俺はまだやることがあるんだ」


 ここのやりとりをみると、西尾が葛に気付いたかどうかは曖昧だ。気付いていないようにも取れるし、気付いているようにも取れる。はじめ、西尾は葛と離れた位置に居たため、葛だとは気付かなかったかもしれんが、すれ違う際には、葛の顔は確認できただろう。西尾は葛に気付いたかもしれない。しかし、言動には気付いたかどうかの明確な答えはない。とにかく、ここでは、西尾が葛に気付いていようがいまいが、西尾にとって葛はすれ違うだけの存在になっている(つまり、どうでもいいような存在)。気付いても、気付かなくても、西尾の行動は変わらない。西尾は、いつも先を進み、後を振りかえらない男なのだ(愛鈴のことを済んだ話だと片づけるように)。それが、彼の魅力なのだろう。


 西尾が葛から去っていく時、イマジナリーラインが越えられる(意図的に)。葛は、去っていく西尾の方を振り返ってはいないのだが、まるで去っていった西尾の方を向いたようになっている。

 
 葛は画面右方向を向いている。


 ショットが切り替わると、画面左を向いている。


 それは、葛の西尾に対する未練、西尾への残滓のようにみえる。西尾の方を向いてはいなのだが、西尾を向いているようになってしまっている。葛(愛鈴も)は、どうしても西尾の方に向いてしまうのだ(求めてしまう)。だが、葛はまた西尾を求めて探すことはないだろう。実際には、西尾の方を向いてはいないのだから。


 愛鈴曰く、

愛鈴「あの人はね、夏のようなの」


葛「夏?」


愛鈴「激しくて、危うくて、一緒にいると、こちらがバテてしまいそうになる。でも、去ってしまうとまた・・・」


愛鈴「あなたもどこかでそう感じているんじゃない?」


愛鈴「馬鹿みたいね。夏は必ず去っていくのに」


 去ってしまうと、また求めてしまう。西尾を。


 夏のように西尾は去っていく。葛の前から、愛鈴の前から(多分、愛鈴は西尾を待ち続けるのだろう)。去って行った西尾はどうなったのか。


 蝉を捉えたショット。夏の間、けたたましく鳴きつづける蝉。この後西尾は、木から地面に落ちて小刻みに震えて動く蝉のように、二階から落ちて地面に叩きつけられ(刺客に銃で撃たれたため)、指を小刻みに震えて動かす。震える指からパンして、傷跡がある足が捉えられる。先述した足の傷跡はこのこと。そして、雨が降り出し、第5話は終了する。




 タイトルになっている「夏の陰画」。陰画(ネガのこと)とは、実物と明暗が逆になっている画像(カラー写真の陰画では更に色彩が被写体の補色となっている。広辞苑より引用)。先述した通り愛鈴と葛は相似形である。陽画は、愛鈴であり、陰画は葛のことなのだろう。表で語られる愛鈴、裏で語られる葛。愛鈴の陰画が、葛であったのではないか。



 二回降る雨や葛にとまった蛍や西尾は葛に気付いていたのかどうか等々。色々と気になる所があった回。



 脚本/大西信介・阿谷映一、コンテ/上杉菜美、演出/筑紫大介、作画監督/岡崎洋美・山田裕子