『うさぎドロップ』第1話 さりげなく見事な二人の距離の縮まり方の描写


 第1話「りんどうの女の子」について思ったことを。

 脚本/岸本卓、コンテ・演出/亀井幹太、作監/山下祐。


 大吉とりんが、心理的にも身体的にも徐々に接近していき最後に心を通わせる描き方が見事だった。


庭の意味、時計、光と影


 祖父の自宅の玄関先で大吉とりんが出会うシークエンス。庭にリンドウの花を持って立っているりんと大吉は、お互いに目が合う。一瞬目が合うが、りんはすぐさま走って庭の奥の方へと逃げて行ってしまう。


 第1話において、『庭』と『リンドウ』の花は重要な意味を持っている。


 「庭」という場所は、リンドウの花が咲くりんと祖父との特別な場所であり、親戚一同から邪険な扱いをされ居場所がないリンの唯一の居場所でもある。りんは常に庭や廊下や部屋の端っこに追いやられ、親戚のものから遠ざけられている。



 第1話においてりん以外庭に足を踏み入れるものはいない。親戚の誰一人として、リンドウの花が咲く庭に下り立つことなく、ずっと屋内の部屋の中にいる。りんだけが庭という場所にいる。庭はりんの居場所なのだ。その庭というりんの心理的場所にただ一人足を踏み入れたものがいる。それは、大吉だ。彼ひとりだけが、部屋から庭に下りてりんに会いに行く。大吉が庭に下りてりんに会いに行くのは一体何時なのか、どういう意味を持つのか。

 庭に足を踏みいれることは、りんと触れ合おうということ・心を通じ合わせようということ。大吉は、親戚一同誰も近寄らないりんに対して唯一接近していく。

 庭に足を踏みいれることは、りんの心の中(心の領域)に足を踏みいれることと同義といえる。また、庭に入っていける/庭に入ることを許可されるのは、リンと心を通じ合わせられる人物だけだともいえるだろう。



・・・・



 当初、りんは大吉から逃げる。大吉が近づこうとすると、りんは走って遠ざかってしまう。りんは大吉に近づかず、遠くから(陰から)様子をうかがう。大吉が祖父に線香をあげる所を障子の陰から見ているりん。「大往生じゃねえか、じいさん」と大吉が云う。ここで大吉のアップショットからディゾルヴして祖父の遺影のショット、りんのクロースアップショットへと繋がる。この一連の流れから分かるように、大吉と祖父はどこか似ている(親戚からも言われるように)。りんは祖父と同じ匂いを大吉から感じ取ったのだろう。りんが大吉に懐くのは、そういう理由もあるといえる。そして、りんと大吉は徐々に接近していく。




 座布団を運ぶ大吉。そのあとをこっそりとつけるりん。途中で大吉に見つかり、りんは逃げて行ってしまう。大吉が気になっていくりん。二人の距離は徐々に近づいてる。



 親戚一同が酒を飲みかわしているシーン。りんが疎外されているのが明確にわかるショット。光の明と暗。それと柱(障子)で区切られ、大吉+親戚とりんは別だということが視覚的に提示される。しかし、りんと大吉は同一の対象物を見る。それは満月だ。親戚たちは満月をみることはなく、りんと大吉だけが満月を見る。二人は同じものを見ている。同じものをみることができる。それは、大吉が他の親戚のものたちとは別で、りんと分かち合える存在だということを指示してくれる。




 風呂から上がり、線香の番をすることになった大吉。そこには、眠たいのを我慢して起きているりんがいた。ここで二人は初めて会話をする。又、りんは初めて他者と会話をする。

「お前も向こうで寝てきな」


「うん、大丈夫」


 結局りんは大吉の手を枕に寝てしまう。今まで逃げてきたりんが今度は逃げず、大吉のそばにいる。りんが大吉に心を許していることがわかる。離れていた彼と彼女の身体的距離も、心理的距離も大幅に縮まった。りんと大吉は心を通わせていく。




 祖父とのお別れのとき、りんに近づいたのは大吉だけ。りんはリンドウの花を取りに裸足で庭に下り、リンドウの花を祖父に添える。


 祖父と別れを告げ、葬式が終わる。ここで振り子時計の針は停止する。それは、祖父とりんの時間が止まったことをあらわす。リンドウの花を添え、祖父と別れを告げたりん。祖父との時間は終わったのだ。では、りんとこれから時間を一緒にするのは誰なのか? 停止した時計のを再び動かすのは大吉だ。これからはりんと大吉の時間が新たに始まる。二人の時間が動き出した。

 時計を利用して、祖父との別れ、大吉との始まりを端的に示唆する。



 葬式も終わり、りんをどうするのか話あう親戚一同。しかし、りんを忌避し誰も引き取ろうとはしない。りんを施設に入れようという話が出た瞬間、大吉は立ち上がる。


 ここで、大吉はりんがいる庭に下りるのだ。誰も入ろうとしなかった、入れなかった庭に。りんの心の中に、大吉は足を踏み入れた。りんも庭(=心の
中)に入ってきた大吉を受け入れる。


「りん。俺んち来るか?」



 影の中にいるりん。日の当たる場所にいる大吉。りんは、何も言わずリンドウの花を持って大吉の元へと駆け寄る。大吉は影の中にいるりんを引きずり出し、日の当たる場所へと連れて行く。今までりんはほぼ日陰の中にいた(第1話中ほぼりんは日陰の中にいる)。ずっと陰にいたりんを大吉は連れ出したのだ。そして、りんも大吉がいる日の当たる場所を望んだ。やっと光の中へと入れた。




 次のシーンでは、大吉とりんは朝日の当たる部屋の中におり、二人はやさしいあたたかい光に包まれている。




 庭に祖父の庭と同様、リンドウの花が植えられている。祖父から大吉へと受け継がれた。


・・・・


 感動的な第1話目だった。面白かったです。次回が気になる。


おまけ


 枕が一つしかないため、りんに枕を渡し、自分は座布団を枕にして寝る。




 ちゃぶ台に届かないため、座布団を二重にして座るりん。




 こういうさりげない描写好きだ。