『氷菓』 坂本一也回の折木奉太郎と福部里志の関係描写


 『氷菓』第16話「最後の標的」を見終えてちょっと驚いた。坂本一也さんって、こんな派手というか、凝った見せ方する人だったけか? 


 第11話「万人の死角」でも派手な見せ方をしていたけど、今回もかなり目立つものだった。今までは堅実というか、こういう目立つ見せ方はしなかった印象があったんだけど、『氷菓』では全然違う。木上益治回のように人物の芝居で見せていこうというより、坂本一也回はカット割りと構図で見せていこうという印象だ。派手なカット割りと構図が多いからか、『氷菓』で坂本一也さんの回はどうしても目にとまってしまう。


 『氷菓』においての坂本一也さんのコンテ・演出回から気になった所を挙げる。


 第11話「万人の死角」(脚本/賀東招二、コンテ・演出/坂本一也、作画監督/高橋博行)から。


 Aパート。喫茶一二三での入須と折木の会話シーン。ここでは、計算された見せ方が印象的だ。


 越しショット。折木が入須の説得に押されていくと、折木が徐々に小さくなっていく(入須が画面の大半を占拠する)。折木が入須に飲み込まれていくさまがよくわかる。




 二人を下から見上げるように捉えたショット。画面下方向へと向いてる入須、画面上方向へと向いている折木。まるで、入須が折木を上から押し付けているような面白いカット割りだ。入須に圧倒されている折木という現状がよくわかる構図とカット割り。




 折木が入須に「特別よ」と言われた瞬間、折木を画面左に、入須を画面右に捉えていたカメラが逆方向の位置から二人を捉える。折木を画面右に、入須を画面左へと捉える。折木が心を動かされた「変化」の時を、カメラの位置を変えることによってあらわす。




 このシーンは上記したものの他にも面白い見せ方をしている。

 映像によって折木と入須の力関係、折木の心情の変遷を表現していく。



 坂本回では、折木と福部の見せ方も印象的だ。


 持つ者と持たざる者の差異を映像によって表現していく。


 まず、第11話「万人の死角」から。


 商店街における折木と福部の会話シーン。

 才能がある/ないの話になった瞬間、折木と福部の間に柱が登場する。この柱に、二人は分断されることになる。資質を持つ者(=折木)と持たざる者(=福部)として区別され、柱はこのシーン中ずっと二人を分断する。折木の「お前は指折りのシャーロキアンになれる」と云ったときにも、柱が存在しているのが残酷だ。結局折木がどんなことを云っても、二人は持つ者と持たざる者として区別されしまう。




 福部のこの表情は第16話でも反復される。




 第16話「最後の標的」(脚本/西岡麻衣子、コンテ・演出/坂本一也、作画監督/高橋博行)


 Bパート。折木と福部の二人での会話シーン。


 福部が必死になって十文字を捕まえようとしても、まったく捕まえられないのに、折木は犯人にどんどん近づいてく。そんな折木に福部はどんな想いを抱くのか。


 光と影。「どうやって捕まえるんだ」と折木に言い寄る時の福部は、陰影に包まれる(折木もだが)。それは、彼の明るい一面とは別の一面、折木に対する嫉妬・妬みに近い感情や怒りの感情を視覚的にあらわしたものだ。




 折木と背景と福部の背景の違い。その背景の光と影は、折木と福部の光と影という関係を明瞭にあらわす。




 資質を持つ折木を光で包み、福部を暗影で覆う。どうやっても、手に届かない存在。努力しても得られないものがある。最終回までに、福部はどういう答えを出すのか気になる。



 坂本回での折木と福部の関係描写はかなり強烈だ。ここまではっきりと映像によって区別する。言葉では説明せずに、カット割りと構図によって二人の関係をあらわす。

 『氷菓』は、演出家たちによって、見せ方の方針が違うから面白い。見ていて飽きない。

 おそらく、もう一回ぐらい坂本一也さんのコンテ・演出回があるような気がするのでチェックしないと。