『ガールズ&パンツァー』 水島努監督の多作家と手際の良さ


 『ガールズ&パンツァー』と水島努監督について思ったこと。


 水島努監督の最近の仕事っぷりは凄まじい。



 昔からコンスタントに監督をやっていたけど、2011年4月に放送された『よんでますよ、アザゼルさん。』から、『BLOOD-C』(2011年7月)、 『侵略!?イカ娘』 (2011年10月)、『Another』(2012年1月) 、『じょしらく』(2012年7月)、『ガールズ&パンツァー』(2012年10月)と立て続けに監督をしている(『侵略!?イカ娘』は総監督)。すんごい働きっぷりだ。ちなみに、この間にOADの監督もしている。

 監督された作品のジャンルも多彩だ。ギャグ、アクション、美少女、ホラー・ミステリーなど、手掛ける作品の幅が広い。



 僕が、水島監督の名前を知ったのは『クレヨンしんちゃん』 だった。その後、『ジャングルはいつもハレのちグゥ』や『撲殺天使ドクロちゃん』 を観て、ギャグ・コメディ系の監督なんだという印象が強かった。今だに、ギャグの人だと思っているので、『BLOOD-C』の後半のスプラッタ描写や『Another』のけったいな死亡描写とかは、『撲殺天使ドクロちゃん』の延長上にあるものだと捉えていて、「うわぁー、グロいな」っていう感じじゃなくて、ギャグっぽく感じてしまった。


 2006年に『xxxHOLiC』、2007年に『おおきく振りかぶって』と今までと毛色の違う作品の監督をして、こういうジャンルも得意なんだとちょっと驚いた。2006年当時『xxxHOLiC』を水島監督がやるのかとびっくりした記憶がある。『おおきく振りかぶって』の青春スポーツ物も見事にやり遂げていたので、すごいなぁとも思っていた。


 それで、監督作品をよく視聴するようになって思っていたのが、水島監督の「無駄のなさ」、「計算されたカット割り」だ。

 前に書いた記事で『おおきく振りかぶって〜夏の大会編〜』と『BLOOD-C』の水島監督のコンテ・演出回に触れたけど、『ガールズ&パンツァー』を観て尚更感じるようになった。


 トリッキーなカット割りとかではなく、とても見易いカット割りだ。今、どんな状況になっているのか、登場人物がどんな心情でいるのかを綿密に計算して作っている。『おお振り』での野球描写は、下手すると、今どんな状況で、登場人物は何を思っているのかがわからなくなってしまうものだ。うまくカット割りをしないとちゃんと野球をしているように見えないし、登場する人物もかなり多い(相手チームやベンチや観客も含めるので)。でも、水島監督は、試合の白熱さを損なうことなく(結構スポーツ物って、ダラっとした弛緩した描写に陥ってしまうことが度々あるけど、水島監督のコンテ・演出回はスピーディーだ)、視聴者の感情の流れも害することなく、見事に演出した(水島監督コンテ・演出を担当した『おお振り』2期第12話は傑作回である)。『Another』においての、視聴者の不安を煽るように、視聴者の心理を巧みに誘導するカット割りとレイアウト。最終回においての多数の登場人物が複雑に行動する状況を本当に巧くさばいており、計算された理知的なカット割りだった。



 『ガールズ&パンツァー』第9話「絶体絶命です!」での戦車描写も見事。どんな状況なのか、どこに戦車が配置されているのかなど、かなりわかりやすくカット割りされている。建物が一切ない雪原での描写は、どこで何が行われているかを明確に描写しないと、何が行われているのかわからないため(目標物がないため)、視聴者が混乱してしまうことになる。でもそんなことは一切ない。

 登場人物のPOVショット(照準器で捉えたような)や、視点も多彩で、臨場感あふれるものに仕上がっている。



 戦車外部に設置されたカメラなど、


 それに加えて、戦車内部にいる登場人物の様子と外界の戦闘状況描写の割合のバランスも絶妙だ。ここぞという時に、視点が戦車内部の描写に切り替わり、戦闘を盛り上げる。水島監督は、ロボット物も十分にいけるだろう。装填描写や操舵描写のタイミングもばっちりだ。



 水島監督のコンテは燃える。『おおきく振りかぶって』然り、『BLOOD-C』最終回然り、『Another』最終回然り 、計算されたカット割りによって、視聴者の興奮を巧みにコントロールして、観ている者を熱くさせる。視聴者の心理を誘導する、感情の高ぶりを阻害させない、流麗なカット割りはそうそうに出来ない。手際の良さが他の演出家よりも優れていると僕は思う。


 水島監督の次回作が気になる。こんどはどんなジャンルに挑んでいくのか。ロボット物や少女漫画原作とか、どうなるのだろう。


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 『ガールズ&パンツァー』は戦車描写もいいんだが、日常描写もいい。第1話での西住みほが自宅を出る際、鍵がちゃんとかかっているのか確認するという描写がある。一人暮らしを始めたときに、ちゃんと鍵をかけたか不安になって確認するという、よくしてしまうことであり、肌理細やかな描写だ。


 他にも、


 武部沙織が料理の時だけに、眼鏡をかける描写。



 五十鈴華の大食い描写(他の人よりも明らかに米とおかずの量が多い)。



 みほの自室にあるちょっと痛々しい包帯でぐるぐる巻きのぬいぐるみなどなど。



 物語では一切説明されない(そこが素晴らしい)。登場人物の隠れた一面を描写することによって、人物描写を豊かにしている。細やかな描写が光っているのも今作の特徴の一つ。


 第10話以降は、期間が空いてしまうようだが、楽しみにして放送されるのを待っていよう。