2012年の京アニについて


 今年の京都アニメーションについて思ったことのメモ。


 2012年は、『氷菓』(2012年4月〜9月)と『中二病でも恋がしたい!』(2012年10月〜12月)の2作品が放送されました。


氷菓 限定版 第1巻 [Blu-ray]

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中二病でも恋がしたい!  (1) [Blu-ray]

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 僕は、勝手に高雄統子さんが去った後、どういう方が出てくるのかとても気になっていました。高雄統子さんが去って出来た穴を埋められることができるのかと。


 高雄統子さんは、おそらく今の演出家の中で一番切れまくっている人だと思っています(勝手に僕が思っているだけですが)。


 『CLANNAD』や『けいおん!』&『けいおん!!』、『涼宮ハルヒの憂鬱・消失』(消失での高雄パートは必見だ)の仕事っぷりを見たら、一目瞭然だと思う。京アニを離れても、 『THE IDOLM@STER』でめちゃくちゃいい仕事しており(コンテ・演出回のレベルの高さ、第24話は圧巻)、どこに行っても素晴らしい仕事をする方だと証明したことでしょう。



 高雄統子さんについては、前に書いた記事でちょっと触れましたが、徹底的に作りこまれた画面設計と鬼気迫る感じが本当に凄くて、その鬼気迫るっていうのは、『けいおん!』第11話、『けいおん!!』第22話、『涼宮ハルヒの消失』高雄パート、『THE IDOLM@STER』第24話などの、重ための緊迫感がある話の時があまりにも巧い。ヘヴィなストーリーの監督をやらせたら、どんな凄いものが出来上がるのかと思う。



 そんな方が去った現在、京アニはどうなるのかと思っていましたが・・・


 京アニは全然揺るがない。


 優秀な方が去ったとしても、次から次へと優秀な方が登場する。



 例えば、内海紘子さん。


 『けいおん!!』から、コンテ・演出に参加するようになり、その時から目立っていた(第13話「残暑見舞い!」など)。劇的且つ作り込まれた描写の数々。『氷菓』第7話「正体見たり」での夕暮れの描写や第21話「手作りチョコレート事件」での冒頭においてのインパクト大な摩耶花のシーン、そして奉太郎と里志の雪の中でのシーンなど、どれも素晴らしい。内海紘子さん、はハッタリの効いた派手なシーンから落ち着いた真剣なシーンまで、バランス良くこなせる人だと思う。山田尚子さん的なケレン味のある演出から高雄統子さん的な精巧なカット割りまで、幅広くこなせる類まれなバランス感覚を持っている。


 『中二病でも恋がしたい!』第5話「束縛の…十字架(ハード・スタディ)」でのラストの派手な立花の振り返り(あまりにもキュート)なんていうのも素晴らしかった。こういうことをさらっと出来てしまうのが強みなんだなぁと思った。




 『日常』から河浪栄作さんが、『氷菓』から太田里香さんと小川太一さんが演出として参加するようになり、三人の仕事っぷりも良い。


 太田里香さんは、『氷菓』第11.5話「持つべきものは」においての、序盤での奉太郎と姉の自宅シーンのカット割りが素晴らしくて、びっくりした。その後の第20話「あきましておめでとう」での奉太郎と千反田のやりとりも良かったし、第8話「二人だけの…逃避行(エグザイル)」での序盤の立花と十花のシーンや勇太と立花の電車シーンなどが素晴らしかった。印象としては、シーンごとにばらつきがあるような感じで、とあるシーンはすごく良いのだけど、他のシーンはあんまり良くないなんていう感じ。これから、全部が良いシーンになったら凄いことになるのだろうなと。



 コンテ・小川太一さん、演出・河浪栄作さんの『中二病でも恋がしたい!』第11話「片翼の堕天使(フォーリン・エンジェル)」は圧巻だった。冒頭から、その出来の良さが他の回とは違う。『氷菓』の時にはあまり感じなかったが、小川太一さんの演出力の高さは今後要チェックだ。本当に素晴らしかった。


 冒頭の色彩の乏しい灰色の空気感の表現から魅了された。




 山本寛さんが去っても、高雄統子さんが去っても、必ず優秀な演出家が登場し、作品を盛り上げていく。京アニは、底が知れないと、今年放送された『氷菓』と『中二病でも恋がしたい!』を視聴して感じた。また、新たな演出家が登場するのだろう。




 『けいおん!!』(一期ではなく、二期。二期の方が一期よりも洗練されている)で、京アニはリアルな人物描写をつきつめて表現したと思う。それは、人物の仕草や行動であり(コップを持つ仕草や髪をとかす仕草など)、その点に関しては『けいおん!!』は今までの京アニのどの作品よりも上だと僕は思っている。その現実的な人物の芝居を極限まで表現した結果、まったく正反対の『日常』というシュールなギャグ描写に行きついた。その次の『氷菓』では、現実に近い人物の芝居というよりは、演劇的な人物の芝居という方向性が強かった。少々過剰な人物の身振りやシチュエーションは、それをあらわすものだろう。リアルな芝居、演劇的な芝居から、『中二病でも恋がしたい!』というアニメ的な表現(記号的な)に回帰する。京アニは、青春物を多くやってきたが、ド直球の王道物は作ってこなかった。『中二病でも恋がしたい!』で、初めての王道の青春物を作り上げる(中二病というちょっと変わった設定は使っているが)。


 それでは、オリジナル作品『たまこまーけっと』で京アニは一体何を表現するのか。気になってしょうがない。山田尚子監督は、『けいおん!』の路線を継続するのか、それとも別の新たな方向へと向かうのか。番宣を観ただけでは、判断はできない。



 放送が待ち遠しいです。