『たまこまーけっと』第2話 山田尚子監督の映像で語るということ


 『たまこまーけっと』第2話「恋の花咲くバレンタイン」を視聴して、気になった描写があった。


 それは、たまこともち蔵が糸電話で会話をするシーン。なぜ、二人は携帯電話や固定電話を使用せずに、わざわざ糸電話で話さなければならないのか。確か、たまこは携帯電話を持っていたはずだ。今時の高校生が、メールも使わずに、あえて糸電話を使う理由とは? ただ単に幼馴染みの男の子と女の子が糸電話で会話をするというモチーフを山田尚子監督がやりたかっただけなのかもしれない(それか、糸の上でモチマッヅィを踊らせたかっただけか)。




 ちなみに、糸電話に書かれている文字を見ると、どうやらたまこが作った糸電話らしい。もち蔵の家に糸電話が置かれているのは、たまこの腕力では向かいの家まで、糸電話が届かないからだろう。




 糸電話で会話をするのは、二人のやりとりの手際の良さからみると(語尾に無線通話要領である「どうぞ」をつけるなど)、昔から頻繁にやっているのだろう。つまり、携帯電話のない子供の頃から二人がやってきた名残りと考えられる。そこからわかるのは、二人の親密さ。子供の頃から、二人がやってきたことを今でも継続して行っているのは、二人の仲が途切れていないからだ。糸電話の会話により、登場人物の背景が見えてくる。幼い頃に、たまこともち蔵がやっていた糸電話という遊び。

 彼と彼女の性格と関係性が視聴者に伝わってくる。


 『たまこまーけっと』では、登場人物の性格・趣味や関係性などを、言葉で説明せずに、人物の行動や所作から表現していることが多々見受けられる。それは、山田尚子監督作品の『けいおん!』の時にも、あったことだ。
 

 山田尚子監督作品では、物語を「台詞」で語ろうという感じではなく、「映像」によって語ろうとしていく。


 登場人物の心情に関しても、台詞ではあまり語らない。『けいおん!』における唯たちが卒業することに気にかける梓の心情とか、進路に関しての澪の心情などが挙げられる。台詞によって登場人物の心情を表現していくのではなく、登場人物の芝居やカット割りで表現していく。

 最近、登場人物の心情を台詞で全部説明してしまう作品を観て、それを台詞で説明してしまったら味気なさすぎるでしょ、と思ったことがある。映像で語ることは結構難しい。



 『たまこまーけっと』第2話では、常盤みどりのたまこに対する想いの機微が、映像によって語られていく。


 Aパート。みどりが高校に登校中、友人の一人が意中の相手に振られたことを知る。バレンタインが近づいているために、周りの女生徒たちは浮かれているようだ。教室でたまことかんなと会話をするみどり。ここでは、カメラは引き気味に彼女たちを捉える。会話を進めるうちに、たまこは誰にチョコをあげるのか、とみどりは尋ねる。ここで、カメラはみどりの足元を捉え、みどりの表情を隠す。このショットによって、今までのカットのリズムが変わり、空気が変わる。転調みたいなものだ。観ている者は、何か引っかかりを覚え、そこからこの質問が何やら含意があるものだとわかる。




 Bパート。たまこ・みどり・かんなの放課後の教室でのシーン。車輪付きの椅子で遊ぶみどり、たまこの髪をいじるかんなの少女たちの何気ない戯れを巧く描写するのも、山田尚子監督の得意のするところ。

 ここで、みどりの髪が綺麗だという話になり、たまこはみどりの髪を触る。何気ないことなのにみどりは、思わず驚いてしまう。自分の髪という心理的領域に急に入ってきたことに驚くのは、相手が気になっているということ。このようなたまことみどりのやりとりを第2話では丹念に積み重ねていく。




 商店街PRのためにCM作成をすることになったたまこたち。そこに、みどりも参加する。CM撮影中、みどりの祖父である常盤信彦から、「みんな誰かを愛している」という言葉を伝えられる(英語で)。それから、自分の中にある言葉に出来ない感情があることを意識し始めるみどり。


 ここで、見事なのは、みどりの肌理細やかな芝居だ。たまこを意識せずにはいられないみどりの心情を視線によって表現していく。視線の芝居によって、みどりの心情が伝わってくる。




 モチマッヅィに喫茶店で自分の心の内を見透かされた後の、みどりの芝居はさすがだった。僕はここで感動してしまった。こういう表現をする演出家はそうそういない。タイルの上を橋を渡るようにして歩くみどり。最初は、バランスを取るために広げた両腕だったが、徐々に歩くスピードが上がっていき、その両腕はまるで飛行機の翼のように変化していく。みどりの横顔のクロースアップショットから、カメラは最終的に空を捉える。そのカメラワークは、空へと飛び出すような爽快感を与えてくれる(BGMも良い)。モチマッヅィによって、心が軽くなったみどりの心情を、まるで空に飛び立つようなカメラワーク(それに加えて、広げた両腕)によって表現するというのはかなり良かった。




 最終的に、ラストにおけるみどりの笑顔の走りへと繋がっていく。少女たちの表情や仕草、心情を丁寧に描くことに関して山田尚子監督は一級だ。




 山田尚子監督の、映像で物語を語っていこうという姿勢が好きだ。どういう芝居をしたら、登場人物の心情が表現できるのか。どのようなレイアウトにしたら、物語を語れるのか。このカットとカットを繋ぐと、どんな効果があるのか。これらのことを、綿密に考えて、ひとつひとつのカットを丁寧に仕上げていく。だから、完成したフィルムに自然と感動してしまう。


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 気になったことが一つ。たまこって、コンタクトだったんですね。眼鏡がちょっとだけダサい。そこが良い。