『天体のメソッド』第1話 すべては彼女たちの再会のために
面白かったので、その感想を。
ストーリー展開はオーソドックスで目新しいものはなかったが、肌理細かい仕事がなかなか良かった。久弥直樹さんの仕事は「sola」しか知らないが、これまた「空」をテーマにした作品。「sola」も7年前の作品だ。
ファーストショット。主人公である古宮乃々香の鼻歌にのせ、画面の大半を占拠する一面のひまわり畑が映し出される。そこから、車で引越し先へと向かう乃々香と父親のショットに切り替わる。
ここでトンネルを通過する描写が挿入される。それは、映画や小説によくあるトンネルや洞窟をくぐって、別世界にたどり着くというものだと思うが(日常の世界から非日常の世界へと変わる転換点。まさに円盤が空に浮かぶ街という非日常の世界へと切り替わるわけで)、ここでは、過去と現在を繋げる装置の役割も兼ねているのだろう。乃々香が過ごした7年前と今を繋げて、この物語は始まる。
そして、トンネルを通過した後、7年もの間、天文台で乃々香を待ち続けた彼女が目を覚ますのだ。
このアバンは、斬新なものでもなんでもないが、「物語の始まり」を感じさせる良い導入だと思った。
Aパート。棚などの埃やブラウン管のテレビで7年の歳月をさらっと描写するのが良い。朝ごはんを手際よく作る乃々香の描写や、父の急な仕事で家の掃除を押し付けられて、「一人で家の掃除なんかしない」と言いつつも家の掃除を結局一人でする描写など、彼女の性格を窺い知れる描写も良い。それらの描写から、責任感の強いしっかりした女性ということがわかる(母親がいないからそうなったのかもしれない)。まぁ、ちょっとおっちょこちょいですが。
ダンボールの中に入れっぱなしにしていた目覚まし時計に起こされ、それを探し回る乃々香とそこでのノエルの勘違いの描写もくすっと笑えるもので、なかなか良かった。
乃々香の「どこよ、どこにいるの?」という台詞は、目覚ましに対して云った台詞だが、まるでノエルに対して云った台詞にも聞こえる。乃々香も心の奥底では、ノエルを探していたのかもしれない。
乃々香とノエルが出会うシークエンス。突如、部屋から青色の髪の色をした女の子が自分に抱きついてきたら、パニックになったり、その子の素性を聞いたりすると思うのだが、乃々香は泥だらけのノエルの服を洗い、風呂に入れ、家で留守番までさせるのだ。僕はそこで、「えっ?」と驚いてしまった。なぜ、こうも簡単に見ず知らずの少女を受け入れるのか、なぜ彼女は迷いもしないのかと。
それは乃々香がもう運命的にノエルを受け入れてしまっているからに思える。記憶は不鮮明であまり覚えてはいないが、乃々香はわかっていたのだ、彼女と出会うこと。だからこそ、ノエルをすんなりと受け入れてしまう。
Bパート。乃々香は、母親の写真が入った写真立てをノエルに壊されたと勘違いして怒り、ノエルを家から追い出してしまう。その描写は乃々香が母親のことを大事に思っていることが伝わってくる描写だが、そのくだりはマクガフィンのようにも思える。
第1話のラストでノエルと乃々香を天文台で再会させるためのマクガフィンとして、その写真立てのくだりはあったのだと思う。別に、乃々香とノエルを別れさせるものであれば、何の出来事でも良かったのだろう。
ノエルと乃々香が天文台で再会するシーンを作るために、逆算して作っていくと、あの写真立てのくだり(二人を一旦別れさせるためのくだり)が必要になった。
二人を一旦別れさせ、乃々香がノエルを探し回ることによって、彼女が記憶を徐々に取り戻す仕組み。
記憶を取りもどした乃々香は、天文台でノエルと運命的な再会を果たす。そこでの彼女たちの台詞のやり取りを聞くと、
乃々香「あの・・。」ノエル「信じてた。来てくれるって信じてた」
乃々香「ごめんなさい、私。ノエル、ごめんなさい」
ノエル「お帰りなさい、乃々香」
乃々香「ただいま、ただいま、ノエル」
もはや、写真立てのことでの台詞ではないことがわかる(写真立てのことなんかどうでも良い)。ここでの乃々香の「ごめんなさい」は、7年の間、天文台に帰ってこなかったことを指し示しており、ノエルの「信じてた」は、写真立ての誤解に気づいて謝りに来てくれるというものではなく、乃々香が必ず天文台に帰ってくることの意で云ったのだろう。
この逆算して作られた構成が良い。人物たちのすべての行動は、乃々香とノエルの「再会」に収束される。
すべては彼女たちの再会のために。
すべては彼女たちの約束のために。
以下小ネタ。
北海道に、旅行に行ったとき、ファミマとかよりもよく見かけたセイコーマート。ここではサイコーになってますが。
江畑さんのED良いですね。男子らしい水坂湊太の仕草が好きです。
ノエルの歯を出してのピースも、とてもチャーミングで、グッドです。