『アイドルマスター シンデレラガールズ』第1話 シンデレラたちの始まりに


 高雄統子監督のテレビアニメ初監督作品であり、期待していた作品。


 第1話を見た感想はというと、高雄統子監督らしいシャープな画面作りで、見応えがあるものだった。レイアウトもかっちりと決まっており、かっこいい。
 

 2011年に放送された『アイドルマスター』でも、背景描写は繊細に描かれていたが、今作はよりリアリティに、精緻に、描写されていると感じた。小道具の描写も作りこまれている。現実感溢れる画面作りだ。さらに照明設計も、自然光を意識した陰影作りになっており、そこもよりリアルな感じが出ている。


 カット割りも良い。

 Aパート、島村卯月とプロデューサー(以下Pと呼びます)の会話シーン。卯月がPに対し、「なぜ自分が選ばれたのか」と聞く。すると、カメラは若干引いて、卯月を後ろから捉える。そこから、彼女の「一度落ちたのになぜ自分が選ばれたんだろうという」不安な心情を表現する。そして、カメラは卯月を正面から捉える。その映し出されたレイアウトは、画面正面に被写体を置かない不均衡な構図で、観ている者に対して、強く印象付ける。(さらに云えばその不均衡さから彼女の不安な心情をも表す)、そこで、Pは「笑顔です」と即答をする。レイアウトのインパクトから、「笑顔です」との回答はより印象づけられ、その後の今までなかった二人のバストショットでの正面切り返しによって、二人のやりとりは鮮明に視聴者の目に焼き付けられる。




 このように、考えられたカット割りが随所にある。


 また、見せ方もなかなか面白い所が随所にある。島村卯月とPが出会う所での、鏡を使った見せ方なども面白い。




 レイアウトに関しても、時折ハッとさせられるものがあった。例えば、渋谷凛がPから勧誘を受けるシーンにおいて、Pが「夢中になれる何かをお持ちですか」と質問した時の、逆光で捉えられた凛のショットはインパクトがあった。彼女の夢中になれる何かを持つ者への憧れ・夢を持たない心の空白(逆光で捉えられることによって、画面の大半を白色が占拠し、その白色が彼女の夢持たぬ心の空白を表しているかのようだ)を表現したショットだ。




 一番良かったシーンは、卯月と凛の公園での会話シーン。凛が卯月に「なぜアイドルになりたいか」と質問する。そこで、卯月は「夢だから」と返答する。

 アイドルという夢について語る卯月に合わせて、数々の花を捉えたショットが挿入される。そして、卯月は座っていたベンチから立ち、桜の花びらを手に取り、満面の笑顔で「Pさんは、私を見つけてくれたから。私はきっとこれから夢を叶えられるんだなって、それが嬉しくて」と凛に語る。その卯月の言葉を受けた凛は思わず、持っていたハナコのリードを離してしまう。


 卯月は、挿入された満開に咲いた花のショットのように、、卯月が手に持った桜の花びらのように、これから満開の花を咲こうとしている。




 陽の光を浴びてキラキラと輝く卯月を、陰日向から見ていた凛は思わず圧倒され、見惚れてしまう。そこで、夢を持っていなかった・何か夢中になれるものを持っていなかった凛は、夢を持つ少女の輝かしさに、美しさに惹かれるのだ。




 桜の花びらの使い方、陽の光と陰日向を利用した演出、花を捉えたショットの挿入など、少女たちの心情の機微を巧く表現しており、良いシーンだった。「ここから物語は始まるんだ」と意識させる、第1話目にとって必要不可欠なシーンを、見事に作り上げていた。


 期待していた通りの出来栄えで、素晴らしい第1話目でした。次回がずごく気になる。



 以下、小ネタ。


●時折、登場する12時前を表した時計。

 卯月の場合。Pと出会う前は、時計に調整中と札が貼られているが、Pにスカウトされると調整中の札は取り外される。




 凛の場合。自室にて、アイドルになると決心するシーンにおいて、12時前の時計が映し出される。




 本田未央の場合。オーディション会場にて、時計は映し出される。




 彼女たちがアイドルへの道を踏み始めた瞬間に、時計は映し出される。12時前の時計は、彼女たちがシンデレラであることを指し示してくれる。


 僕はこの、シンデレラガールズについて、まったく知らないのだが、この設定は良いなと思った。何者でもないごくごく普通の少女である彼女たちは、Pという魔法使いの力により、ドレス(=アイドル衣装)を着飾り、舞踏会(=ステージ)で踊る。シンデレラとアイドルという物語は、気持ちのよいほど合致する。



●同ポジの反復とか結構多かった。高雄監督は、昔やっていたこともあるけど、ここまでやっていなかった気がする。



●自室において、アネモネを飾っていた凛。Aパートでのアネモネがここでうまく働いてくる。アネモネ花言葉の通りに、彼女はアイドルという希望・期待を見つけることになる。