『天体のメソッド』の演出について


 『天体のメソッド』第7話まで視聴して。作中の演出について色々と。




●第7話においてのキリゴンの立て看板の演出がなかなか良かった。


 ノエルはふとしたことからキリゴンの立て看板を壊してしまう。

 壊してしまった立て看板をノエルと湊太が修理をする。いびつながらも最終的には修理が終わり、キリゴンの立て看板は直される。これが何を意味しているのか。

 それは、7年前に失われてしまった乃々香たちの絆の修復を意味しているのだろう。


 乃々香は、母の墓参りを通じて、悲しさから避けていた母との記憶、その悲しみから自分が無自覚のうちに記憶の奥底に眠らせていた7年前の記憶と向き合うことを決める。そして彼女は、失われてしまった汐音との絆を再び紡ごうとするのだ。

 その壊れてしまった絆の修復をキリゴンの立て看板の修復に仮託して語られる。昔のようには戻らなかった少し不格好なキリゴンの立て看板。しかし、それは乃々香たちの現在を的確に捉えている。いびつながらも、確実に絆は紡がれていくのだ。


 ここで面白いのが、立て看板を壊したのがノエルであり、直したのもノエルということだ。7年前の円盤の出現とともに、失われた絆。その失われた絆を再び紡ぐ契機を作っているのが、ノエルなのだ。

 ノエルは第5話において、柚季に乃々香のアルバムを渡すことによって、乃々香と柚季の絆を再び紡ぐきっかけを作っているし、第7話においては、汐音の伝言を乃々香に伝え、またしてもきっかけを作っている。


 第7話を見て、今作の主題が、「失われた記憶・絆を再び取り戻す」ものなんだなと再認識した。




●第3話のアバン。汐音の部屋にあるコルクボードが映し出される。

 そこには、動物写真ばかり飾られている。しかし、その中に1枚だけ人物写真が飾られている。それは、7年前の乃々香と汐音が映った写真だ。そこから、汐音が乃々香との思い出を大事にしていることがわかる。彼女にとって、乃々香が唯一の親友なのだろう(なぜなら他に人物写真は飾られていない)。また、コルクボードの日焼けの跡から長らくその写真を貼っていたこともわかり、写真を裏返しにして貼る汐音だが、本当の気持ちは違うのだろう。




●第7話において、汐音と乃々香の思い出の場所が、霧弥湖近くのベンチの場所だということがわかる。第1話で汐音と乃々香が再会したのも、そこだった。「今更何しに来たの?」と汐音は言っていたが、乃々香のことをずっと待っていたのかもしれない。



●第4話。こはるは柚季に対して、円盤反対の活動は意味がないと言ってしまう。その直後の観光バスを後景にしたショットがよかった。

 ロングショットでこはるを映して、寂寞感のあるショットにしてもよかったが、巨大な観光バスによって画面が圧迫され、その中にぽつんと佇むこはるという縦構図のショットが、寂寞感の中に、虚無感も生んでいて(観光バスとこはるとの対比)、かっこいいレイアウトのショットだと思った。

 その後の、キリゴンの立て看板を店の中にしまおうとするも、つっかえてうまく入らず、そこで柚季に対してひどい事を言ってしまったことを思いだし、涙を流してしまうという芝居も良かった。第7話でキリゴンの立て看板が柚季たちが子供の頃に作ったものであることが示され、このシーンにより意味がもたらされる。キリゴンの立て看板は、柚季、こはる、湊太の絆を象徴したものであり、その立て看板に寄りかかって、こはるを泣き崩れさせる演出は、第7話まで見ないとわからないものだ。良い芝居です。




●第2話。乃々香は始業式の日を勘違いしていて、急いで朝ごはんを準備する。その際に、フライパンが温まっているかどうかを手で確認してから、目玉焼きを作ろうとする。こういう小さい芝居が僕は結構好きだ。そんな手をかざす芝居をしなくてもこのシーンは成立はするのだが(たいていのアニメ作品ではこんな細かい芝居しない、というかさせなくてもよい)、そこで敢えてその芝居をすることによって、映像がより豊かになっていく。こういう小さいな芝居を積み重ねることが作品にとって重要なことだと僕は思う。




●第3話は学校の行事で、霧弥湖町のスポットを巡るというものになっている。このスポットを巡る行為によって、乃々香は霧弥湖町にいた頃の過去の記憶へと徐々に近づいていくのだ。こういう仕掛けとかなかなか良い。



●第7話は、話の中盤に差し掛かると雪が降ってくる。この雪が降るタイミングが良いです。雪が降ることによって、7年前の天文台での記憶が呼び起こされる。また冬が来たのだ、あの頃の彼女たちがいた冬が。物語が佳境に近づいていきのがわかり、テンションが上がる。



●第7話で理解できなかったのが、駅のホームで敷物を敷いて、弁当を食べるというシーン。なんで、そんなとこで弁当を食うんだとすごい疑問に思った。もっと別のところで食べればいいのに。北海道では、よくある話なのか? そんなことはないとは思うんだけど・・・。それと、不思議に思ったのが、電車の窓にカーテンが付いていること。ロールカーテンじゃなくて、普通のカーテン?




 第7話を終え、物語も折り返し地点を過ぎたので、これからどうなっていくのか気になるところです。またちょくちょく書いていきたいと思います。