『しゅごキャラ!』から見る『自分探し』




自分探しが止まらない (SB新書)

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しゅごキャラ! アミュレットBOX 1 [DVD]

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速水健朗さんの「自分探しが止まらない」を読んだ後に、しゅごキャラ!のアニメを見てみると、しゅごキャラ!ってあむちゃんの自分探しの物語だったのかと今更ながらに気づいた。小学生の女児にここまで本格的に自分探しを訴えかけるアニメって今まであったのだろうか?




速水さんの著書で使われているキーワードで、「なりたい自分」、「ホントの自分」がある。これは、しゅごキャラ!のテーマでもあるキーワードだ。


自分探しのために、多くの人は海外へ旅に出かける。何故海外に飛び出すのかという理由を速水さんはこう述べている、



これらから読み取れるのは彼らが持つ『変身願望』だ。「ここではないどこか」に身をさらすことで、何かをつかむことができる漠然としたもの、それを海外への旅に求めているのだ。




自分探しの「変身願望」とは、しゅごキャラ!でいうキャラなりに近いものがある。今の自分ではない、「なりたい自分」を具現化したしゅごキャラに変身する、理想の自分をつかもうとするキャラなりと海外への旅は同じ意味を持っていると言っても過言ではないだろう。自分の努力や成長で内面を変えるのではなく、外的な要因によって自分を変える。「海外に行って環境を変えて自分の内面をあぶりだす」、「キャラなりによって元の自分を丸ごと変えてしまい理想の自分になる」、このように現代の若者の自分探しとしゅごキャラは密接に関係しているように思える。





しかし、現代の若者の自分探しとあむちゃんの自分探しでは、大きく違っている所がある。速水さん曰く、「現代の若者の自分探しは、現実逃避」という部分だ。現在のつらい日常から抜け出すため逃避として使われる「自分探し」。でもあむちゃんの自分探しは、「現実逃避」などではない。今の自分を安易に否定せず、葛藤し、悩みながらも少しでも前に進んでいこうという「逃避」としての自分探しではなく、「現実と向き合う」前向きな自分探しだ。





あむちゃんは、「他人から思われている自分」(クールアンドスパイシーでかっこいい)。「自分が思っている本当の自分」(小心者のフツーな女の子)。この二つの「今、存在しているホントの自分」に葛藤し悩みながらも、「将来なりたい自分」(しゅごキャラ)を必死に見つけようとする。そこでは、あむちゃんは決して「今の自分」を全否定して、「新しい自分」、「なりたい自分」になろうとはしない。「現実の自分」も「理想の自分」も自分自身であることには変わりないのだからと、そこに苦悩をしてしまう。これは現実と向き合っている証拠だ。「今の自分」も「なりたい自分」も自分であるという現実を否定しないで、自分と向き合おうとしている。それに対して現代の自分探しは、前の自分を否定し、新たな自分を見つけ生まれ変わるというのが多い。これは、今の自分に向き合わず、新たな自分に逃げてしまうという一種の現実逃避だ。ここが現代の若者の「自分探し」とあむちゃんの「自分探し」、で大きく違っている部分のひとつだ。他にもあむちゃんは、「自分探し」の障害になってくるイースターバツたまを乗り越えて、なりたい自分に近づいていこうと現実に向き合っていく。



それに加えて自分探しは、自分のためだけに存在している利己的なものであるのに対して、あむちゃんは自分のためだけではなく、誰かの他人のために行動をする。他人の「自分探し」に協力しながら、自分の「自分探し」をするという、他人の自分探しを自分の自分探しに取り込んでしまう新しい自分探しを実践している。二階堂先生の自分探しを結果的に手助けすることになった、二階堂先生とあむちゃんの対決はその良い例だ。あむちゃんは誰かのために力の限り行動できる強い心を持ち合わせているということも読み取れる。





この点が、従来の自分探しとは違う、あむちゃんの現実と向き合い、誰かのために行動する自分探しだ。





僕は自分探しというものに嫌悪感を抱いている。それは上記でも述べたように、自分探しは現実逃避の側面が強いからだ。自分探しをするくらいなら、今そこにある現実と自分に向き合えよと思ってしまう。でもあむちゃんの自分探しは嫌悪感を抱かず、逆に大いに応援したくなってしまう。それは、あむちゃんが今そこにある現実と自分に向き合い、また自分のためだけではなく、誰かのために行動する。この点が、あむちゃんの自分探しを応援したくなってしまう理由だ。



若者の自分探しのための海外旅とキャラなりは似ていると言ったが、現実逃避の旅では、なりたい自分は見つからない。なぜなら、なりたい自分を見つけるのが目的ではなく、逃避が目的であるからだ。それに対して、あむちゃんのキャラなりは現実逃避ではなく、なりたい自分に向き合うための手段としての側面が強い。だからこそ海外旅は殆どが無意味であるのに対して、キャラなりは無意味だとは言えない。





しゅごキャラ!は自分探しの究極的な物語でありながら、「現実に向き合って自分探しをしろ」という現代の自分探しのアンチテーゼになっているアニメに思える。小学生の女児たちへの強いメッセージが、大人の男の自分にも届いてくるのが、この作品の魅力なのかもしれない。