「東のエデン」 第6話

アバンタイトル、ホテル1


ファーストショットは、カメラを地面に置いたようなローアングルから始まる。手前にベッドが置いてあり、奥にはグランドピアノが見える。次に、手前にグランドピアノ、奥にベッドが見えるカットに切り替わる。1カット目とは真逆の位置から映し出されていることがわかり、これによって部屋の状況説明がなされている。そして、注目したいのは、グランドピアノの狭い隙間から遠くの椅子に縛られている人がかすかだが映し出されていることである。その隙間だけ青白く光っているので自然と視点が誘導される。この段階では、何が起こっているのかよくわからないが、次の咲を模ったキーホルダーが付いたバッグのカットが映し出されることによって、この人物が大杉だということが視聴者に伝えられる。これがミスリードを狙っているのか、それとも縛られているのが大杉だと素直に伝えようとしているのかまだ分からない。


足を縛られて覆面をかぶらされている男と洗面台に腰かけている下着姿の女と浴槽が描写され、これが風呂場だという事、女に男が監禁されているということが流れるようなカットの繋ぎで視聴者に違和感なく提示されている。女が持っている葉巻が男性性器の隠喩になっており、葉巻を弄んだり、葉巻を切り落としたりすることによって、間接的にこれから男がどうなるのか、女が完全に男を掌握していることなどがわかる。小道具の葉巻をうまく使っている。


洗面台の鏡を使ったカメラワークも注目したい。手前には焦点が合ってない女の後ろ姿、奥の鏡には電話している女の正面姿ともがいている男が反射されており、鏡にカメラの焦点が合わさっている。女が振り向くと同時に鏡に反射されていた女の鏡像がぼやけ、手前の実体の女に焦点があわさる。鏡とフォーカスを使い、観客の注目をうまく誘導していており、電話で話すという単調な場面に良いアクセントを与えている。


最後に女が男を倒し去っていく所をローアングルで映し出し、女が画面から去っていくのと同時に、前景のカバンに焦点を合わし、これまた咲のキーホルダーが付いたバッグのカットに切り替わる。ここまで大杉だということを強調されると、これがミスリードを狙ったものではないかとどうしても勘ぐってしまう。事実、前回の大杉のネクタイの色と今回のネクタイの色が違うので、これが次回どのようなことになるのかが気になる。多分、縛られているのは大杉だというので間違いはないと思うけど・・・・。





姉夫婦との電話での会話


咲と滝沢が別れ、咲が家に電話をする場面。姉夫婦が居る部屋で、画面左半分の前景にソファーがでかでかと置いてある。このソファーがあることによって、邪魔な遮蔽物であるソファーを避けて右半分の姉夫婦達へとどうしても注目してしまう。ここで視点が右半分の姉夫婦達に誘導され、姉夫婦への視点の誘導が成功している。

姉が咲と電話で会話している最中、後ろの夫に振り向くと夫にカメラの焦点が合わさる。しかし、急に焦点がぼやける。これは、前景の姉が目線を逸らしたことによって焦点がずれたのであり、姉の視点をフォーカスを使って表現しているのと同時に注目させたい対象物に自然に目を運ばせている。





サークル「東のエデン」の部室での人物配置


ここでは咲、平澤一臣、おネエ、葛原みくるの四人での会話を軸にストーリーが進行する。ここで面白いのは、四人の配置だ。俯瞰気味の部室を見渡した状況説明のカットでは、右のソファーに平澤、テーブルを挟んで左側に咲とみっちょん、ややテーブルの中央から左側におネエが配置されている。これは、テーブルを挟んで、「平澤」対「咲」と「おネエ」と[みっちょん」の対立の構図が出来上がっている。平澤が滝沢に敵意を剥き出しにし、それとは逆に滝沢を擁護する側の咲、対面する形でこの二人の意見が対立している。そして咲を援護するみっちょん、若干咲側についているが曖昧な立場のおネエという形になっている。対立しているのを視覚的に伝えている。


それと、前に書いたが、画面右手は上手(上位、強い者)、左手は下手(下位、弱い者)というものがある。この会話でもそれが使われており、咲に対して捲し立てる平澤が上手、受ける咲が下手になっている。平澤が上位におり、咲が下位にいることがわかる。途中、みっちょんが平澤に反論する所があるが、その時は位置が逆転し、みっちょんが上手、平澤が下手になる。


そして特に面白いのが、突如出現する春日晴男である(ある映画のパロディ?)。机の中に隠れていた晴男は急に会話に参戦するのだが、彼は咲側でもなく、平澤側でもない、客観的な目線で会話に参戦する。彼が登場する場所はテーブルの真ん中であり、前述のとおりこれは彼が中立だということを示している。それに、予想もつかない場所、背景から突如登場するのは、彼が物語の外から内に入ってくる、観客の立場から物語の登場人物へ転換する、これは彼が視聴者の分身だということも感じられる。そして彼のPOVショット(主観)で全体を見渡すカットが挿入されるのは、彼が第三者、神の視点、観客(視聴者)の視点だということを表している。


この会話場面は視覚によって会話内容を観客に伝えているという事が行われている。咲と平澤の対立構造、客観目線で登場する晴男、これは画面の構図を利用して登場人物達がどのような立場で発言しているか視覚的にわかりやすく観客に伝えているのである。





ホテル2


ホテルで男が助けを求める場面での、視点誘導は流れるように紡がれている。まず、倒れた椅子が目に入る、次に扉、次にテーブル、振動によりテーブルから落ちたリンゴ、転がるリンゴ、携帯電話、カメラのフラッシュ、この一連の見事な流れによって、男が椅子から脱出して隣の部屋に移動し、携帯電話で助けをもとめようとしていることがほんの数秒で判明する。この一連の流れは本当に綺麗だ。





ショッピングモール


ショッピングモールは、咲一行が「日常」から「非日常」へと転換する舞台装置であり、そのショッピングモールに住む滝沢は平澤達とは別の世界(非日常)に住む人物であることがわかる。滝沢が遊園地やデパートの屋上にある動物の乗り物に乗って登場するのはとても象徴的であり、ショッピングモールが遊園地などの夢の世界、非日常の世界だと表している。服や電化製品など欲しいものを見てはしゃぐ一行はまさにおとぎ話の夢の世界に入ってきたかのようだ。

滝沢がショッピングモールを「ニートの楽園にしよう」と言ったのは、ここがつまらない「日常」ではない、夢の世界だと端的に表している。



他に気になったのは、双眼鏡越しに見ていると思わせるために、周りを黒く塗りつぶしたカットや携帯電話の画像認識越しの主観など。あと、立ち入り禁止の場所。平澤が画面から出た瞬間に焦点を合わしたのは、あそこに何かあるのか?










今回、アバンとショッピングモールの場面では別の人間がコンテを切っているとしか思えない。それほどテンションが違う。コンテが3人とわかった時は納得した。