タユタマ-kiss on my deity- 第8話「誘惑に染まる瞳」が面白い〜アメリと観覧車〜






第8話「誘惑に染まる瞳」のアメリ関連のエピソードがすごく面白かったので、色々書いていきたいと思います。




アバンタイトル、憂鬱なアメリ

裕里と鵺が会話している場面。

応龍が手下の人間を使い攻撃してくると指摘したその後、ズームアウトしていき、効果音と共に急にアメリのクロースアップショットに切り替わります。あっけにとられた顔しているアメリが描写されて、一体何事かと視聴者は疑問に思ってしまいます。突然切り替わるため、一瞬、裕里と鵺の会話を外から見ていたんじゃないかとちょっと錯覚をおこしてしまいそうでした。

次にアメリのウエスト・ショットに切り替わります。ここでも、呆然としたアメリが描写され、アメリはどうしたんだ?と強く視聴者に疑問に思わせます。次にアメリの腰が映し出されます、この時点ではどういう状況なのか分かりませんが、パンしていくとバイクをいじりながら楽しく談笑している裕里とましろがいることがわかります。前景に裕里とましろ、後景にアメリ、前景の楽しく談笑している裕里達から、後景のアメリにフォーカス送りをして、裕里とましろから疎外されているアメリというイメージが浮かび上がってきます。

その後、アメリに出来た心の隙間を応龍にそそのかされて広げてしまい、黒い翼が出現してしまいます。「ドン」という効果音と共に場面展開し、月の光が窓のカーテンから漏れている状況設定ショット(エスタブリッシングショット)とベッドから起き上がるアメリが描写され*1、あれが夢だったことが視聴者に提示されます。ベッドから出て、月を見上げあれが夢だったことを認識するアメリなのですが、背中には黒い翼が生えており、あれがただの夢では無かったことが視聴者だけに伝えられるのです。この時、画面が時計周りに回転し、ただならぬ緊張感と不安感をBGMと共に演出しています。



この冒頭の場面がとても重要な役割をもっています。アバンで強調して描かれた「アメリの不安定な気持ち」が後々の場面に強く影響を与えていきます。







コンテ、こでらかつゆき


今回のコンテはこでらかつゆきさんでした。タユタマと言ったら、こでらかつゆきさんとパッと思い浮かぶほどコンテを切っています。彼が担当する回では、女性キャラクター達が捉えられた画面を横に倒したり、斜めにしたのをパンやティルトして見せていきます。今回もそれが多く使われていました。多分、節約というか、女性キャラクター達の姿をより魅力的に見せる工夫なのでしょう。それと画面にてっとり早くアクセントを加えるために。横に倒したり、斜めにすれば長い時間キャラクターの姿がみれますし。






観覧車を使った心理の間接描写


デパートに二人で買い物をすることになった裕里とアメリ。ここでは、とても楽しそうにショッピングするアメリが印象的です。裕里と二人っきりでデートすることが余程楽しかったのでしょう。買ったばかりの帽子を観覧車の中で被ってしまっているぐらい、彼女の喜び具合を強調して描いています。


ここで注目したいのは観覧車を使ったアメリの心理描写です。


まずはじめに観覧車は回転しながら上昇していきます。それと同時にアメリも楽しげに裕里と会話して気分が高まっていることがわかります。BGMもアップテンポな楽しい曲調で、観覧車の上昇とアメリの気分がシンクロしています。


次にBGMが突然止み、アメリ


「ねぇ、もう太転依とかそういうのなんて忘れちゃわない?」

この台詞を契機として、観覧車は頂上で静止します。この「ねぇ、もう太転依とかそういうのなんて忘れちゃわない?」というアメリの言葉は彼女の心の底からの本音であり、また今まで溜めにためていた心の叫びであり、彼女の心情がピークに達したことを示す台詞だったと思われます。観覧車が頂上で静止しているのは、今のピークに達した彼女の心情とリンクしていることなのだとわかります。


この後、アメリは裕里に対して心情を吐露するわけですが、ここで二人の位置関係の構図について話したいと思います。画面右にアメリ、画面左に裕里が配置されています。右は上手(上位)、左は下手(下位)という視覚印象の効果があり、裕里に対して激しく捲し立てるアメリは強い立場ということで右に配置され、アメリに問いただされて受身の裕里は弱い立場ということで左に配置されています。この上手、下手の視覚印象の効果を使うことによって、二人の上下の立場を視覚的にわかりやすく視聴者に伝えており、この会話の場面を盛り上げています。


アメリは裕里に対して、妖怪退治なんてやめて普通に暮らそうと言いますが、裕里はましろがいるからやめることはできないと告げます。この裕里のましろがいるからという言葉を聞き、裕里とましろが仲良くしている姿がフラッシュバックします。この裕里のましろ発言が転換点となり、ストーリーは進行します。


祀っている神様だから? 他に身寄りがないから? と裕里はましろとしかたがなくいるんじゃないのかという事を遠まわしに聞きます。なぜこんな質問をしたのかというと、アメリが一番気になり、一番聞きたくない言葉、「裕里がましろのことが好きで一緒にいるという事」を暗に否定したかったからこんなことを質問したのでしょう。


そして、ここで話の核、アメリが一番聞きたかった事、「裕里はましろのことが本気で好きかどうか」という質問をしようとします。それと同時に頂上で静止していた観覧車が下へと回り始めるのです。Aパート終了直前、「裕里はましろのことが本気で好きかどうか」の質問と同時に、観覧車によって真っ赤に燃えた夕暮れの太陽が隠されます。この下へと回り始まる観覧車と太陽が隠されることが何を意味しているのかというと、アメリが応龍によって付け込まれた心の隙間が拡大していき、暗い気持の淵に落ちていくのを示しているのだと思われます。観覧車が上昇している時は、彼女も気持も晴れ渡ったものでしたが、観覧車が下降し始めると彼女の気持ちは暗い方向へと移っていくのです。Bパートに入ると、暗い曲調のBGMが流れ、裕里の真意を推しはかろうとしている真剣な彼女が描写されます。ここでは、裕里の「ありがとう」により問い詰めが中断してしまいますが。

そして鵺からもらったキーホルダーが光るのです。何故急に光出したのかというと、応龍はアメリの心の隙間を媒介としていたようですし、その心の隙間(闇)が裕里との会話で増大してしまい、鵺のお守りが反応したのでしょう。



観覧車の回転する移動を使って、アメリの変化していく心理を間接的に描写しているのは、言葉だけでアメリの心情を表現するのではなく、映像面をも使って効果的に表現している面白いものでした。




次に応龍とましろのバトルがあります。そこでのアメリもとても印象的です。応龍との決着がつき、正気に戻ったアメリですが、ましろと裕里が抱き合っている姿を目撃してしまいます。その後にアメリが裕里と一緒に買い物して購入した帽子が、落下した観覧車の残骸に押しつぶされたショットがあり、その帽子が彼女の裕里への思いが押しつぶされたことを隠喩しているのです。

そして、ラストでの彼女が鏡を見て泣き崩れる場面。塞ぎ込むアメリを俯瞰から捉えたショットからディゾルブして、満月の夜空が映し出されて終了します。満月の夜空と言えば、アバンタイトルでのラストでも描写されました。満月の夜空は今回の揺れ動くアメリを象徴するものなのかもしれません。








アメリ関係のエピソードを見ていると、どうも「スクールデイズ」(2007)を彷彿としちゃいますね。何しろ、元永慶太郎監督と上江洲誠さんのコンビでやっている作品ですから、変な修羅場を想像してします。タユタマはそういう作品では、一切ないわけですが。上江洲さんのシリーズ構成というのは、女性の心理の変化をとても丁寧に展開していく感じがしますね。徐々に、気持ちがおかしくなっていく所とか。





あと、「モバイル! モバイル!」は良いですね。思わず笑ってしまいました。







   

*1:実際には起き上がる音だけが聞こえて、ベッドの上で激しく息をするアメリのショットに切り替わる。多分起き上がる作画の節約のためだろう