『ささめきこと』第3話が面白い〜お面と夕焼け〜



ささめきこと』第3話「ファーストキス」について色々書いていきたいと思います。



ウルトラマンの面と夕焼け

 前に書いた「ささめきこと 第1話「ささめきこと」が面白い」と「『ささめきこと』第2話が面白い〜視線のやりとりと細かい仕掛け〜」を踏まえて書いていきます。


 Bパートラスト、純夏と汐はアバンのキスをしていた女子生徒二人と一点を除いてほぼ同じシチュエーションでキスをする。一点を除いてというのは、汐が「ウルトラマン(?)の面」を付けてキスをすること。


 ローアングルから捉えた純夏と汐の足のクロースアップショット。汐は純夏の身長に合わせるためにつま先立ちをする。純夏が汐にキスをする際、鼻があたるので、角度をずらしてキスをする。バックには讃美歌のような音楽が流れており、誰もいない放課後の教室で夕日に照らされた二人はどこかこうごうしさがある。これはアバンに登場した女子生徒二人と相似している。純夏と汐はアバンの女子生徒達と同じようにキスをしており、つま先立ちをしたり、鼻の角度をずらしたりと、普通のキスと何ら遜色のないキスをしている。だが、そこには「面」という一般的なキスとは大きな差異が存在している。アバンの想いが通じ合った女子生徒達のキスとは違い、純夏と汐の間に想いは通じ合ってはいない。純夏の想いは汐が付けた「ウルトラマンの面」によって遮断され、純夏の想いは汐に届くことはない。一方的な想い、純夏の片想いだけが残る。純夏の唇は汐のやわらかな人の唇に触れることはなく、感触も温度も無い仮面の唇とまじわる。二人の間には大きな隔たりがある。しかし、純夏にとってはまぎれもない「ファーストキス」。互いの気持ちが通じ合っていなくても、純夏にとって汐との「ファーストキス」であることに違いはない。「自分のことを見てくれていない」と感じていた純夏だが、汐は自分の事を見てくれていた。汐にとってはキスではないが、純夏にとっては汐とキスをしているのと同義なのだ。



 この夕暮れのシーンでのウルトラマンの顔の造形は、静かで無表情且つ無機質な「無」の印象を与える。この夕焼けに照らされた無表情な銀の面には、汐の純夏に対する恋心・想いがまったくの皆無だということ端的に示しているのではないか。この面の無機質さによって、今の純夏と汐の間には絶対的な・絶望的な隔たりがあるようにさえ思えてくる。その隔たりは面の厚さほどぐらいしかないが、純夏にとっては決して繋がることがない距離だ。なぜなら汐には純夏への恋心が全くと言っていいほど無いのだから。別にウルトラマンの面でなくても良かったのだろう。仮面ライダーでも、ドラえもんでも、アンパンマンでも、お面の範囲内ならば何を選択しても良かったのではないのか(許可が出ないかもしれないが)。だが、敢えてウルトラマンを選択したのだ。他のキャラクターの持つ表情では純夏と汐の関係性を表すことができなかった(仮面ライダーも良いが、造形のシンプルさではウルトラマンの方が良かった)。ウルトラマンの顔の造形が生み出すものでなくては、このシーンは成立しなかったと思う。*1



 前に書いた通り、純夏が一方的に視線を送っているだけでは駄目で、純夏と汐が互いに視線を混じあわなければ、二人の想いは通じ合わない。純夏が汐を見つめキスをしても、それは面によって遮られ、汐の視線もまた面によって遮断され、互いの視線が交わることはなかった。ウルトラマンの目が持つ視線の不透明さは、より二人の視線の交差を遠ざけるように感じる。身体を密着させ、面を付けたとはいえ限りなくキスに近い行為をしても、視線は一貫として交差されることはなく、二人の心・想いは通じ合わない。



電信柱と電線

 朝バス停で、汐に放課後の教室で待っていてくれと言われ、訝しげながらもそれに応じる純夏。二人はバスに乗り込み学校へと向かう。きっときれいな夕焼けになるわと汐に言われ、何だろうと考える純夏。ここでバスの窓から外の景色を見る純夏のPOVショットが印象的に挿入される(図1)。そのPOVで目にとまるのは、前景の電線と後景の太陽。そこに映し出される「太陽」と汐が言った「夕焼け」というキーワードで、純夏はアバンでの夕焼けの中キスをする女子生徒と連想し、汐と放課後にキスが出来るんじゃないのかと考える。このシーンでは、ずっと平行線だった純夏と汐の関係性が変調する予感をさせる。その二人の変化しない・平行線の関係を示すものとして電線と電信柱が映し出される。ここで映し出される電線はバスがどれほど先に行こうともまったく変化せず、同じ形の電信柱と電線が延々と続く(普通は同じ電信柱とはいえ形には微妙な差異が生じる)。普通に見れば、この変化しない電信柱と電線の描写は節約(手抜き)だと捉えられてしまうのに、わざわざ画面に組み込まれている(意図的に)。これは、純夏と汐の変化しない・平行線の関係を、延々と続く変化しない電信柱と平行線の電線で表したのではないか。前景の電信柱と電線の奥、後景の太陽は夕焼けの教室(=汐とキスが出来る)を連想させるものであり、前景の「電線と電信柱=変化しない関係」から後景の「太陽=夕焼けの教室=変化する関係」へと関係は移行することを示唆している。



夕暮れ

 視聴していて気になったのが、Bパートでの汐と純夏がキスをする教室へと段々と迫っていくカメラ。最初は外のベンチや中庭をうつしだしていたカメラが学校の中へと入り、階段、夕暮れの教室へと移動し、彼女たちに近づいていく。このピアノの音ともに緩やかに映し出される風景が純夏と汐へと徐々に接近していく様子が、静かに、本当に静かに、そしてゆっくりと、これから起きる出来事(二人がキスをする事)に対して視聴者の気分を徐々に高揚させてくれる。


おまけ

 リップクリームでも一応間接キスになるんだろうな・・。

*1:ウルトラマンの顔の造形の元は、仏像というか、弥勒菩薩という説があるらしい。では、弥勒菩薩=汐に純夏は接吻したのではないか?・・・・うん、それはない