『オオカミさんと七人の仲間たち』第2話「うそつきおおかみさんと亮士くん」のメモ


 コンテ・演出/鈴木洋平作監/冨岡寛。


 亮士と涼子の視線のやりとりついて書いていく。


見つめ合うこと


 『オオカミさんと七人の仲間たち』の主人公の森野亮士は、視線恐怖症である(人のいない田舎に長年住んでていたために)。彼は、人から見つめられる・見つめ合うことが苦手であり、いつも他人からの視線を忌避している。


 第2話では、亮士の視線恐怖症のような状態になってしまっている人物が存在する(逆転の現象が生じている)。

 それは誰なのか。視線恐怖症のような状態になっている人物というのは、ヒロインの大神涼子である。



 アバン。御伽学園学生相互扶助協会の面々が会話をしているシーン。亮士が「涼子のそばにいれてうれしい」と涼子に伝えると、涼子は顔をそむけ、亮士の視線を避けようとする(下を向く)。それは、涼子が亮士の自分の気持ちにストレートな言葉と視線(=想い)をどう受け止めていいのかわからないためであり、彼女は亮士から注がれる視線から顔をそむけ、思わず視線を忌避してしまう。まるで、視線恐怖症になったかのように、涼子は亮士と見つめ合うことを本編中回避しつづけるのである。本編中、亮士と涼子が互いを見ることはしばしば存在するが、見つめ合う描写は一部しか存在しない(ラスト)。涼子が亮士からの視線を避けてしまうからだ。ゆえに、見つめ合うことがうまく成立しない。涼子と亮士の間には心理的距離があるようだ。


 第2話において見つめ合うことは特権化されていると云える。


 視線の忌避が解消され見つめ合うことが成立した時。それは、彼と彼女の心理的距離が縮まったときだろう。




 涼子が視線を忌避する描写は、アバンの他にも第2話では度々登場する。


 Aパート。スーパーマーケットの入り口付近でのシーン。涼子が、亮士が田舎から連れてきた秋田犬のエリザベスとフランソワを可愛がっていると、買い物を済ませた亮士と出くわす(この時、二人の視線は交錯するが見つめ合うというものではない)。亮士が「犬が好きなのか」と涼子に尋ねると、涼子は「勝手に寄って来ただけだ」と返す(犬に興味なんてないという素振りをする)。涼子は、またしても亮士の言葉と視線を回避するように、顔をそむける。オオカミの皮が脱げない涼子は素直になれずに、亮士の言葉と視線を避けてしまう。




 このように涼子は亮士からの視線を忌避し続けるのだが、その視線の忌避が排除される瞬間が訪れる。それは、Cパートでの出来事。気を失っていた亮士だが、目を覚まして、屋外に出る。そこには、エリザベスとフランソワを可愛がっている涼子がおり、二人は切り返しによって互いの瞳を凝視し(画面いっぱいの顔のクロースアップ)、見つめ合うのだ。第2話において、初めて見つめ合うことが成立する(これについて後述する)。涼子は亮士からの視線を回避せず、彼の視線を受け止めるのだ。亮士が恐くなって視線を避けてしまう程(視線恐怖症が出たため)、彼と彼女はじっと見つめ合う。そこからは、亮士と涼子の今までの関係に変化が起きたこと、二人の距離がぐっと縮まったことが浮き彫りとなる。




 それに加え、エリザベスとフランソワを可愛がることをスーパーマーケットでは隠したのに対して、今回亮士に見られても涼子は隠さないのである。これもまた見つめ合うことと同じく大きな変化の一つだと思う。涼子は、自分の素直なありのままの姿(犬を可愛がる姿)・オオカミの毛皮を被らない姿を亮士に見せるのだ(亮士はオオカミの毛皮を被らない涼子の姿を見る)。そこからもまた亮士と涼子の距離が縮まっていることがわかる。ナレーションでオオカミの毛皮を脱ぐのはまだまだ先だと云うが、少しずつだが確実に毛皮を脱ぎつつあるようだ。




 何故、涼子が亮士からの視線を避けるのをやめ、見つめ合うことが成立し、二人の距離が縮まった理由をまだ書いていなかったので、説明していく。Bパート。不良たちにつかまった涼子を助けるため、亮士はスリングショットを用いて、涼子を救出する(この時、涼子は林檎から、第1話のストーカーの件の真相を聞かされる。亮士のスリングショットで手助けされたことを)。涼子はねこねこナックル改を使い、不良たちをバッタバッタと倒していく。同時に、亮士は涼子の援護をし、涼子の背中を守っていく。二人の華麗な連繋プレー(ナレーション曰く)からは、二人の間に信頼関係が構築されたことがわかるだろう。この時、実は二人は視線を交錯し、見つめ合っているのである(一瞬だが)。Cパートのように、互いの瞳の奥底を見据えるような強固な見つめ合いではないのだが、二人は確かに見つめ合っている。不良との戦いにより二人の距離は縮まり、もう既に見つめ合うことが成立していたのだ。この後、不良のボスを亮士が倒し、「涼子を仕留めるのは俺だ」と涼子のことが好きだと公言する。涼子は不良のボスを倒すという亮士のかっこいい一面を知る。連繋プレー+不良のボスを倒す+「涼子を仕留めるのは俺だ」発言を順次経験したために、Cパートのクロースアップの切り返しによる見つめ合いという不良との戦闘時の見つめ合いよりも強度の高い見つめ合いが成立したのだった。



 視線の忌避から、見つめ合うことへ。これらの視線のやりとりによって、涼子の心理的推移と亮士と涼子の関係の変化を描いていく。