『それでも町は廻っている』 変わらぬ日々とかなんとか


 TVアニメを観終わったので、原作を8巻まで一気に読む。


 読んでたらちょっと切なくなった。第6巻第44話「ざっくばらん」を読んだ途端に。僕には、「歩鳥が髪を切る」という行為が変化の象徴に思えてきて、いつまでも続くように感じられた日常の終わりが見えたような気がした。そしたら、なんだか悲しくなってしまった。

それでも町は廻っている 6 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 6 (ヤングキングコミックス)


 


 歩鳥は、変わらぬ日常を望んでいるように思える。商店街の皆がいて、タッツンがいて、紺先輩がいて、シーサイドがあって。第2巻第18話「穴」において、歩鳥は非日常/非現実的な出来事に遭遇する。

それでも町は廻っている 2 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 2 (ヤングキングコミックス)


 紺先輩は、その出来事に対して興味を示す。UFOや幽霊などオカルト関係が好きだという紺先輩は(第7巻第53話「コンタクト」より)、日常から離脱した非現実的なことを望んでいるのかもしれない。そんな紺先輩に対して、歩鳥は「先輩はそんなに平凡な日常が嫌ですか!」と云う。この出来事は最終的に穴を修復して終わる(余計なものまで修復してしまうが)。非現実的な出来事を修復して、日常に回帰するという答えを最後に歩鳥と紺先輩は選択する。歩鳥は、ずっと「このまま」が続くようにと願っている。「このまま」が破壊されることも、変化することも歩鳥は嫌っているだろう。


 第7巻第55話「時は待ってくれない」で、歩鳥の壮大な悩みとやらが明かされる。

それでも町は廻っている 7 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 7 (ヤングキングコミックス)


 その壮大な悩みの内容というのは、「家も商店街も学校も今の感じがずっと続いて、誰にも嫌なことが起こらず、誰ひとり欠けてほしくない。でも、そのために自分が出来ることなんてないし、欠けてほしくないことが増えるばかりだ」というもの。第8巻第65話「さよなら麺類」において、ラーメン大名行列が店を閉めることになり、閉店させない案を歩鳥が出すのだが、商店街の中のサイクルだけどうにかしようという無茶なものであった。

それでも町は廻っている 8 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 8 (ヤングキングコミックス)


 店を永久に続けさせようという歩鳥の考えは、変わらぬ日々を望んでいることを指し示してくれる。僕自身も歩鳥と同様に変わらぬ日々を望んでいて、商店街の皆・学校の皆・家族との日々がずっとこのままで変わらずに続けばいいなと思っている。TVアニメ版は、その願いが叶えられたものだった。日々の変化というものが物語から脱臭され、シーサイドの日々が永遠に続くかのようだった。だから、僕はTVアニメをとても楽しんで視聴していたのかもしれない。


 でも、必ず日々は変化して、いつもの日常には終わりが来る。それを気付かされたのが、「歩鳥が髪を切る」という行為だった。どんなに忌避していても、どんなに抗おうと、強制的に日々は変化し、いつもの日常に終わりが訪れる。時間は待ってくれない。第65話で日常を維持しよう(ラーメン屋が閉店しないよう)とした歩鳥だけど、結局ラーメン屋は閉店する。第8巻のあとがきにもあるように「どうにもならなかった」出来事。時の流れを停滞させることなんてできるわけがないので、「このまま」なんてことはあり得ない。いつもの日常の終わり(日常の変化)対して、歩鳥は結局どんな答えを出すのか。


 第1巻から第8巻まで、紺先輩と歩鳥のエピソードが度々ある(TVアニメ版にはなかった)。普段ムッとしている顔と態度から誤解され周囲から敬遠されていた紺先輩(年賀状が少ない)を歩鳥が徐々に変えていく。感情表現も豊かになり、商店街の人たちとも仲良くなっていく。バンドをしたり、旅行に行ったり、夏祭りに行ったり、歩鳥の家に泊まったりと、紺先輩は歩鳥たちと青春を謳歌する。でも、紺先輩もずっと高校にいるわけでなく、卒業してしまうわけで。第5巻第38話「俺たちは機械じゃねぇ!」で、紺先輩は卒業後に大学進学するかイギリスにいくか決めておきなさいと両親に告げられる。近くの大学に進学すれば、今まで通り歩鳥と会えるが、イギリスに行ったら、簡単には会えなくなってしまう。歩鳥の変わらぬ日々が変化してしまうのだ。第8巻第61話「大怪獣 尾谷高校に現わる」では、歩鳥が三年生になり、紺先輩が卒業している状態が描かれている(第48話は紺先輩卒業後のエピソードなのかも)。紺先輩の卒業に対して(日常の変化に対して)、歩鳥がどのような対応したのか気になる所。


 変わらぬ日々の維持とその変化がこの作品の主題の一つになっているのかと思ったり。歩鳥はどういう答えを出すのだろうか。



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 気になったことを箇条書きで。


・作者のあとがきを読んでびっくりする。こういうことを考えて描いているわけか。第4巻のあとがきは特に驚いた。

・第6巻から、ホント切なくなってくる。哀愁漂うエピソードが多くなってくるような気が。第48話は、春で表層的には明るいけど、なんか悲しい感じ。

・歩と紺先輩のエピソードは素晴らしい。第52話「秋まつり」とか特に。

・同窓会で真田は変わったと云われ、歩鳥は変わってない(むしろ幼くなっている)と云われる。それは、短い髪型のせいもあるのだと思うが、歩鳥自身が変わっていないせいなのかもしれない。

・歩鳥の進路について色々と書かれている。卒業後、大学に行くのか、探偵になるのか、介護士になるのか、保育士になるのか、シーサイドで働くのか。

・福沢さんにも(映研なのに新体操部にいなかったか?)、鈴木にも彼氏彼女がいる。時は経っていくんだなと感じた。

・ナンパされていたり、歩鳥って結構美人でモテるんだな。小学生の頃の歩鳥って、かなり美人のような。

・TVアニメの最終回で、町の風景を数カット挿入したのは正解だったなと思った。原作にはないけど、あれで感動した。

エビちゃんとタケルのエピソードが結構あってよかった。モデルの本を見せられた後、エビちゃんが遠くにいる夢を見るタケルの心情とか良かったです。タケルもエビちゃんのこと好きなんだな。タケルが頭いいってこと、アニメではわからんかった(描写されない)。

・TVアニメではエビちゃんがタケルに惚れた理由が分んなかったけど、頭がいいからなのね(それと優しい)。

・森秋の先生の小学校時の先生って、歩鳥の母ではないよね?

・おまわり強い。

・髪切った歩鳥って大人っぽいというか、若干落ち着いていているような。

・静ねーちゃんがもっと登場したらいいのにと思った。

・一気に読むと、伏線もよくわかって面白い。