『ましろ色シンフォニー』と細末なこと


 第10話までの感想を簡単にメモ。



 『ましろ色シンフォニー』では、些細な出来事が登場人物たちに大きな影響を与えているように思える。

 例えば、相手を下の名前で呼ぶことがそれにあたるだろう。親しくなったから相手を苗字ではなく名前で呼ぶことは、この作品に限ったことではなく多くの作品で行わられていることだと思う。別にそんな大したことではなく、多くの作品ではさらっと描写されるのだが、『ましろ色シンフォニー』では違う。この作品では相手を下の名前で呼ぶことは特別な意味を持つ。新吾が愛梨やみうや紗凪を苗字ではなく、名前で呼ぶとき大きく事態は進行する。相手との仲が一つ上のステージに進んで二人の仲がギュッと縮まり、他の登場人物は新吾と他の誰かが下の名前で呼び合っていることにひどく動揺する。下の名前で呼ぶなんて、そんな大したことではなく小さな出来事と思ったりするのだが、当の本人たちにとってはそうではなくとても大きな出来事なのだ。

 他人から見たら大したことではなくても、自分にとってはとても大事なことだったりするのを、『ましろ色シンフォニー』は積極的に描いている。


 前に書いた記事での、机を合わせる出来事がこれに該当する。他にも新吾がみう先輩の携帯電話の番号を知っていて紗凪がショックを受けたり(新吾は紗凪の番号を知らない)、ほんの些細な出来事で登場人物の心は揺れ動いていく。


 ちょっとしたことで一喜一憂する登場人物たちの繊細な心情を『ましろ色シンフォニー』では丁寧に描いていく。



・・・・



 第10話「なみだ色の雨やどり」の感想。


・第10話を見て驚いた。みう先輩に新吾が告白するとは。愛理はどうなんの?

 確かに、新吾の告白は唐突な出来事ではなく、今までの流れから見ると自然な流れのようにも思える。ここ数話は新吾とみう先輩の交流が積極的に描かれていたし、新吾が惚れるのはおかしなことではないだろう。


 告白のシーンで気になったのがこの1ショット。今まで二人にカメラは寄っていたのだが、カメラは引いて、部室のドア方面から二人を捉える。最初は気にならなかったが、紗凪が二人の抱き合うところを目撃していたことが判明し、これは紗凪の視点から捉えたショットだとということがわかる。この後ろ姿を見たときショックだっただろうな。




クライマックスも近いし、今後の展開が気になる。



・鳩を野生に返すシーン。「頑張ればなんとかなる。気合だ」と飛翔する鳩に対して叫ぶ紗凪。まるで新吾のことを諦めるなと自分自身に言い聞かせているよう。ここで、新吾はみう先輩が持とうとした籠を代わりに持とうとする。みう先輩と新吾を近づけさせないために、新吾から籠を取り返す紗凪。部室の清掃シーンでは、みう先輩の籠を持ってあげたように、紗凪が抱えていた水槽を代わりに持つ新吾。みう先輩と同じように扱われて喜ぶ紗凪の描写が良い。


 紗凪と新吾は水槽を二人で洗う。紗凪は二人っきりの時間を喜ぶ。ハンカチを新吾に渡されたのに喜び、離そうとしない紗凪。ここら辺の紗凪の描写は愛らしい。前に新吾に湿布をはり、湿布の臭さで女の子が近づかないと冷やかしたことがあったが(新吾を自分以外の女の子に近づけたくないという心の表れ)、紗凪の新吾に対するほのかな好意の描写が僕は好きだ。




・新吾とみう先輩の二人を二匹の捨て猫(新吾とみうの名前が付けられている)に仮託するエピソードがある。紗凪は新吾と名付けた猫を預かってとても可愛がっており、それは実際の新吾に対する愛情の表れ。


 猫のみうと新吾は別々の飼い主に育てらていたが、二匹とも結局互いを求めて、元気がなくなっていく。それを見て、紗凪は新吾とみうの二匹とも飼うと云う。これは、新吾とみう先輩が結局離れられなく互いを求めており、新吾は自分よりもみう先輩のことが好きだと悟り、紗凪は二人の仲を取り持つように、二匹を飼うと云う。


 実際は猫を飼う話であり、ホントの所そんなに大きなことではないのだが、紗凪にとってはとても大事なこと。紗凪は言動はがさつだが、中身は繊細な人物なんだと思った。



・ブランコで猫の新吾を抱きしめながら、実際の新吾を想いながら泣く紗凪。猫の新吾をギュッと抱いているのが物悲しい。



 みう先輩と新吾が抱きしめあうのを目撃し、悲しむ紗凪の気持ちを理解できるのは愛理しかいない。それは、新吾を好きな者同士しかこの気持ちを共有できないから。だからこそ、二人は抱き合いながら泣く。新吾に抱きしめられなかった紗凪と愛梨は互いに抱き合う。