『氷菓』第1話「伝統ある古典部の再生」 洗練された細密な描写の数々


 京都アニメーションの新作。武本康弘監督&賀東招二さんのタッグ。


 まず印象的だったのは、照明設計。自然光を強く意識させる照明設計を終始徹底させる。快晴の中では、夕日の中では、曇天ではどう光が差し込むのか。それを全編に渡って計算し、見事に表現している。照明設計やレンズなど、実写的であり(アニメ的な表現ももちろん随所にある)、今までの京アニ作品のどれよりも洗練されている。その細密な描写の数々は『けいおん!』よりも先を行っている。画面の端に映る小道具や人物のそれぞれの芝居、衣服のシワに至るまで肌理細やかな仕事はさすが京アニだ。夕暮れ/雨天の教室の中、夕暮れ/雨天の通学路、屋内と屋外の照明と陰影のつけ方の差異など、素晴らしい。




 第1話「伝統ある古典部の再生」で繰り返し映し出されるのは、人物の瞳。正確に云うと、千反田える折木奉太郎の瞳だ。第1話は『瞳』の物語とも云える。


 アバン。地学準備室で千反田える折木奉太郎が出会うシークエンス。ここでの力が入った歩く折木のPOVショットは見物だ。対面した二人の瞳を交互に映し出す切り返しショット。鮮烈に提示される『瞳』。この後、折木は千反田の『瞳』によって変化していくことになる。




 ここで感動的なのは、窓から吹き込む風だ。彼と彼女が視線を交換している際に流れるやわらかな風。停滞していた空気が、流れ込む風によってかき乱され、彼と彼女の髪は揺れる。何も変わらない灰色の日常をかき乱す風は、物語の始まりを、灰色の世界から多彩な色の世界への変化を示す合図だ。見ている者は、この風によって何かが始まるんだと視覚的に理解する。ちなみに、この直後に流れるちょうちょが歌うOP曲「優しさの理由」に「退屈な窓辺に吹き込む風」という歌詞がある(OP映像は灰色の世界が色とりどりの世界へと変わっていく)。




 アバンが終わり、Aパート入る。千反田が「どうやって閉じ込められた」ということが気になり、折木に一緒に考えほしいと頼む所。ここでのイメージ映像はかなり強烈だが、そのイメージ映像に入る前のカメラ位置の変化が気になった。部屋でのシーンでは、ずっと一定の方向から千反田たちを捉えていたのだが(図1)、千反田が気になった瞬間に、カメラの位置は今まで捉えていた一定の位置から逆の位置に周り(図2)、彼女たちを捉える。このカメラ位置の変化は、今までの流れが変わった瞬間を劇的に映し出す(イマジナリィラインを越えたわけでない、位置の変化の際に1ショットを間に入れている)。ちなみに部屋のシーン中、折木は画面右、画面左の配置を保ち続ける。

図1



図2




 千反田の髪が折木にまとわりつくイメージ映像。折木は、彼女の瞳に魅入られる。命令されたかのように、省エネの折木が千反田に従ってしまう。髪が折木にまとわりつくのは、彼女の力(魅力)に囚われてしまっていることを表すものだろう。千反田の瞳を見てしまうと、彼女の言うことをどうしても聞いてしまう。下駄箱でも彼女の言うことを聞いてしまうし、それ以降折木は彼女の目を出来るだけ見ないようにしている。千反田の瞳には魔力でもあるかのようだ。『瞳』によって、物語は進行していく。




 Aパートは折木のモノローグや折木の視点からの描写が度々あったが、Bパートに入るとその数はぐっと減る。その変わりに第三者的な、客観的なショットが増える。当初は自分の性格(省エネ)についてよく理解していた折木だが、千反田との出会いによって自分の元来の性格に変化が訪れる。Bパートでは自分の性格が変化し、自分がよくわからない状態になってしまっている。そのため内面描写の数が減り(折木の視点)、客観的な視点からの描写が増える。



 以下気になった所。 


 ラストの雨の中での下校シーンが好みだった。商店街の屋根の下を歩き、傘をさしたり、たたんだりを繰り返す。このやりとりが良かった。雨によって道路に反射するという描写の細やかさ。




 ペン回しの描写も見ていて新鮮だった。気持ちのよいペンの周り方をする。




 Bパートでは、印象的な見せ方が多かった。水彩画風の所もだけど、構図も。階段のところとか。




 主人公の心理の変化とヒロインの魅力的な描き方が巧いなぁと思った。これからどうなっていくのが楽しみです。