『おおかみこどもの雨と雪』 物語の語り方



 『おおかみこどもの雨と雪』を観てきました。面白かったです。


 僕の印象としては、登場人物たちを淡々と描いているなぁとか思ったりした。ロングショットなど、カメラは引き気味に登場人物を捉えることが多く、不必要に寄ることはない、そこから淡々としているなぁとか感じたりした。もちろん必要な時は、アップにはなるけど。


・・・・


 細田守監督の簡潔に、明瞭に、効果的に物語を語る手腕の巧さはさすがだなぁと思った。

 主人公である花の過去が、台詞によって説明されることはほとんどない。たぶん、花と彼と子供たちの13年間を描こうとすると語る時間がなかったのだろう。

 でも、所々に挿入される小道具や花の芝居によって花の今までの人生が見えてくる。

 例えば、父と花が一緒に映った写真。あれを見ると、花には母がいないこと、そして父ももういないことがわかる。それに加えて、花が彼と一緒の状態(天涯孤独)であり、似ていることもわかる。

 焼き鳥の独特の食べ方。コップの中にタレ(?)を付ける食べ方によって、花が家族と過ごしてきた時間とどのような環境で育ってきたのかがわかる描写であり、花の人物描写に厚みを与えてくれるものだ。


 『サマーウォーズ』で、食べ物/食事によって家族の絆を描いた細田監督だが(前の記事でも書いたが、侘助も加わり家族全員で食卓を囲みおにぎりを食べ一致団結するところととか)、今回も焼き鳥によって、家族の絆の創出を描く。本編中に2回登場するあの独特の食べ方は、花と彼が家族になったという証であり、花と子供たちの家族の証でもある。おそらく花は父から教わり、それを子供たちへと受け継いでいく。焼き鳥の食べ方によって、家族の絆を描いていく。




 服装の変化もよかった。わかりやすくて。

 花はいつもピンク・赤系の服を着ており、それが彼女のカラーとなっている。快活な彼女らしいカラーだ。

 5歳くらいまでの元気いっぱいな雪は、赤系の色の服を着ているのだが、成長するにつれ大人になってくると、青系の落ち着いた服を着るようになる。

 服装の変化によって、キャラクターの印象を操作していたり、単純だけど効果的だなと思った。




 普段は淡々としているけど、ここぞという時のシーンはすごく盛り上がって、観ていて気持ちが高揚した。

 雪が降り森と雪原を花と子供たちが全力疾走するシーンのダイナミズム。解放感と喜びが凝縮されたようなシーンで、花がおおかみのように叫ぶところとか、子供たちと一体になった、素晴らしいシーンだった。

 ラストの花と雨の別れのシーンもよかった。


 一番興奮したのは、嵐の中での小学校における雪と草平のシーン。雪が自分がおおかみこどもだということを明かすシーンであり、それだけでも気持ちが昂るのだが、嵐という舞台装置によって、より気持ちが昂った。


 雪が真実を告げると、草平は、「前から知っていた、誰にも言っていない、だから泣くな」と雪に返す。草平は、おそらくだけど雪には惚れていない(ちなみにおそらく雪も草平には惚れていない)。あの回答は、恋とか愛とかそんなものから来るものではなく、雪というおおかみこどもの存在を草平は拒絶はせず、承認している/受け入れてるから来る回答なのだと思う。あの瞬間、草平がその台詞をいったことによって、雪がこれから人間として生きていけることの証になり、雪は人間側でずっと生きていこうという決心に繋がったように思える。この世界には、おおかみこどもを排除しようとなんかせずに、共に生きていこうという人間が確かに存在している。草平のような強い人間がこの世界にいるのだ。だから、僕は草平の言葉を聞いて「ああ、雪はこれから人間として生きていける」と思って胸が熱くなった。あの瞬間に、雪の世界は生まれ変わったのだ。




 最後に思ったことを箇条書きで。


・彼をゴミ収集車で運ぶ際、花が駈けよってくるのだけど、カメラはロングから淡々と描く。ドラマティックに見せようとはせずに、カットを割ることもなくただそこで起きている事をありのままに映す。それによって、より花の悲しみが伝わってくる。


・嵐がきて自宅が停電になったときの、真っ暗闇の構図がめっちゃかっこよかった。かっこいい構図はいろいろあるけど、僕はあれが一番好みだ。雨は雷に動じることなく、雪は雷に驚くのもミソだなと思った


・おおかみに近かった雪が人間側に行き、家に帰ろうよといつも云って自然が苦手だった雨がおおかみ側に行くのも見せ方として面白かった。


・小学校にある鏡は、人間社会の象徴である学校という中にいる、人間でありおおかみである「おおかみこども」の雪の姿を映し出す装置として働いているように思えた。


・校庭が海になったところの美しさ。背景美術の美しさが目立つ。


・彼と花は写真というものを撮影しなかったんだな。


・疑問に思ったことが多かった。


 ぼろぼろの廃屋を修繕する間、どこで寝てたのかとか。まさかあの家の中で寝泊まりしていたのか? 


 雨という子供が一人いなくなったら大事件になると思うのだけど、そこは語られなかった。周りの人間にどう説明するのか。


 雨と雪って、別れ際に言葉も交わしてなければ、会ってもいないんだよなぁ。


 野菜を作っているときの時間の流れがちょっとわかりづらくて、短期間で野菜がすぐ育っているような錯覚を覚えてしまった。


 雨と雪に対する予防接種や定期診断とか、病院関係は結局どうなったのとか。投げっぱなしになっている。


 動物の死骸をゴミ収集車で果たして運ぶのだろうか?


 廃屋に来た時、虫がいっぱい飛んでいた描写は現実に沿ったものだなと思ったけど、なぜか途中からいなくなる。