『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』 身体的距離と心理的距離、そして壁


Shiro SAGISU Music from“EVANGELION 3.0

Shiro SAGISU Music from“EVANGELION 3.0"YOU CAN(NOT)REDO.


 観てきて思ったことを。


 今回、感じたことが身体的距離と心理的距離、そして壁。

 
 シンジと他の人物の間には、壁がある。


 それは時に目に見えるものだったり、目に見えないものだったりする。

 ヴンダーの艦内において碇シンジは、葛城ミサトや赤城リツコたちと会話するのだが、そこにはガラスの透明な壁が設置されており、彼と彼女たちは遮断されている。目で見たり、会話もできるが、シンジはミサト達とは触れ合うことはできない。式波・アスカ・ラングレーがシンジを殴ろうとするが、ガラスがあり、それは叶わない。ガラスにヒビが入るだけで割れることはなかった(ここについては、後述する)。壁によって、アスカも触れ合うことはできない。


 この時点で、彼と彼女たちは、触れ合うことができず、壁も破られることもない。



 舞台はネルフ本部へと移る。そこで、シンジは綾波レイ(仮称)と会う。しかし、彼と彼女の間には一定の距離があり、どのシーンにおいても距離を縮めることはない。身体的距離も心理的距離も離れている。象徴的に扱われるのが、レイの住まいでのシーンだ。シンジは彼女の部屋(小屋みたいなものだが)に入ろうとするが、寝袋があり、入ることをやめる。それ以降、シンジは決してレイの部屋には入らない。鍵もかかってないのだから、中には入れるはずだと思うのだが、そのようなことは一切しない。それはシンジとレイの間にある「壁」を明確に表す。彼と彼女の間には、壁があり、身体的にも心理的にもその距離を縮めることができないのだ。



 ミサトともレイとも、身体的・心理的に距離を縮められないシンジだが、彼と距離を縮められる人物がいる。それは、渚カヲルだ。ネルフ本部におけるグランドピアノでの連弾シーンで、シンジとカヲルは同じ椅子に座り、旋律を奏でる。もはや、その距離はほぼゼロといってもいいほどだ。そこで、身体的距離も心理的距離もぐっと縮まり、二人の仲は親密になっていく。それ以降、横たわり星空を眺めるシーンなど、シンジとカヲルはいつもそばにいる。本編中、ここまでシンジとの距離を縮めるものはいない。それに加え、誰も触れようとしなかったシンジの手にカヲルは手を触れるのだ。もはや、シンジとカヲルの間には壁はないように思える。


 シンジはネルフ本部にいる時、何もない白い部屋で寝泊まりをする(電話は設置されているのだが、こちらから連絡することはできない)。なぜだか、その部屋を入退出する描写が欠如している。そのため、シンジの部屋が外部から分離されているような感覚を覚える。あの空間だけ、浮いているような感じ。

 
 白い部屋は、シンジの心の殻のようなものの役割をしているように思える。誰も彼の部屋(=心の殻)に入ろうとはしないが、彼の心の中(=部屋)に足を踏み入れ、あまつさえベッドに座るカヲルは、シンジとの壁を取り除いた人物に思える。ベッドの上に腰かけ、SDATを間に挟んでの、シンジとカヲルのクロースアップの切り返しがあるのだが、彼らの切り返しでの視線の交換を見ると、そのまま抱きつき、キスでもするじゃないかと思うほどの親密なものに映るのだが、シンジとカヲルの間にはSDATという壁がある。本編中、SDATは、シンジとカヲルを繋ぐ役割を果たしていたが、それとは反対の役割を映像的に指し示す。あれほど親密になっても、彼と彼の間は阻まれている。


 エヴァ13号機で出撃する際、シンジとカヲルは手を繋ぐ。身体的距離はゼロになり、シンジとカヲルの心は繋がれたかのように思える。エヴァ第13号機のダブルエントリーシステムで、シンジとカヲルはまたもやそばにいるのだが、しかしそこには目に見ない壁があり、彼と彼の間は分断されていた。シンジはカヲルに近づこうとするも近づくことはできない。


 結局は壁があり、シンジとカヲルは真に触れ合うことまで至らなかった。



 だが、シンジの心の殻を壊したものがカヲルの他にもう一人いる。それは、アスカだ。フォースインパクトが阻止され、地上に落ちたエントリープラグ内でひきこもるシンジ。エントリープラグは、シンジの心の殻だ。アスカは、心の殻=エントリープラグをこじ開ける。そして彼女は、シンジと手を繋ぎ、歩き出す。


 彼の心の殻を壊し、シンジとの身体的・心理的距離をゼロにする人物。シンジと真に触れ合える人物はアスカなのだ。そこにブンダ―での壁を壊しかけたアスカの描写に繋がってくる。


 ラストのアスカの行動は、とても希望を感じものだった。シンジは一人ではないのだ。壁を打ち破ろうとする人がいたという希望。



・・・・



 他の感想を。


・ヴンダーを見てナディアっぽいなと思い、周りの人間が自分よりも早く歳を取っていく(見た目が変わらないだけだが)のはトップっぽいなと思った。


・アスカはしきりにシンジを「ガキ」という。シンジの態度や行動を見ていると、自然と思ってくるが、28歳の人間がわざわざ云うのかとちょっと不思議に思った。14歳のしていることなんだから、ガキは当たり前でしょう。「しょうがないなぁ」としか僕は思わないんだが。アスカにとって、成長していないシンジに怒りを覚えているからかもしれないけど、28歳の人間が云うことじゃないなと、鑑賞中思っていた。28歳だけど、アスカ自身あんまり成長していないんじゃないのかなと思った、28の女性がネコ耳っぽいものが付いている帽子を被らんでしょう(あまりにも子供っぽい気が。でも、あの世界では衣服関係は調達しにくく、他にないから、仕方なく被っているのかもしれない)。言動も、ミサトと同じくらいの歳の言動とは思えない。


・シンジは今回、かなり受動的だ(今に始まったことではないが)。Mark.09でネルフ本部にいざなわれ、カヲルにうながされエヴァ13号機に搭乗し、アスカに連れられて行く。ネルフ本部では、衣服も食事も電話さえも、与えられることしかできない。ここまでの受動っぷりは踏み台に思える。次回の劇場版では、能動的に動いていくのだろう。


・冒頭、シンジが目を覚ますと、14年後の世界になっていて、みな変わっていた。そこで感じたシンジの疎外感を、ロングで表したショットがあり、そのカメラサイズで彼の一人(=孤独感)を表す。