『凪のあすから』 5年後の世界について


 『凪のあすから』は、第14話「約束の日」から、おふねひきから5年後の世界が描かれている。


 1クール目では、海の世界の光たちと陸の世界の紡たちとの異種間の交流が描かれていた。違う世界で生きていた者たちがどうやって交わっていくのか。互いの違いから生まれる対立・壁をどうやって乗り越えるのか? 理解できるのか? というものに主眼が置かれていたと思う。

 本作のテーマは、自分と違いがある者(異なる者)たちとどうやって交流していくのかということだと思う。その過程で、違う者と接した時、自分が変わっていくのか・変わらないのか? ということも生まれてくるわけで。


 1クール目では、海と陸というものだったが、2クール目からはまた別の異なることが登場する。

 それは、「時間」だ。「5年の時を経て変わった者たち」と「まったく時を経ずに変わらなかった者たち」がどうやってまた交流していくのかが2クールのテーマなのだろう。


 自分だけ成長せずに、周りの人間が成長するという舞台装置は、珍しいものではなく、『トップをねらえ』のウラシマ効果や『おねがい☆ティーチャー』の停滞、『ラーゼフォン』においての神名綾人と紫東遙など、それこそ岡田麿里脚本の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』も、子供のころのめんまと成長したじんたんたちの物語であり、この舞台装置を取り入れたアニメ作品は多い。しかし、本作はどの作品よりもこの舞台装置が物語の重要な位置を占め、本腰を入れて描いているように思える。そこが2クール目の見所だと思う。自分を置いて変わってしまった世界に対する戸惑い、大事な者が変わらずに自分だけが変わっていくという葛藤、これらのテーマをどうやって切り込んでいくのか楽しみだ。


 2クール目からは、OP&EDも新しくなった。

 OPのタイトルバックの時に登場人物が輪になって映し出される。そして、皆の目線はバラバラに誰かを見つめているように見える。カット割りによって、光はまなかがいる海を見つめ、ちさきは光を見つめ、要はちさきを見つめ、同じく紡もちさきを見つめ、美海は光を見つめ、さゆは要を見つめているように映る。そして一様に、皆目を逸らしてしまうのだ。その逸らすことによって、見つめるものが届かないようなものだと伝えているかのようだ。

 実際にはみんな海を見ているのだと思うが、カット割りによって僕はそう感じてしまう。




 冒頭で美海が持っている赤い傘が風によって飛ばされる。しかし、ラストで傘は戻ってくる。それを誰かが掴むのだが、誰かが掴んだかは描写されない。しかし、美海ならば、制服の袖が映るはずだが、映らない。そこからまなかが掴んだように見えてくる。果たして、まなかは再び帰ってくるのだろうか。




 第15話では、度々窓ガラスなどに反射される登場人物の顔が挿入される。そこで、光は何も変わっていない自分の顔を見つめ、自分の周りだけが変わってしまったのだと悟る。美海は自分の顔を見つめ、成長した自分・光と同い年になった自分を見つめる。ちさきは、変わってしまった自分の顔を見つめ、その変わってしまった嫌悪感からふさぎ込んでしまう(また、鏡に映った自分の身体をみて)。このガラスの反射を使った今の自分を見つめるという演出がなかなかよかった。自分が今どうなってしまったのかという差異を浮き彫りにする。






 光は目覚めたあと、世界がチカチカすると感覚に襲われる。それは、五年もの間眠ってしまっていたせいもあるのだが、光には変わってしまった世界があまりにも眩しすぎるのだ。皆が大人になっている世界は、今の光には辛すぎる。




 第15話でのこの構図のショットが好きだ。画面右のそびえ立つ灯台(逆光によって暗影となっている)と一人佇む光の構図が寂寞な想いを抱かせるが、画面左上の雲の間から光り輝く太陽と流れてくるメロディによって、まるでこれから光に福音(善きこと)が訪れるかのようになっている(このあと、ひかりはちさきと出会う)。光と影が同居した印象的な1ショットだ。




 光とちさきが再会するシーン。ここでのカット割りがなかなか面白い。光とちさきが出会う時、彼と彼女間には柱があり、映像的に分断されている。柱の分断が指し示すように、彼と彼女の間には壁がある(時の壁)。その後のカット割りでは、光とちさきを同一のフレームに収めることはない。切り返しショットなどによって、彼と彼女が同一フレーム内に収まることを避ける。そのことによって、彼と彼女の世界はカット割りによって分断されている。しかし、光がささきのことを「変わっていない」ということを伝え始めると、彼と彼女は同一のフレーム内へと収まっていく。それは、彼と彼女の分断(=壁)が取り除かれたことを示してくれる。




 ちさきと光、ちさきと紡の関係がこれまた面白い。紡は、成長して大人になったちさきに対して「綺麗だ」と云う。それは、変わってしまったちさきを肯定する言葉であり、現在のちさきを認めることだ。しかし、光はちさきのことを「変わっていない」という云う。それはちさきが昔のままだということ。ちさきは、「現在」の男の紡と「過去」の男の光とどちらを選択するのか。今彼と元彼の間で揺れ動く女子っていう感じ。いや、第14話での「団地妻」という言葉の通り、今の夫と再会した昔の男の間で揺れ動く奥さんっていう感じか。光と再会したちさきが、紡に会うシーンの気まずさはまさにそんな感じだ。


 第15話ラスト、美海は新しい旗を作る。ハートのツギハギやちょうちょなどの絵柄は「今」を象徴するものであり、新しい光の居場所を象徴するものだ。




 2クール目に入って、ますます面白くなってきている。今一番面白いアニメ作品は『凪のあすから』だと僕は思っていたりする。これからどう展開していくのか楽しみだ。