東のエデン 第10話「誰が滝沢朗を殺したか」が面白い

反射

 第10話では、人物がよく窓に反射される。ヘリでの滝沢と物部や新幹線での咲。もちろん、それは時刻が夜間なので必然的なことなのかもしれないが、窓に反射されるのをうまく用いて登場人物の心情を表現している場面もある。


 咲が滝沢に「あなたは誰?」と問いかける所で、カメラは直接咲の顔を捉えずに、窓に反射された咲の顔を捉える。「窓に反射され顔」、それは鏡像の世界の咲であり、彼女の心の中を投影した内面世界の咲を捉えている。窓に反射させることにより視聴者を滝沢に対しての不安で苦悩する咲の心の中、内面世界へと入り込ませてくれる。それによって、彼女の心の中を深く感じ取れるようになっている。

 それに加え、窓から透けて見える外の景色は、夜の闇に覆われた世界、雪が新幹線に乗っているため激しく吹き荒れる吹雪のように見える。暗い世界に吹雪が吹き渡る、それは彼女の苦悩する心象風景をそのものを表している。

 滝沢の話を聞いていくと、徐々に咲の表情が変化していく。「自分の正体を知っている奴と話す」と滝沢に言われ、反射された彼女の顔からダイレクトに彼女の顔を捉える。この反射からの転換により、彼女の気持ち変化(転換)が訪れたことを視覚的に表現している。







携帯電話

 滝沢と物部、咲とみっちょん、平澤と大杉とおネエと春日、時を同じくして三つの異なる場所での出来事を平行(並行)モンタージュを使い表現している。ここで注目したいのは、滝沢と物部の会話を携帯電話を使って聞いている咲とみっちょん。咲とみっちょんは、異なる空間に身を置きながら、あたかも滝沢達と同じ空間で会話を聞いているようになっている。それを実現させているのが携帯電話というガジェット、平行モンタージュの同時性をより強固なものとしている。





 異なる空間で滝沢達の会話をリアルタイムで聞いている、しかしその会話に彼女らは決して参加できない。この咲達の「受ける」しかない一方通行の状況は、まるで劇場で映画を観る観客のようであり、携帯電話で会話を聞く行為が彼女らを観客へと変貌させたのだ。それは、TVで視聴している我々視聴者と同義語だろう。第10話は滝沢と物部の会話により、この作品の謎を解き明かし、延々と説明していく回だ。説明というもので重要なのは、視聴者を飽きさせないことであり、説明に視聴者をついて行かせる必要がある。そのために、作品世界には視聴者の代弁者、視聴者の分身を置き、視聴者を作品に没入させなければならない。その分身というのが、咲とみっちょんである。携帯電話で会話を聞くことしかできない咲とみっちょんという視聴者の分身がいることにより、視聴者は作品へと一層のめり込むことが可能になった。携帯電話で会話を聞くことは、咲に滝沢の正体と謎を明かすこと目的もあったが、視聴者の分身の役割も果たしていたのである。


 
 しかし、それは突然断絶される。滝沢が裏切られた経緯は視聴者に語られず、咲達だけが知ることになる。ここで、咲達と視聴者は切り離される。それは説明が終わったことを意味しており、また突然切り離されるため「滝沢が裏切られた経緯」が深い謎として視聴者に提示されることになる。








ATO播磨脳科学研究所

 滝沢と物部が脳科学研究所に入る所で、巨大な動く歩道のようなもので移動する(図1)。自動で動く歩道は、まるで滝沢達を脳科学研究所に飲み込ませるように、上から下へと滝沢達を運ぶ(図2)。飲み込ませるような感覚が、日常から別の世界へ(脳科学研究所)といざなわれるようなイメージを与えている。動く歩道は、日常から別の世界へと移動させる装置としての役割を果たしている。

図1

図2




 結城が自分の過去を語る所では、カメラは穴の中から見上げるように結城達を捉え、ゆっくりと引いていく。まるで奈落の底へ落ちていくかのようなイメージを視聴者に与え、結城が社会から転げ落ちていく様と結城の社会に対する絶望をうまく表現している。

 無機質で巨大な穴が尚更に、結城が社会から受けてきた無情の扱いを際立たしている。
 

 そして、仰角から結城を捉える。結城が何かを見下したようなアングルになってるため、台詞の内容である政府や世間の人々を見くだしたイメージを与え、台詞と映像がうまくシンクロしている。






列車

 列車に飛び乗った滝沢。列車の屋根でフードを被り寒さから耐えている滝沢のカットで第10話は終了する。このカットには、寒さに耐えているのとは違うもうひとつの意味がある。それは、皆から裏切られた事実を知り、その裏切りの悲しみに必死に耐えている滝沢の心情をも意味している。自らを抱きしめるような姿が物悲しさを引き立てている。顔の全体が描写されないため、彼が涙を流しているようにも捉えることができる。




誰が滝沢朗を殺したか


それは、咲自身でもあった。