初恋限定。 第9話「その思い出には満開の」が面白い


 さっき、録画していた「初恋限定。」第9話を観終えたのですが、すごく面白かったです。「おぉ」って勝手に思ったのは僕だけかもしれんが、そのことについて個人的に思ったことを色々と。






始まりも終わりも「放課後の美術室」

 第9話は、「放課後の美術室」から始まる。そして、第9話の終わりも「放課後の美術室」から出ていく千倉で終わる。では「放課後の美術室」とは一体何なのか。それは、千倉と連城が共に絵を描いた場所であり、千倉が連城に会える唯一の場所、そして二人が初めて出会った特別な場所。千倉にとって、「放課後の美術室」は、初恋が始まる場所であり、そして終わる場所、「初恋=放課後の美術室」と考えていいだろう。


 ラスト、千倉が「放課後の美術室」を出ていく。連城との初恋の象徴である「放課後の美術室」を自らの手で出ていく、それは、千倉の初恋からの卒業であり、新しい恋の始まりと捉えていいと思う。




 第9話の始まりも終わりも「放課後の美術室」なのは、千倉の初恋が「始まる事」と「終わった事」を示している。




 また放課後の美術室は、誰にも邪魔されない、誰にも触れられない、千倉と連城だけの空間でもある。なので誰一人、二人がいる美術室には入って来ないし、入れない。それは、千倉と連城「だけ」の特別な場所であることを意味している。曽我部が美術室をのぞき込む場面があるが、彼はおもわず仰け反ってしまう。それは、千倉と連城が仲良くしているところを目撃したこともあるが、放課後の美術室が二人以外入れない特別な場所だということも示している。これにより、放課後の美術室がいかに特別かということを視聴者に伝え、他の場所とうまく差別化をしている。






「また明日」


 「また明日」という言葉が初めて口にされるのは、千倉と曽我部が二人で下校する場面。「また明日」を千倉に伝え大喜びする曽我部、千倉も「また明日」と返す。「また明日」は再会の約束であり、再び千倉に会えることが約束されたため曽我部は大喜びした。「また明日」という何気ない別れ際の言葉が、今回の一つの鍵になり、登場人物達それぞれの心情を表現していくことになる。





 千倉と曽我部がまた二人で帰る場面。千倉に「また明日」と言われたが、曽我部は「また明日」が言えなかった。そこで曽我部は「僕に何が言えるって言うんだ」とこぼす。それは連城と千倉の親密な仲と、自分よりも全てにおいて優れていて自分よりも千倉に相応しい連城に対して、「また明日」と言って千倉に再び会う資格が自分に存在しないと考えたからだろう。「また明日」が言えないということを使って、曽我部の心情をうまく表現している。それに加え、前回と同じシチュエーションなのだが、若干日が落ちており、曽我部の落ち込んでいる心情をもあらわしている。


 千倉が連城に初めて絵を指導してもらった時の別れ際に連城は「また明日」と言う。その後の別れ際も「また明日」と言っていただろう(描写されないため確実なことは言えない)。連城は千倉に対して、「また明日」という再会の約束を毎回交わしていた。しかし、千倉と連城が桜の木の前で語り合う場面。ここで、千倉は「また明日」と言ったが、連城は「また明日」とは返さなかった。「また明日」という再会の約束を取らなかったということは、連城が千倉に会わないこと意味している。でも、千倉は「また明日」と再会の約束を交わし、また連城と会えると思い込んでいるのが物悲しい。「また明日」が言えないことを使い、二人の別れを予見させる作りになっている。


 下手(画面左)にフレームアウトしていく連城。フレームアウトしていく様が舞台から退場しているように見え、連城が去ることを予感させる。






ホワイトの背景


 恋をしている時や気持ちの変化が訪れた時に、人物がカメラに捉えられると背景がホワイト(もしくは淡い桜色)になる。それは、詳細に書きこまれ情報量の多い背景よりも、情報量のまったくない真っ白な背景にすることによって、登場人物達だけに視聴者の焦点を合わせることができ、登場人物達の心情の変化(恋)を視聴者に視覚的に伝えられる。







屋上と踊り場


 連城の手紙を読み、無我夢中で走って、屋上へ向かう千倉。途中、屋上へ着く前に彼女は踊り場で躓いて転んでしまう。屋上には飛行機*1が飛んでいる。それは「旅立った連城」のメタファーであり、あの光輝く眩しい屋上は千倉にとっての「連城」ではないのか。その「屋上=連城」の直前で彼女は一旦躓いて泣き崩れてしまう。それは、連城に届かなかった想いであり、伝えられなかった想いを表あらわしている。




 屋上に向かい、遠くの空を飛んでいる飛行機を見上げる千倉。そこには、既に連城はいない、「遠くの空を飛んでいる飛行機=旅立った連城」がいた、それをただ見つめるしか出来ない千倉。そこでまた千倉は泣き崩れる。「遠くの空を飛んでいる飛行機=連城が旅立った」ことを改めて認識し、連城との日々を思い出し、泣き崩れる。



 少し話はずれるのだが、僕はこの場面で「時をかける少女」を思い出した。登場人物が「走る」ことと一緒に「曲」が流れることは、受け手の感情を高揚させる効果が少なからず存在しているのだろう。






ちょっと気になったこと

・背景

 一話目から気になっていたこの背景。背景を制作しているのは「ととにゃん」。加藤光子さんと加藤浩さんによって設立された会社で、「絶望先生」シリーズの背景などを制作していたらしい。加藤浩さんと言えば、エヴァ美術監督を担当していたことで有名な方。僕はそれぐらいしか知らなかったわけでですが(あとほんの数本)・・・・。アニメーションノートに特集が組まれてるらしい。



・ストーブ

 ストーブを使って、時間経過を表現しているのはうまいなと思った。ストーブの火が徐々に消えていく様を見せることによって、急な場面転換をせずにゆっくりとした間を使って場面転換できる。千倉と連城が絵を描いた時間をちゃんと実感できるようになっている。







・印象的な絵

 画面一面桜色(ピンク)になっていて、千倉が連城と一緒に絵を描いていられる時の千倉の幸福感が画面から伝わってくる。視覚的にとても効果的だと感じた。







改稿 2009/6/11   

*1:実際は連城が乗っているか定かではない、っていうか十中八九乗っていない。それに飛行機が実際に飛んでいたのかも定かではない。飛んでいる飛行機はあくまでも「旅立った連城」を意味しているものになっていると思われる