けいおん! 第11話「ピンチ!」が面白い

校舎と図書室と階段


 「けいおん!」第11話は梓のモノローグから始まる。視聴者の不安を煽るような音楽が流れ、水たまりに映り湾曲し反転した校舎、図書室で机を挟み二人向かい合う女生徒、階段の上に置かれた二つのバッグの順に描写される。この三つの風景が何を意味しているのか、梓の「こんな危機が訪れるとは」の言葉通り、これから起きる澪と律の不協和音を意味している。




・湾曲し反転した校舎、「今までの彼女らの日常=校舎」が湾曲し反転しているとうことは、今までの日常に何らかの変化が訪れることを意味している。

・図書室で向かい合う二人の女生徒は、澪と律を表しており、誰もいない図書室で二人っきりで向かい合う二人=彼女らの誰にも触れられないほどの深い友情、親密性を表している。

・階段の上に置かれた二つのバッグのうち一つは、ストラップが多く付けてあったり口が開いていたりと律の活発さとだらしなさ表しており、左に置いてあるバッグは律を表したものになっている。右のバッグはストラップが付いてなく、口も閉じている、これは真面目でしっかり者の澪を表している。この「二つのバッグ=澪と律」の目の前には下にくだっていく階段がある。これは、律と澪にこれから訪れるであろう、タイトルにもなっている「ピンチ=危機」を意味している。


 日常の変化、澪と律の親密性、澪と律二人の友情の危機、とても仲が良い澪と律に起きる友情の危機とそこから派生する学園祭を前にした軽音部の危機をたった三つのカットで見事に表現している。この冒頭の一連の流れは、短いけどすごい。







心のすれ違い


 第11話は、静かに、少しずつ、律と澪の心がすれ違って行く様を描写していく。注目したいのは、いつも楽しくはしゃいでいる彼女達の様子が徐々変化していく様を本当に少しずつ丁寧に描いていること。大きな喧嘩や事件があるわけではない、ちょっとした出来事がどんどんと積み重ねられ、収束していき、そして最後に大爆発するという構成が観ていて見事だなと思った。


 始まりは楽器店。ベースから離れない澪と少し強引に引きはなさそうとする律。何気ないいつも通りの光景。しかし、ここから歯車が少しずつ狂い始めてくる。

 前景に唯と梓と紬、後景に澪と律。普段通りの光景なのだが、澪が倒れることによって状況が一変する。

 「何やってんだよ〜、澪」と声をかける律に対して、一人立ち上がる澪。ここでは一貫として澪の表情が見えない。描写させない。二人が顔を向かい合わせないとうのは、コミュニケーションが取れない、意思疎通の遮断、律と澪の親密な関係にほんの少しヒビとも言えない傷が入ったということを「顔を向き合わせないこと」と「澪の表情を描写しないこと」で表現している。




 Bパートに入り、場所が喫茶店へと移動する。冒頭、状況を説明するために喫茶店のメニューが載った看板、時計、アイスが描写される。ここで注目したいのは時計。時計は作中の時間経過を表すための役割を担っているのだが、ダッチ・アングル(画面が斜めになっていること、緊張感を出す時や注目させたいときに使う)になっているため不安や緊張感というものが付加されている。連続して流されるイメージの中に一瞬だけ視聴者に不安や緊張感を与え、楽しい喫茶店のシーンではない「不安定な何か」を感じさせるようになっている。


 しかも、唯や澪が楽しそうにしているのに、音楽が流れない*1。唯たちの楽しい雰囲気を出さして盛り上げるために普通BGMが流れるのだが、まったく無音の状態になっている。BGMが流れないことによって、妙な違和感が起きている。

 唯たちが談笑しているのを遠くから見ている律と梓と紬。この時点では、梓も紬も律の心の変化には気づいていない。「探偵さんみたい」という紬の発言が律の心境と紬のズレを際立たせている。

 澪たちの中に強引に入り込む律。ここでやっとBGMが流れる。この時点で澪や紬や梓が律の様子の変化にほんの少しだけ気づくが、すぐさま消えてしまう。「アイスが溶けちゃうのに」という一言で律の様子が普段と違い、少しおかしいことを表現しているのがすごい。何気ないんだけど、かなり効果的だ。




 時間と場所は変わり、澪と和が教室で昼食をとっているシーンになる。ここでは、喫茶店で流れていたBGMがまだ流れており、持続している音楽により律の心の動揺が継続していることがわかる。律の顔全体にかかった影が、彼女の心に影が落ちていることを伝えている。




 圧巻なのは、音楽室での練習シーン。ここでは、徹底的に澪と律の心のすれ違いを見せ、それにうろたえる唯たちが本当に見事なまでに描写されている。

 まったく話がかみ合わない律と澪。ここで徹底的に心のズレを表現していく。カット割りは普通なのだが、その普通さがこの奇妙な澪と律のやり取りをこれでもかと際立たせていて、澪と律のいつもと違う「違和感」を増幅している。



 律のやりたい放題な行動におもわず怒鳴ってしまう澪。

 ここで、驚いたというか、すごいなと思ったのが、唯の「えっ、何、どうしたんだろ」という一言。澪の怒鳴るという事が、この事態が尋常ではないと気づかせる転換点になっていると思うのだが、それよりも唯の「えっ、何、どうしたんだろ」という、いつも明るい彼女の、今まで聞いたことのない動揺した口調で発する一言が、この事態がどれほど深刻かを一瞬で、しかも絶大な効果を持って表しているのが個人的にすごいなと感じた。

 梓のフォローと後輩にフォローさせるのが悪いと感じ練習を始める澪と律の一連の流れもいい。





 律が部室から出て行った後に、学校の景色が三つ映し出される。


 一つ一つの景色ではいまいちピンとこないが、これが連続して映し出されるとかなりの効果が生じる。校舎窓からの風景、階段とバラバラにある上靴、廊下にぽつんと置かれたバッグ、この三つが連続して描写されると何とも言えない寂しさや物哀しさが滲み出てくる。律がいない軽音部のイメージとどこか重なる。







みんなの心のズレを描いていく様は、ホント凄かった。



おまけ


 自分が悪者になって、律がどれほど大事か気づかせてそれを言わせるように仕向けるさわ子先生。意外と大人なんだなと感じた。その言わせた時のしたり顔が。


*1:茶店に入ってる時点でいつもなら流しているのに