かなめも 第6話「はじめての、恐い話」が面白い

かなとクラスメイト

「おばあちゃん。みんな親切です、みんなやさしいです。でも、心がザワザワなるのは、台風が来ているせいなのでしょうか?」

 銭湯からの帰り道。台風による強風で飛ばされたかなは、クラスメイトである直と文と偶然再会します。そこで、かなは料理部の先生へのバースデーケーキ作りに自分だけ誘われていないことを知るのです。それは、おばあちゃんを亡くしたばかりのかなへの文と直のやさしさから来る気遣いだったわけですが・・・・。


 このアバンでは、風新新聞のメンバーとの賑やかなやりとりから一変、少し重苦しい雰囲気へと変わります。その変化について。


 直と文がバースデーケーキ作りにかなを誘わなかったことを打ち明ける所で、何故かみんな傘を取りません(図1)。普通なら直ぐに傘を取って、濡れないようにするのですが、皆豪雨にさらされたまま会話が続くのです。これは、バースデーケーキ作りにかなを誘わなかった事を打ち明けるという重苦しい雰囲気を作り出すために、わざと傘を取らずに皆を雨に濡らさせたまま会話をさせたのでしょう。雨に打たれ、びしょ濡れな3人の姿が物哀しさと緊張感を生みだしています(図2)。それと同時に傘を取る描写を入れて、テンポを狂わせたくなかったというのもあるのでしょう。
図1

図2


 かなの「そうだったんだ」の台詞の直後、ディゾルヴして、強風でぐしゃぐしゃになった美華の傘が描写されます(図3)。なぜ、この壊れた傘が描写されたのか(ディゾルヴは単なるトランジションというわけでもなく、前後の意味も重要になってきます)。これは、かなの心境を表したものと捉えることができるでしょう。直と文のやさしさから来るケーキ作りに誘わなかったことに対してのかなの複雑な心の内。なぜか、ザワザワする心。壊れた傘は、かなの不安・孤独感・疎外感などのマイナスなイメージの象徴として捉えることができます。
図3


 そして、かなの持っていた赤い傘は強風によって飛ばされてしまいます(図4)。この飛ばされた傘が示すものは、後々はっきりと判明するので、後で。
図4



赤い傘


 Aパート、Bパートでは、かなと風新新聞メンバー(それと美華)による停電した中での大騒ぎが繰り広げられます。かなは、暗い所や怖い話(恐い話)が大の苦手です。そこでかなのために、咲妃(代理)は奮発して「多め」に蝋燭を用意したり、怖くてトイレに一人でいけないかなのために付いていってあげたり、みんなでかなの部屋に一緒に行ったりと、風新新聞メンバーはかなのために行動します(図5)。そうして、みんなが自分の事を本当に想って「やさしく」してくれていることから、かなは人からの「本当のやさしさ」に気づいていくのです。アバンでは、人の「やさしさ」で少しだけ傷ついてしまい、心がザワザワしたかなでしたが、風新新聞メンバーの「やさしさ」に触れ、人に「やさしく」されることの喜びを再びに感じ取り、心にあったザワザワがなくなっていくのでした。
図5
 


 その心のザワザワがなくなっていくさまを赤い傘で表現していきます。この赤い傘というのは、アバンで強風によって飛ばされ失くした傘のことです。アバンで失った赤い傘は、かなの心の欠片、人からの「やさしさ」を喜ぶ心が飛んでいってしまったことを意味してると捉えることができます。ケーキ作りに誘われなかったこと(やさしさからの)により、人からの「やさしさ」をどこか喜ぶことができなくなってしまったかな。でも、風新新聞メンバーによって、人にやさしくされることの喜びを再び取り戻すのです。そうすると、失くした赤い傘が自分の手元に戻ってきます(図6)。赤い傘を使って、かなの心の変化を描写した効果的な表現でした。
図6


 赤い傘を直接取る描写を、直と文が再び誘いに来る後に持ってくるのは、とても感動的な仕掛けで、かなのモノローグ(BGMも)が胸に響きます。かなが走っている様もラストを盛り上げてくれます(図7)。前にも書きましたが、ラストに走る行為はホント感動します。それにしても、なんで、こんなに心が踊るのでしょうか?
図7
 

「おばあちゃん。台風がいなくなって、私の胸のザワザワも、どこかいっちゃったみたいです。みんな、みんな、本当にやさしいです。それが、本当に嬉しいんです、私」

第6話は


 今回のエピソードは、かなが人からやさしくされることがどれほど嬉しいことかを再確認するエピソードだったと思います。風新新聞メンバーの騒ぎっぷりが凄過ぎてその事が薄れがちだったと思いますが・・。はるかさんが暴れすぎというか、なんというか。いつもの事なんですけど。始めの頃は、ギャグとシリアスのあまりのアンバランス差に戸惑っていましたが、慣れてきた(?)せいか、あんまり気にならなくなってきました(良い事なのか、悪い事なのか)。今では、それが「かなめも」の魅力の一つになっているのかもしれません(メインの魅力ではないと思いますが)。とは言っても、やっぱりかなの事が心に急に突き刺さってきますよね・・。いまだに、痛々しくなりますし。

 ラストの「それが、本当に嬉しいんです、私」のホント良かったなぁ。今回、この記事を書こうか書かまいか、悩んでいたけど、この台詞があったからこの記事を書いたみたいなもんで。

 風新新聞のメンバーが、かなに喜びを与え続けてやって欲しい。



おまけ

 階段を力強く、勢いよく上がるかなの1カット。階段を上がる=明るい未来へ・希望。赤い傘を掴む前にこれが描写されることによって、このシークエンスのもたらす効果が全然違ってくる。