宙のまにまに 第10話「いっしょに」

星を見ること



 第10話では、登場人物達の「勘違い」がよく描かれる。


 それは、草間と美星に対する朔・姫・正志であったり、朔に対する文江であったり。この「勘違い」は第10話に限った話ではなく、「宙のまにまに」の物語全般で頻繁に描かれているものである(例えば、第7話では繰り返し描写されていた)。


 では、この「勘違い」(=それは「意思の不疎通」と捉えていい)が第10話においてどのような役割を果たしていくか、そしてどのように帰結するかについて色々と。




 Aパート冒頭、朔、姫、正志の三人は美星と草間の会話を盗み聞きする。姫と正志は会話の内容から、美星と草間が「怪しい=デートをする」のではないかと推測する。朔も懐疑的な反応をするが、内心二人を怪しいと感じていた(彼は偶然を装って文星と草間の待ち合わせ場所にちゃっかり登場する)。




 翌日、朔、姫、正志は美星と草間の後をつけ、盗み見る、三人は美星達を「盗視」するのである。電車でのシークェンスでは、車両の扉の窓越しに二人を捉えたショットがあり、朔達が「盗視」している様を強調させる。美星達の会話は聞こえず、朔達の会話しか聞こえない。会話が聞こえないので、三人は二人の仲睦まじい様子を「盗視」した結果、「完璧デートじゃん」と決めつけるのである。美星と草間を捉えたショットのいくつかの背景はピンクやグリーンの一色となり、その淡くて煌びやかな背景からは、二人が恋人同士である、デートをしていると言わんばかりだ、これは朔達の主観(勝手な思い込み)によってそのように映し出されているのだろう。もちろん、これは三人の「勘違い」だったと後で判明する。美星と草間はデートをしていたのではなく、美星の父親への墓参りの準備をしていただけであった。ここでは、「盗視」=相手への一方的な視線、「勘違い」=相手への一方的な思い込みが描かれている。一方通行な思い、一方的で対象物との疎通が取れていない、このような状況は、この後も続く。







 朔は美星の父親の死にショックを受け美星にどう接していいかわからない、自分は美星を傷つけていたのではないかと思うのである。自然と朔は美星から距離を置くようになってしまう。距離を置く朔に対して美星は、自分は元気だよと伝え、自分が父親の死を知らせていないことが悪かったのではないかと思う。二人の溝は埋まることなく、それはBパートラスト付近まで続く。微妙な「勘違い」・「意思の不疎通」が生じている。





 文江は朔に対して修学旅行で行った北海道のお土産である「しおり」を渡したいのだが、なかなか渡すタイミングが掴めない。そんな中、教室で朔が美星に対しての眼差し(盗視的な)を盗視して、「勘違い」をしてしまう。朔の眼差しは美星に恋をしている・好意を抱いているというものではなく、どう接していいかわからない戸惑いの眼差しであった。文江は前者だと思い込んでしまうのである。美星と朔は恋仲だと文江は勘違いしている(実際には二人は恋仲ではない。まだだけど)ちなみに、吉成と和泉の文芸部二人もずっと美星と朔が恋仲と勘違いしていく。





 「勘違い」を描くことによって、「意思の不疎通」を強調して描いていく。では、登場人物達の意思は、心は、いつ繋がるのか。



 それは今話ラストでの流星群グループ観測会だ。登場人物は、今まで相手への一方的な視線(盗視)を送っていたが、今度は星に視線を送るのである。同じ対象物を見ることによって、各々の見ているものは共有される。一方的で、交わることのなかった視線・想いが、星を介在することによって繋がるのである。この作品において、人が繋がることは、星を見ることと同義なのだ。星は、お互いの心を結びつける。こたつに入りながらみんなが星を見上げている時に美星が「手を繋ごう」と言い、真上からの俯瞰で捉えられた全員がお互いの手で繋がっているショットは象徴的であり、端的に表している。彼らは星を見て、「繋がった」のである。 登場人物の「勘違い・意思の不疎通」が、星を見て解消され、各々の意思が繋る。律儀なことに、吉成と和泉の「勘違い」は星の観測中に解消されることもちゃんと描かかれている。












 今まで「勘違い・意思の不疎通」を描いていたのは、この星を見るという行為のためだった。「宙のまにまに」の登場人物は、それぞれ「片思い」のような気持ち、一方通行の思いを抱えている。特に朔は、うまく相手に思いを伝えていいのかわからない、繋げていいのかわからない人物だ。彼ら(朔)は星を見ることによって、介在することによって、お互いの一方通行な思いを少しずつ繋がらせていく。同じ対象物を見て、心を共有して、紡いでいくのである。




 この作品は、ただ好きだから星を見るというわけではなく、お互いの意思のズレを星を見ることによって修正・解消していくという側面をもっている。







おまけ


 この作品におけるデフォルメされたキャラは良いな。色彩の配置もいい。