『ささめきこと』第2話が面白い〜視線のやりとりと細かい仕掛け〜


 『ささめきこと』第2話「かわいいひとたち」が面白かったので、色々書いていきたいと思います。



視線


 前回書いた「ささめきこと 第1話「ささめきこと」が面白い」の視線の話の続き。


 前回記した通り、『ささめきこと』では、相手に送る一方的な視線、盗視(盗み見ること)する行為が反復される。この一方的な視線が示すものとは何かと言うと、相手には知られない一方的な好意、片想いの表れ。相手は知らない自分の片想いを視線を使って描いていく。村雨純夏は片想いの相手・風間汐に一方的に視線を注ぐ(盗視する)。汐は純夏から送られてくる視線には一切気付かない。第1話でも繰り返し描かれていた構図だが、第2話になってもそれは続く。Aパート、ショッピングからの帰りのバス車内シーン(図1)。純夏は汐を盗視する。純夏から送られる視線は、汐の視線と交差することはない。純夏はただ汐を見つめる。その注がれる視線は汐には決して知られることのない純夏の片想い。

 
 第1話・第2話でも一貫として、視線を送る・盗視することで、一途な片想いを表していく。


図1



 朱宮正樹も純夏と同じく一方的に視線を送る・盗視する一人。彼は誰に視線を送っているのかと言うと、純夏に視線を送っている(図2)。朱宮は言わずもがな純夏に片想いをしているのだ。しかし、その好意は言葉に発せられることなく、ただ彼女に視線を送ることのみで表せられている。彼は全編に渡って、純夏を盗み見ている(第1話でも同じ)。もちろん、純夏はその視線には気付かない。互いの視線が交差することなく物語は進んでいく。だが、朱宮の一方的な視線が廃される時が訪れる。クラス委員連絡会議において朱宮は純夏に「かわいい」と言って、自分が純夏に抱いている気持ちを表明するのだ。朱宮は純夏に引っ張られ廊下で二人きりとなる。そこで、朱宮は再び「かわいい」と純夏に告げる。朱宮が自分の気持ちを初めて表に出した時、純夏と視線が交差する(図3)。相手に知られない想い=一方的な視線はもうそこにはない。朱宮と純夏は切り返しによって、視線を交換して感情を交わし、相手に知られない想いは、やっと相手へと伝わるのだ。この繊細な視線のやりとりが、ささめきことの主題の一つだと思われる「片想い」をうまく表現していく。

 
 純夏はいつ朱宮のように「一方的な視線=知られない片想い」を廃して、「汐と視線を交換していく=自分の気持ちを伝えていく」のかは気になる所。


図2


図3




 『ささめきこと』では、純夏と汐のツー・ショットの多さが目にとまる。前回書いたとおり、二人ともいつも非常に近い距離にいて、手を繋いだり、腕を組んだりしたりと、よく身体を接触させている(図4)。こんなにも仲がよく、身体はゼロに近い距離に純夏と汐はいるのだが、心の距離はというと、大きな隔たりがある。それは、純夏が汐を好きという大きな隔たりだ。友人としては繋がっているが、好きという線では繋がっていない。純夏はどんなに汐に近づいても、身体を接触させても、想いは届かないし、繋がらない。それが顕著に表れているのが、第1話での手を絡み合わせた中での「友達でいてね」宣言であり、第2話での腕を組みながらでの「タイプじゃない」宣言だ。手を絡ませたり、腕を組んだりと、こんなにも身体を接触されているのに、純夏は汐に突き放されてしまう。身体の距離はゼロなのに、心の距離は大きく離れている。純夏が汐に突き放されるのが、決まって濃厚な身体の接触の時であるのは、純夏の想いは身体の距離では一切伝わらないことを表現したいためではないのだろうか。やはり、純夏が朱宮のように一方的に視線を送ることをやめて、視線を交差させなければ、距離は縮まらないのかと私は思う。


図4




細かい仕掛け


 ささめきことでは、細かい仕掛けが散りばめられている。それは、ほんの小さなもので物語には大きく影響を及ぼすことはないが、その細やかさが画面のいいアクセントとなっている。前述した廊下での朱宮と純夏のシーン。ここでは火災報知機の表示灯である赤いランプが印象的に挿入される(図5)。朱宮と純夏のツー・ショットのフレームの中に意図的に組み込まれている具合から察すると(わざわざ同じフレームの中に収める必要性はないのに組み込まれている)、これは二人の緊迫した状況、もしくは純夏の「かわいい」と言われ動転している心理状態の暗喩として赤く光る表示灯が映し出されているのではないのか。このように細かい暗喩が『ささめきこと』では見られる。


図5




 Bパートラスト、公園で女装した朱宮と純夏がベンチで会話しているシーン。「どんだけ駄目って言われても、やっぱり好きだもの」と純夏は光り輝く月を見ながら呟く(図6)。次に映し出されるのは、画面中央に配置されたとても印象強い光り輝く電灯をバックにクレープを持って歩く汐を捉えたミディアム・ショット(図7)。ここでは「ほんと、片想いって奴はさ」と純夏の台詞が流れる。月というのは、決して届かない存在であり、触れることができない。それは、純夏にとっての汐であり、叶わない片想いそのもの。光輝く月の後に映し出されるのは、光り輝く電灯をバックにした汐。光によって月と汐は同期する。月は「汐・叶わぬ片想い」の暗喩なのだ。


図6


図7


 細かい仕掛けが、画面に深みを与え、より作品へと没入させる。




おまけ 純夏のこと


 汐のために必死に動き回る純夏が朱宮と同じくかわいいと感じた。そぐわないフリフリのカワイイ服を身に纏い、朱宮を泣きながら追っかけるところはあまりにも健気だ。花束を持っていく汐に会いにいくんだもんなぁ。どんなつらい片想いでも、純夏曰く好きだからしょうがないのか。