君に届け 第2話「席替え」が面白い

河原、風景


 Aパート冒頭、第1話が回想され、緑の木々の木漏れ日から、灰色の雨雲へと映像は切り替わる。灰色の雨雲からカメラがパンダウンすると、河原の土手を傘をさして歩く黒沼爽子がロングショットで捉えられる(図1)。爽子は、雨に打たれている捨てられた白い犬を見つけ、それに近寄る。彼女は白い犬が雨に濡れないように、自分の傘を贈る。自分は雨によりずぶ濡れになるにも関わらず傘を贈るのだが、白い犬は爽子を恐がり警戒し、彼女に向かってずっと吠え続ける。このシーンは爽子の現在の状況を端的に表しているもので、彼女の贈る無償の親切・優しさは相手には伝わらず逆に不気味がられ拒否されてしまう。犬であろうが、人であろうが、多くの人には彼女の優しさは届かない。河原のシーンの灰色の雲と雨という負のイメージの風景は、爽子と他人との成就しない融和を表すものではないのだろうか。それと対比されるのが、Aパートラストの同じ河原でのシーン。そこには、先ほどの灰色のどんよりとした雨雲は存在しない。雨雲は消え、青い空と夕日に照らされた雲が映し出されていた(図2)。そこで爽子は、風早翔太と共に白い犬と再び出会う。白い犬は、風早にはなつくが、爽子には依然として拒否し続ける。しかし、風早を介して、爽子は吠えられることなく白い犬と少しだけ距離を縮めることが出来た。風早に感化され、爽子は人と融和することを決意する。この青い空と雲の風景は、灰色の雲とは逆に、他者との融和の可能性を表す。Aパート冒頭に河原での灰色の雲、Aパートラストに河原での青い空と雲を持ってきて、始めと終わりで対比させる(色彩的にも)。灰色の雲の下ではコミュニケーションが全くとれなかった爽子は、青い空と雲の下では少しだがコミュニケーションがとれるようになっていく。爽子の他者との融和の変化を、風景を使って描いていく(Bパートでの青空と雲も同じ役割を持っている)。


図1


図2




 爽子が風早との間には壁を感じないということを気付く所では、夕日に照らされ光り輝く川面の風景を強調して描く(図3)。その光り輝く川面は、爽子の心情とリンクし、彼女の心情をうまく表している。


図3




 「君に届け」では、風景描写が作品を動かす重要な要素になっていると私は思う。




「贈る」こと


 第2話で繰り返し描かれるのは、「贈る」という行為。この「贈る」という行為が今話では重要になってくる。前段でも書いたように、爽子は冒頭から贈る行為を行っている。しかし、それは多くが拒絶されてしまう。赤い傘を贈った白い犬には吠えられて拒絶され、一番前の席が嫌だと騒ぐ女子生徒に自分の後ろの席を贈るのだがそれもことごとく拒絶されてしまう。爽子にとって贈る行為は、相手との理解をはかる行為であり、贈ることによって人と繋がろうとする。しかし、多くは誰も彼女とは繋がろうとはしない。爽子からの贈りものを受け取らないし、爽子に贈ろうともしない。一切拒絶しているのだ。


 だが、爽子からの贈りものを受け取り、そして爽子に贈った者たちがいる。それは、風早翔太、吉田千鶴、矢野あやね、真田龍の4人だ。爽子と繋がろうとした人たちがいたのだ。


 傘のない爽子がずぶ濡れになって学校に登校した時、吉田は濡れた制服の代わりにとロッカーからジャージ(カビ臭いのだが)を取り出して爽子に贈り、風早はハンカチでは拭うのが追いつかないといって、自分のタオルを爽子に贈るのだ。誰も爽子とは繋がろうとしなかったのに、彼/彼女らは爽子と繋がろうとした。また爽子も、彼/彼女らと繋がろうと、風早にはコーヒーを贈り、吉田と矢野にもそれぞれジュースを贈ったのだった。しかし、贈りものを受け取った様子は描写されるが、彼/彼女たちが、ジュースを飲む部分は描写されない。爽子は彼/彼女たちから贈ってもらったものを身につけ完全に受容しているが、まだ彼/彼女たちが完全に贈りものを受容している様子(爽子の贈ったものをいただく・食べる部分)は描かれない。まだ足りない、まだ完全には繋がっていないのだ。


 では、爽子と風早・吉田・矢野・真田がいつ繋がるのかというと、それは席替えのシーン。誰も爽子の周りに座りたくないため、みんな避けるのだが、風早・吉田・矢野・真田は爽子の席の周りに自ら集まる(厳密に言うと真田は違うのだが)。皆が拒絶していたのだが、彼/彼女らだけは違った。爽子との間に壁はなく、自ら繋がろうとしたのだ。そこで、爽子は昨日のお礼として、風早・吉田・矢野・真田に自分で焼いたクッキーを「贈る」のだ。ここで感動的なのは、彼/彼女らは、美味しいと言って、クッキーを頬張る部分が描写されるのだ(図4)。前のジュースの所では、飲む=完全に爽子の贈りものを受容する・繋がる部分が欠落してたのだが、このクッキーの贈りものでは、贈りものを完全に受容する(美味しいと言って食べる)様子が描かれる。この瞬間、爽子は、彼/彼女らと相互に疎通し、融和し、繋がったのだ。そして、爽子は「嬉しい、心から嬉しい」と喜びをあらわにする。


図4




 窓の外から俯瞰で捉えられた爽子・風早・吉田・矢野・真田のショット(図5)。窓から差す眩い光が爽子の喜びを表す。他の人物が描写されず5人だけが一つのフレームの中に収まっているのも見逃せない。5人だけが一つのフレームの中にいる、これは5人だけが同じ画面に存在し、彼/彼女らが繋がっているさまを表す。爽子が風早・吉田・矢野・真田と融和した様子をうまく表している。


図5




 第2話では、「贈る」という行為で人とのコミュニケーションを表し、また「贈る」行為でそれが変化していくさまを描いていく。




おまけ


 爽子のデフォルメはかわいい。彼女とトイレがセットで多く描かれるのは、「貞子」というか、「幽霊」つながりだからかなのか?