『こばと。』第9話が面白い〜携帯電話とストラップ〜

 『こばと。』第9話「…夏の記憶。」は、水橋なつきと森川ゆきのの女子高校生二人のすれ違いを主題として展開していきます。それに、花戸小鳩ももちろん絡んでくるわけですが、今回の小鳩は二人の仲を回復させようと一生懸命に奮闘するという感じではなく、掛け違えたボタンがどうのようにして掛け違われたかを彼女らに改めて認識させ、水橋なつきと森川ゆきのが自分たちの力で関係を修復させる、という作りが個人的に良かったのでそれについて色々と。



携帯電話とストラップ


 Aパート冒頭、小鳩が夏祭りのチラシを追いかけ、登校中の水橋なつきと出会うシーン。小鳩と水橋なつきは夏祭りのことで会話し、水橋なつきは今年の夏祭りにはいけないかもと漏らす。その時、二人の横を手を繋いだ幼い女の子二人が走り抜けていく。水橋なつきは携帯電話を取り出して時間を確認し、高校にもう行かなきゃと小鳩に伝える。そうすると、森川ゆきのが走ってきて、二人の前で転ぶ。キャメラは、森川ゆきののカメラのストラップが付いた携帯電話を捉える。二人は一緒に登校せず、バラバラに登校する。アパートの自室に戻った小鳩は、隣の部屋に住む藤本清和から水橋なつきと森川ゆきのが沖浦清花と三原千歳の出身校である「聖南女学院」の生徒だと伝えられる。

 この一連の流れで今回の挿話の主な要素を説明してしまっている。夏祭り、通りすぎた幼い二人の女の子(昔の自分)、携帯電話、携帯電話のストラップ、バラバラに登校する二人、これから起きる出来事の主要な要素が提示され、その要素がどのように展開されいくか視聴者の興味を誘う。この伏線の張り方がうまいなと感じました。


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 今回の挿話で頻繁に描写されるのが、携帯電話。携帯電話と言えば、空間を超えて人と人を繋ぎ距離を縮ませるコミュニケーションツールなわけですが、第9話ではその一通りの意味作用ではなく、本来の性質とは逆の役割も果たす。第9話での携帯電話は、森川ゆきのと水橋なつきの距離を広げさせ、すれ違いを生じさせる装置として機能していたり、彼女たちの距離を再び縮ませたりする装置として機能していたりする。携帯電話を媒介として彼女たちの絆は引き裂かれ、結ばれる。


 水橋なつきと森川ゆきのは、小学生時代にお揃いのピンク色の携帯電話(カメラ付き)を手に入れ(図1)、夏祭りでその携帯電話に付けるストラップを買う。水橋なつきは名前に「夏」が入るので、スイカのストラップを。森川ゆきのは名前に「雪」が入るので、雪だるまのストラップを。そして、二人はストラップを交換して、水橋なつきは雪だるまのストラップを、森川ゆきのはスイカのストラップを携帯電話に付ける(図2)。交換したストラップを付けた携帯電話で、二人は写真を撮る。このカメラ付き携帯電話によって、森川ゆきのは写真撮影(携帯電話での)に没頭していき、水橋なつきとの距離を拡げる要因の一つとなる。

図1

図2




 携帯電話が距離を拡げる装置として機能しているのが顕著に表れたシークェンスがある。それは、水橋なつきが森川ゆきのとの小学生・中学生・高校生時代を回想するシークェンス。小学生時代は、手を繋いで一緒に登校していた彼女たちだが、中学生時代になると森川ゆきのマイペースさが徐々に顕在化してくる(既に小学生時代に傾向はあったようだが)。そして中学時代、何時からか彼女たちが一緒に登校することが少なくなってくる(森川ゆきのの寝坊とかで)。この時、登場するのが携帯電話だ(図3)。森川ゆきのが寝坊していけなくなったことを携帯電話で伝え、水橋なつきは一人で登校することになる。この綻びの発端となるのに使用されているのが、携帯電話なのだ。携帯電話が彼女らの距離を拡げていく。また、この時ピンク色のお揃いの携帯電話ではなくなっている。水橋なつきは青い色の携帯電話、森川ゆきのは赤い色の携帯電話に変わっており、彼女たちの間に変調をきたしていることがわかる(明確にあらわれていないが)。だが、水橋なつきの青い携帯電話には交換した雪だるまのストラップが付けてあり、彼女たちはまだ繋がっていることがわかる。そして、高校時代。森川ゆきのが携帯電話で写真を撮影することに夢中になり、また写真部の部員とも仲良くなり、水橋なつきとの距離が離れていく。ここでも一貫として、携帯電話が頻出し、彼女たちの距離を拡げる装置として機能する。水橋なつきが携帯電話で森川ゆきのに連絡をとろうとしても取ることができなくなってしまうのは(写真部の部員と森川ゆきのが一緒にいるためだが)、携帯電話がもはや水橋なつきと森川ゆきのを繋げてくれる道具ではなくなっていることが端的に表れているだろう(まだかろうじてストラップは付いている)。回想ラストでの窓からの眩い光に照らされる森川ゆきのと友人(写真部員)たちからパンしていくと、窓からの光が当たらず暗い影に覆われた水橋なつきが捉えられる。このカットで彼女たちの大きな隔たりが生じているが視覚的に伝えられる。回想の季節と場所が、夏→冬→薄暗い夕暮れと変遷していくのは、彼女たちの関係の変化とリンクしているのかもしれない。回想が終わると、携帯電話に付けられていた雪だるまのストラップは外されており(図4)、「ゆきのが、何を考えているのかわからなくて」と水橋なつきは呟く。携帯電話の雪だるまストラップは取り外され、彼女らは意思の疎通が取れない状態に陥ってしまっている。「ストラップは彼女らの絆そのもの」なのだと捉えていいと思う。また、森川ゆきのの携帯電話のストラップは、現在スイカではなくカメラのストラップが付けられている。彼女たちはストラップを携帯電話には付けていないが、それぞれ大切に保管している所をみると、まだ絆は完全に破綻してはいないようにみえる。

図3

図4




 彼女たちは、携帯電話で拡げてしまった距離を、再び携帯電話を使い距離を縮める。



 デパートで水橋なつきは森川ゆきのに対して本当は思ってもいないのにひどい言葉を浴びせてしまう。森川ゆきのはその場を飛び出す。公園で一人落ち込む森川ゆきのに小鳩は声をかけるが、一人にしてと言われてしまう。


 一方、水橋なつきは自宅へと帰り、森川ゆきのに浴びせてしまったひどい言葉を一人で泣きながら悔いる。ふと目をやると、写真立ての側に置いていた雪だるまのストラップが無くなっていた。彼女は家のごみ置き場からゴミをかき出して、汚れながらも必死にストラップを探す。小鳩も水橋なつきの元へ駆けつけ一緒に探す。このストラップの消失という出来事は、二人の絆の消失と同義語だろう。二人の仲が決裂したために、ストラップは無くなった。しかし、ストラップは実際には消失しておらず、小鳩が物陰に隠れて落ちていたストラップを発見する。小鳩は水橋なつきへとストラップを渡す(図6)。絆は消失したかのように思えて、実際は消失していなかった。それは、水橋なつきが勝手に森川ゆきのとの絆が消失してしまったと思い込んだだけで、二人の絆は実際には消失してなどはなかったのだ。小鳩にうながされ、水橋なつきは、森川ゆきのが離れていったのではなく、自分が勝手に距離を感じ、自分から離れていったことに気付く。このストラップ=絆の消失の出来事は、水橋なつきの現状を端的に表し、また気付かせる契機としての役割を果たす。

 小鳩は前述した通り、今回は気付かせるという役割を一貫として演じる。

図6




 公園にいる森川ゆきのの携帯電話の元に一件のメールが入る。それは水橋なつきが送ったものであり、「ごめんなさい」という一文と共に雪だるまのストラップを捉えた写真が添えられていた(図7)。その画像を見て涙を流す森川ゆきの元に、水橋なつきが小鳩と一緒にあらわれ(突然に)、今度は直接言葉で伝えようとする。すると、森川なつきが胸に下げていたスイカのストラップを見せ(図8)、「一緒だよ。わたしもずっと持っているよ」と告げ、水橋なつきも涙を流しながら「わたしもずっと持っているよ」と告げる(メールの写真で既に持っていることを示したのに)。このシーンが感動的なのは、ふたりの距離を産出した携帯電話を再び使い二人の距離を縮めていることもあるが、空間を超える携帯電話のように、水橋なつきが空間を飛び越えたかのように森川ゆきのの元へ登場することもあるだろう。メールの文字で伝えた後は、今度は自分の声を伝えようとする。空間を跳躍して伝える言葉が深く感動させる。また、互いにもう持っていないだろうと思えた「ストラップ=二人の絆」を、実は二人とも大切に保管しており、互いに「わたしもずっと持ってるよ」という言葉を交換する(夏祭りでストラップを交換したときのように)のも非常に心を揺さぶる。二人は絆を失くしていたわけではなかったのだ。二人とも大事に絆を持ち続けており、ただそれが微妙なすれ違いにより、見えなくなっていただけなのだ。

図7

図8



 本編ラスト、夏祭りで森川ゆきのは、小学生の時のように、水橋なつきをレンズに捉える。


 携帯電話を使用し、水橋なつきと森川ゆきのの距離(拡げたり、縮ませたり)を表現しているのが面白かった。



最後に


 水橋なつきと森川ゆきのと間に大きな事件はなかったんだけど、徐々に距離が離れていくというのが良かった。二人の繊細な関係を約21分の短い時間で描いてたのは見事だと思う。


 水橋なつきは森川ゆきのの事をちょっと変わってると言っていたけど、実はそんなに変わってなくてかなりしっかりした子(本編を見る限り)のような気が。


 小鳩が気付かせる役として動いていたのがいい。二人の話をただ聞くことに意味がある。小鳩は掛け違えたボタンを本来の場所へとちょっとだけ導く役割を果たし、水橋なつきと森川ゆきのたちが自らの力で掛け違えたボタンを元に戻す。この物語の展開が良かった。



おまけ


 地面に髪がついちゃってるんだけど、いいのかな・・・。気にしないのか?