『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』第4話が面白い〜触れること・ノエルの過去・曇天から碧空へ〜

 第2話「初陣・椅子ノ話」はクレハにスポットをあてた当番回、第3話「隊ノ一日・梨旺走ル」はリオにスポットをあてた当番回、第4話「梅雨ノ空・玻璃ノ虹」はノエルがメインとなった当番回となっています。今回、なかなか面白かったんじゃないかと僕は思います。個人的にですが。悠木碧さんの声も十分聞けましたし。こういうキャラもいいな。ノエルの過去もちょっと見えました。


 今回のコンテは、神楽坂時市さん。これは伊藤智彦さんの変名。マッドハウス以外で仕事するときは、神楽坂時市って使うっぽいです。A-1 Picturesでは『かんなぎ』の時、神楽坂時市名義でコンテを切っていました、多分。



触れること・タケミカヅチへの仮託・曇天から碧空へ

「どうしてうまくいかないんだろう」


 Aパート。ノエルがタケミカヅチを整備している様とラッパ演奏を練習するカナタの様がクロス・カッティングで捉える。遠くから聞こえてくるカナタが演奏する下手っぴというか、ダメダメなラッパの音色に呼応するかのように、ノエルのタケミカヅチ整備も思うようにいかない。ラッパの演奏が「うまくいかない」カナタとタケミカヅチの整備が「うまくいかない」ノエル。この「うまくいかない」という共通の接点を持った二人が第4話の主役となる。灰色の雲に覆われ、雨が降ったり止んだりする陰鬱な空模様は、彼女たちの「うまくいなかない」現状を指し示すかのように画面を占拠する(また、雨が降る時きまって彼女たちの気持ちは落ち込む)。曇天と雨の風景は、彼女たちの心象を視覚化したものとして機能する。灰色の梅雨空から解放される時、それは彼女たちの「うまくいかない」が解消され、心が晴れ渡るとき。彼女たちの悩みはいつ解消され、どうやって解消されるのかが今回の見所の一つとなっている。


 また、ノエルがカナタに心を開かせていくのも今回の見所になっている。



 カナタとノエルは、物資調達のためにセーズの街へと繰り出す。街へ出てくるのがほぼ初めてのカナタは、街の屋根飾りや水飲み場に興味と疑問を示し、そのカナタの疑問に対してノエルはきちんと回答をしてくれる。色々なことを教えてくれたノエルに、カナタは「ありがとう」と言い、ノエルの手を握る。カナタはノエルの手に触れることによって、彼女の心の中へと入っていくこととなる。


 第4話では、この手を「触れる・触れない」でノエルがカナタに心を開いていく推移をあらわしていく。






 ノエルの過去に何があったのかは不明だ。第4話まででは、彼女の過去がどのようなものだったかを探る描写はほとんどない。しかし、彼女は過去に必ず何かがあり、それにより人ではなく機械を偏愛するようになったのではないかと私は思う。彼女は人に拒絶され続けてきたから機械を好きになったのではないか(単純に機械を好きなんだとは思うが)。

「機械は裏切らない、から」


 と彼女は言う。

 機械は愛情を注ぎこめば(=整備する)、必ず答えてくれる。けっして裏切らない。第4話で彼女はジープのハンドルを握り(=触る)、運転をする。機械は自分が触ることを拒否せず、必ず応えてくれるもの。だが、人は違う。買い出しの途中、カナタとノエルは広場で教会で暮らしているユミナ、セイヤ、ミシオと会う。遊んで走り回っていたセイヤは、ノエルとぶつかってしまう。ノエルは、倒れて座り込んでいるセイヤに手を差しのべる。しかし、セイヤはノエルの手を払いのけ、ノエルを拒絶する。セイヤは戦争孤児であり、そのため軍人を憎んでいた。だから、ノエルの手を払いのけ「人殺し」と言い放ったのだ(そこで、ノエルとカナタは少なからずもショックを受け、自分たちが軍人であることを改めて自覚する)。雨が降り始め、彼女たちは雨にぬれる。雨は、ノエルの心の涙を隠すように降り頻る。




 ノエルは、人に(=他者に)触ろうとすると拒絶されてしまう。もしかすると、彼女は人に触ろうとして拒絶されたことが過去にもあったのかもしれない。それゆえに、彼女は触れても拒絶しない機械を選択したのかも。人は裏切るが、機械は裏切らない。



 しかし、拒絶されてきた彼女の手に自ら触れてくる者がいた。それがカナタだ。とは言っても、ノエルはカナタを触り返そうとはしない。まだ、カナタに心を完全には開いていないからだ。触ると拒絶されるかもしれないし、彼女はまだカナタの手(=心)には触れようとはしない。




 カナタとノエルは雨の中、町外れにある大きなガラス工房へと向かう。前述したが、彼女たちの心が沈んでいる時はきまって雨が降る。冒頭のラッパ演奏がうまくいかない時とセイヤに拒絶された時。では、今後どのようにして雨が止むのか。


 ガラス工房にて、ノエルはカナタに「機械」について尋ねる。ここのカナタとノエルの会話シーンは、窯が印象的にインサートされ、カナタとノエルの会話に緊迫感と重々しい雰囲気を与える。

ノエル「カナタ、僕は機械が好きだ」


カナタ「うん」


ノエル「でも、機械は人を傷つけることもある。タケミカヅチもきっと昔、たくさん人を殺してる。昔、人を殺した機械は、やっぱりこわいと思う?」


カナタ「うん」


ノエル「・・・」


カナタ「でも、もっとこわいのは、機械じゃなくて、それを使ってた人たちかな。だって、だって、このラッパ、私が吹くとあんななのにリオ先輩が吹くと、とっても綺麗に歌うんだもん。戦車だってきっと同じでしょ。」


カナタ「それにこの前ね、リオ先輩にタケミカヅチの歌を聞かせてもらったの。あんなに綺麗に歌えるんだもん。きっと良い戦車だよ、タケミカヅチは。」

 ここのやりとりを聞くと、ノエルは大量に人を殺した過去があったのかな? なんて思ったりしました。タケミカヅチについてじゃなくて、ノエル自分自身のことを差し示しているかのように聞こえた。セイヤに「人殺し」と言われてハッとしてましたし。多分、タケミカヅチに仮託して自分の過去を話していたのだろう。


 それはともかく、ここでカナタはノエルの手にまた触れる。ノエルが抱えていた悩みに対して、カナタは答えを出した。そして、ノエルの手(=心)に触れたのだ。ここでの「手」は、人の「心」と同義語のように思える。カナタの手は、ノエルの心を優しく解きほぐす。カナタは人の心にするっと入っていく才能があるよう。

 この後、ノエルは眠ってしまう。ここで眠ってしまったのは、徹夜だけが理由でなく、カナタの心に触れ安心して眠ってしまったのかも。




 そして、雨が止む。ノエルとカナタの心に降る雨は止んだようだ。だが、まだ空は曇天。カナタはカールの教えを聞き、無理やり音を出すのではなく、音が自分で響きたいようにして演奏することを悟る。カナタはガラス工房から出ていき、ラッパを天に向いて吹く。カナタが奏でる音色は、雲を動かし、曇天だった空模様を碧空へと変貌させる。雲が取り除かれ太陽が姿をあらわす。それはまるで、カナタが過去に出会った女性兵士がトランペットを吹き曇天を碧空へと変えさせたように、カナタも同じく音色を空に響かせ、空を変える。眠っていたノエルが朝だと勘違いするほど、世界は眩い光に包まれる。灰色の空からの解放され、彼女たちの悩みは解消された。カナタの悩みが晴れたのと同時に、ノエルはカナタの絶対音感を手掛かりにレンズを作ることを思い付く。




 カナタの絶対音感を頼りに作ったレンズを使い、見事成功する。このとき、カナタはノエルに抱きつく。ノエルは「ありがとう」と言い、カナタの手に触れるのだ。Aパートでカナタが「ありがとう」と言い、ノエルの手を触ったように。ここで感動的なのは、ノエルが笑顔を初めて見せることもあるが、いままで触らなかった手にノエルが自ら触ることだ。ノエルはカナタに心を開く。もう、手を触っても拒絶などはされない。第2話のカナタとクレハのように、ノエルもまたカナタと心を通わす。音色が空模様を変えたように、カナタも人々の心を変えていく。



 第4話は、手を触れることが、心を通わすことと直結し、ノエルとカナタが心を通わせていくさまを丁寧に描いていく。


おまけ


 第2話の記事で、

リオが父親であり、フィリシアが母親であり、クレハやカナタやノエルは娘たち。カナタの妹ととしてのクレハ。ノエルは・・よくわからない・・・。

 と書きましたが、どうやらリオもフィリシアも母親だったっぽいですね。