『ひだまりスケッチ×☆☆☆』第4話が面白い〜なずなと乃莉と普通科と美術科〜

なずなと乃莉と普通科と美術科


 第4話「4月15日 日当たり良好」は、普通科に通うなずなと美術科である乃莉とゆのと宮子との差異を際立たせながら、なずなが美術科の面々と打ち解けあっていく様子が描かれている。乃莉となずなが親交を深めていく様子も見所の一つ。




 Aパート冒頭。ひだまり荘の庭で、ゆのが体操をしているところに宮子がやってくる。ゆのと宮子は一緒に体操をやりはじめ、同じ動作を寸分狂いもなく行う二人は見事に和合している。冒頭に映し出される「同じ動作」は終盤に反復されることになる。

 なずなと乃莉も、ゆのと宮子のような親密な関係になれるのか。


 先生たちの会議により学校の授業が午前中で終了することになった。帰ったら何しようかとゆのは宮子に尋ねる。まずはお昼食べてから考えようと宮子は答え、二人は学食へと向かう。そこで乃莉と出会う。なずなの姿はそこにはない。食堂に居るのは、乃莉と美術科のクラスの子達と美術科のゆのと宮子であり、普通科のなずなはいないというか、いられない(普通科の生徒も食堂にいると思うが)。ここでは学食が美術科の生徒だけのような場所として機能する。

 なずなの不在によって、乃莉となずなの隔たりを感じさせるようになっており、なずなが乃莉と一緒に学食へ来る時は隔たりがなくなった時なのだろう。



 ここから美術科と普通科の差異を際立たせていく。



 カーテンを買いに行くため、「アイムホーム」というホームセンターへと向かう乃莉となずなとゆのと宮子。なずなと美術科の面々には見えない壁のようなものが存在している。と言っても、それは普通科のなずなが一人で感じていることであり、乃莉達にはそういう意識はない。乃莉達がなずなに対して排他的な言動をとったことは一度もないが、彼女らの何気ない会話がなずなを孤立させてしまう。普通科である自分と美術科であるみんなのとの違いがコンプレックスのようになずなに付きまとう(コンプレックスという言い回しは少し大袈裟かもしれない。ちょっとだけ遠い存在というか、微妙な関係)。ホームセンターに向かう場面では、視覚的になずなと乃莉達との間にある見えない壁をあらわしている。


 なずな達が一列に並んでいるショット。




 画材屋の話になると、俯瞰から捉えられ、前列になずな、後列に乃莉とゆのと宮子の配置のショットとなる。




 画材屋という普通科に通っている者としては、縁遠い話題になった途端に俯瞰のショットに切り替わり、なずな一人がぽつんと配置される形になる。ホームセンターまでの道案内役として先頭に立っているためにこのような配置になっていることは理解できるが、この配置はなずなと乃莉たち、普通科と美術科の隔たりを感じさせる含意もあるだろう。並置されて同等な関係だったのに、美術の話になると一人だけ疎外されるような構図となる。この後の会話では、なずなの知らない吉野屋先生の話題になり、楽しそうに話す乃莉達の会話に入れない。自分のよく知らないことを話す乃莉達に少なからずともなずなは孤立感を抱いたのではないか。なずなと乃莉たちの隔たりを強調させる場面。


 ホームセンターに到着したゆのたちは、何かつくれそうと感激する。浮き立つように描写された木材やネジなどが、彼女らの浮き立つ心を指し示すかのように映し出される。美術科に通う生徒として創作意欲に火がついた乃莉たちに対し、なずなは木材やネジを見てもピンとこない。何かって?と宮子たちに聞き返すように。なずなの目には木材は浮き上がらないのだ。浮き上がる木材などは、乃莉とゆのと宮子だけに見えている主観の映像なのだろう。なずなと宮子たちとでは、見えているものに若干違いが生じている。




 ホームセンターにある品々を見てまわるゆの達。乃莉や宮子が興味を示すのは、彼女らが言うようにヘルメットなどの専門的なもの。なずなはタオルなどのごくごくありふれた日常的なものに興味を示す(ゆのも興味を示すが)。興味を示す対象の対比がこれまたなずなと乃莉たちとの隔たりを際立たせている。なずなの買い物カゴに入った商品は、ミネラルウォーターや乾電池など、どこにでもある生活用品であり、乃莉はどこでも買えるものばっかだねと言う。多種多様なものが置いてあるホームセンターでなぜどこでも買える物を買うのか、他にここでしか買えない専門的なものがあるだろうと疑問に思う乃莉とそれを指摘されて驚くなずな。二人の考えには、少し違いがあり、普通科に通う者と美術科に通う者との考えの違いを浮き彫りにする。

 トイレに行く宮子と乃莉を待っているゆのとなずなは手を繋ぐ。手を握ることについては後で。


 カーテンの柄を選ぶ最中、意見を求められたなずなはたじろいでしまう。美術科でない自分にどこか引け目を感じていたため、自分が何かを選ぶことにためらいがあったからだ。ここで、なずなが感じてた美術科に対しての隔たりが表出する。今まで蓄積されてきた、普通科と美術科の差異の描写が生きてくる。それに対して、乃莉は真っ向から否定する。センスは磨いていくものであり、美術科だろうが関係ない。この言葉により、なずなは劣等感から解放され、自分のセンスでカーテンの柄を選択する。美術科に対するコンプレックスから抜け出して、一歩を踏み出したのだ。なずなが選択したカーテンの柄を乃莉は、「かわいい。これにする」と言って、なずなのセンスを肯定する。承認が得られることによって、なずなは自分のセンスに自信を持つことが可能になり、美術科に対するコンプレックスなようなものは薄らいでいくこととなる。これによって、一歩引いていたなずなは、乃莉と対等の立場になり、隔たりはなくなった。なずなが勝手に感じていた引け目がなくなり、対等となった二人にようやく親友となる土台が完成する。同じ場所に立った二人、あとは距離(=心)を近づかせるだ。また、美術科の集まりであるひだまり荘の面々とも分け隔てなく接することが可能になった。




 大家さんに促されて買ってきたトマトの苗をひだまり荘の庭に植えるひだまり荘の面々。作業に戸惑うなずなをさりげなくフォローする乃莉。ゆの達は「せーの」と言い、皆同じ動作、同じタイミングで一列状にトマトの苗を植える。冒頭の体操のように、同じ動作をするひだまり荘の面々。一緒に体操をしたゆのと宮子の親密性が指し示すように、第4話において、一緒に同じ行為、動作を行うことは融和の象徴として機能する。なずなは(乃莉も含む)、ひだまり荘のメンバーと一列に植えられたトマトの苗を媒介として和合することとなる。




 ヒロが作った料理を囲んで食事をするなずな達。食卓を二つのテーブルで構成しているのは、ペアで構成されているゆのと宮子たちを連想させる。なずなは、食事をしている最中に一人暮らしの不安を打ち明ける。自分の胸の内をみんなに打ち明けるのは、彼女たちに心を開きかけているのだろう。それに対して、乃莉は大丈夫でしょと言って、なずなを学食に誘う(美術科で構成されていた食堂になずなを誘う)。なずなは歯切れの悪い返事をするのだが、乃莉がなずなの手を握った途端になずなの顔は満面の笑みへと変わり、「うん」と返事をするのだ。手を握ることによって、身体も心も相手へと近づこうとする。第4話では、手を繋ぐことが人(心)と人を繋ぐことに直結している。
 
 手を握り、相手へ近付き繋がるによって曇った表情が笑みへと変わる。乃莉となずなも、ゆのと宮子のように親友への関係へと発展していく。

 また、なずなと乃莉はひだまり荘の先輩とより親交を深めることができた。




 普通科であるなずなと美術科である乃莉。ちょっとだけあった違いを際立たせて、それを解消させ、最終的に心を通わせることを何気ない日常描写の中で描いていくのはうまいなぁと思った。ホームセンターを使っているのもうまい。日常的なもの(なずな)と専門的なもの(乃莉)が混在するホームセンターは、なずなと乃莉の差異をを際立たせるのには好都合だし、トマトの苗も置いてある。


 インタビューを読むと、小見川千明さんの声って、これが本当なんだなというか、素に近いらしい。マカや潤は、頑張って出していたんだなぁ。


おまけ


 アバン。校長室に校長がいないことがわかった時の吉野屋先生(松来未祐さん)の声が耳から離れない。台詞にするとどんな感じだろう。「ふんあぁぁ」? 文字じゃうまくあらわせない・・・。


 この時の吉野屋先生の声↓