『ひだまりスケッチ×☆☆☆』第5話が面白い〜暗闇と光とゆのと有沢〜

 第3話「12月10日 カップ小さいですから」で、ゆのが沙英から進路の話を聞き自分の将来について考えたように、第5話でもゆのは自分の将来(進路)について考えることになる。


 ゆのと沙英がカフェでお茶をした時が「12月10日」であり、ゆのと有沢が美術室で会った時は「1月31日」。今回の第5話「まっすぐな言葉」は、沙英と進路の話をした時から約一ヶ月半後の出来事であり、ゆのが進路について少なからずとも意識していることでの出来事。


4月20日 『オンナノコのきもち』

 
 前半の「4月20日 オンナノコのきもち」は身体測定の話。測定した自分の体重や身長に一喜一憂するひだまり荘の面々の様子が描かれる(主にゆのとヒロだが)。身体測定表の持ち方や視力検査で使われる遮眼子の話など、身体測定ならではのエピソードが語られていく。


 ゆのが「結局去年とほとんど何も変わってないよ」と自分の身体の成長(=変化)がないと嘆いているところに、吉野家先生があらわれ、「ちゃんと成長してます」とゆのの胸を触る。ゆの達は胸のことを言われたと勘違いするが(吉野家先生はまたセクハラと言われてしまう)、もちろん吉野家先生は胸のことを指したのではなく、心(=内面)のことを指して言ったのであり、外面の身体の成長・変化はほとんどないのかもしれないが、内面の心の部分はちゃんと成長しているとゆのに諭したのである。身体測定という舞台装置は、単に身体測定時のエピソードを語るためだけに用意されたのではなく、身体的な成長がなく外見上は変化していないゆのだが、内面の部分は確実に変化・成長していることを象徴するためにも用意された。第3話「4月8日〜4月9日 決断」で描かれた自らの意思で自分の将来を選択したゆのの姿。彼女は着実に前進し、成長・変化している。ゆのの成長を感じさせるのに身体測定はうってつけのものだったのではないか。




 身体測定を終えたゆの達。ヒロの作ったケーキに食べていると、ゆのの携帯電話が震える。それは有沢先輩からの電話(間違ってかけてきた)であった。そして、電話をかけてきた有沢先輩とゆのが美術室で出会ったエピソード「1月31日 まっすぐな言葉」へと切り替わる。



1月31日 『まっすぐな言葉』


 携帯電話のカメラで撮った犬の写真を見せようとゆのはカバンの中を探すが、見つからない。沙英がゆのの携帯電話にかけてみると、見知らぬ誰かが電話に出る(有沢)。ここで、ゆのは「綺麗な声」と言い、声だけで電話に出た見知らぬ人物に惹かれる。有沢によれば、ゆのの携帯電話は「寒くて不安で震えていた」らしい。震えていたというのは、バイブ機能のことを示しているのだと思うが、別の解釈もできるように思える。その前に、まずは学校の美術室に携帯電話を取りに行くことになったゆのの事について書いていきたいと思う。


 ゆのは明かりがない夜の学校の中を一人で歩いていく(玄関には点いている)。廊下にも、教室にも、明かりは点いていない。そんな中、ゆのは明かりが点いている美術室へと辿り着く。これは、ごくごく当たり前というか、自然なことで、何も気に留めるようなことがあるとは思えないシークェンスなのだが、ゆのが進路(将来)について意識している・悩んでいる点に着目すると、このシークェンスはある意味を持ってくるのではないか。ゆのは、自分の将来をどのようにするか気にかけている。それは、ゆのが歩く暗闇の学校のように不透明なものであり、「学校の暗闇を歩くゆの=将来をどのようにするか思い悩んでいるゆの」なのかもしれない*1。進路について考えているゆのの現在状況を、暗闇を歩くゆのが端的に示している。


 暗闇を歩く中で見つけるのが有沢の居る明るい美術室なのであり、そこでゆのは進路のアドバイスを貰うのであるから、暗闇を歩くゆの(=進路について考えているゆの)にとって明かりが点いた美術室は、まさしく光明だったのではないか。

 ゆのは暗闇の中、光=有沢と出会うことになる。




 ここで、「寒くて不安で震えていた」という有沢の発言に戻る。「寒くて不安で震えていた」というのは、バイブ機能で携帯電話が震えていた事と、有沢が携帯電話を擬人化し主人(ゆの)から離れてしまって携帯が「寒くて不安で震えている」という意味で発言したのだと思うが、ここでまた進路について考えているゆのに着目したい。「寒くて不安で震えている」というのは、進路について考えているゆの自身のことが暗示されていたのかもしれない。進路について考える・悩むゆのは、「寒くて不安で震えていた」状態だった(寒くて不安で震えていた程悩んでいるとは思えないが)。そんなゆのに救いの手を与えるのが有沢。



 美術室の扉を開け、ゆのは絵を描いている有沢を見つける。カメラはゆのをT・Uし、有沢に見とれていたゆのは足を躓きおもわず転んでしまう。これらが示すように、有沢との邂逅はかなりインパクトがあったものなのだろう。進路についてアドバイスを与える有沢との出会いは転機と言える程、重要な出会いだったのかもしれない。
 

 有沢に頼まれ、ゆのは絵のモデルとなる。有沢が美大受験のため通っている研究所(予備校)のことについて話す二人。ゆのは、美大に行って何をするのかと有沢に聞く。返ってきた答えは「決まってない」という言葉。いろいろな才能が集まっている美大の中にいたい、その中で自分を伸ばしていきたいと有沢は続けて話す。その言葉を聞いている最中、カメラはゆのの足から上半身へと上がっていき、最終的にゆのの瞳へとT・Uする。シャフト作品ではよくみる手法だけど、ここでは有沢の言葉が全身を走り、とても感銘を受けているゆのをあらわすかのようなカメラワークにみえる。とても印象に残る1カット。


 有沢が描き終わった絵と対面するゆの。有沢が描いた絵は、うまいだけでなく、温かかった。微笑むように描かれたゆのの絵は、有沢の言葉を受けた現在の自分の状況をあらわしたかのよう。ゆのは有沢の言葉で自分の将来についてのヒントを得ることになる。


 有沢とゆのが校門前で別れる場面。別れ際、ゆのは有沢に「受験頑張ってください」と言う。「うん、行ってきます」と有沢は返し、街の灯りの方へと走っていく。「行ってきます」と言って走り出した有沢の脚を捉えたショットでは、光源の方へと向かっていく様が映し出される。美大という確固とした将来に向かって進む有沢はゆのには光るように見え、有沢が走っていく道の先は光輝いており、彼女は光の風景の中へと溶け込む。有沢が走っていった道は、彼女が歩む将来そのものだ。自分の将来が定まり光り輝く先(将来)へと向かっていく有沢のように、ゆのもなれるのだろうか。自分の進む道が決まっていないゆのは、有沢が走っていった垂直方向の道の横(画面右)にあるひだまり荘へと横断歩道を渡って帰る。ゆのは、有沢が走っていった垂直方向の道をまだ辿ることはできない。将来がまだ定まっていない彼女は、水平方向にあるひだまり荘にしか進むことができず、そこで自分の将来を選択しないといけない。ひだまり荘は、ゆのにとって自分の将来を決めるための大切な場所であり、宮子達が待っている場所でもある。




 有沢との出会いによって、自分の将来について不安や悩みが少しでも払拭できたのかもしれない。三期は自分の将来について考えるゆのの変化や成長を丹念に描いていて、何気ない日常生活から成長・変化を生み出す。けっして、過剰にはならないところがいい。



おまけ


 犬の写真が気になる。最後まで明かされなかった。

*1:思い悩むと言っても、そこまで悩んではいないのかも。学校は進めないほど真っ暗ではなく、ゆのがスムーズに歩いている所をみると、進路は気にかけている程度