『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』 第6話「彼方ノ休日・髪結イ」が面白い

 第2話「初陣・椅子ノ話」はクレハにスポットをあてた当番回、第3話「隊ノ一日・梨旺走ル」はリオにスポットをあてた当番回、第4話「梅雨ノ空・玻璃ノ虹」はノエルがメインとなった当番回で、第5話はクレハとノエルの三人娘がメインの話。第6話は、第1121小隊の話というよりも、ミシオとユミナがメインとなった話。リオ達がマフィアの芝居をしたりとなかなか見所が多い回。



二つの話


 第6話「彼方ノ休日・髪結イ」は、給料を与えられたカナタが初めての休日をセーズの街で過ごす様を描いている。Aパートではカナタを除く第1121小隊の面々の一日を追った物語が展開され(主に第1121小隊だが、カナタも登場する)、Bパートではセーズの街を舞台に主にカナタの物語が展開される(ミシオとユミナも)。Aパート冒頭に映し出されるサブタイトル「彼方ノ休日・髪結イ」が分岐点となり、リオ側の一日とカナタ側の一日が、AパートとBパートに分かれて展開される。セーズの街へと繰り出したカナタがリオ達と出会う事は一切ない。カナタがリオと再び出会うのは、セーズの街から時告げ砦に戻ってきてからだ。それまで、カナタがとリオ達の間に直接的な接触は存在しない。カナタ側とリオ側の物語は一見、お互いに干渉せず独立しているようにAパートでは見えるが、Bパートに入り、二つの物語は綿密に連繋していることがわかる。カナタ側が起こした波紋は、リオ側へと伝わり、リオ側が起こした波紋はカナタ側へと影響を与える。リオ側の物語とカナタ側の二つの物語は、相互作用をしながら、一つの物語を形成している。



 例えば、マフィアの芝居をする起因となったのはカナタの一言であったりと、細部を見ると互いが影響を与えている部分は色々あるわけだが、ここでは落石と形見の箱にしぼって書いていく。



 Aパート。中央から来たマフィアが、市でボスへの土産を品定めしている。ここでとある箱をマフィアはカゴの中に入れる。

 第1121小隊が密造酒を副業としていることが判明し、その関係でマフィアの真似事をした芝居をすることになる(第5話でクレハがクラウスに渡した酒がどういうものであったかがここで判明する)。窓や天井から外光が差し込む薄暗い屋内で、光と影を強調した照明の中でのマフィアの小芝居はギャング映画を彷彿とさせる(なんちゃってだが)。このリオ達が演じるマフィアの芝居を見て、中央から来たマフィアは怖気づいて逃げ出だし自分たちの乗ってきた車へと向かうが、謎の落石により、車はぺしゃんこになってしまう。土産を車の中に残したままマフィアは逃げていく。


 Bパート。Aパート冒頭に映し出された、青いアサガオを捉えたショット、橋の上で談笑する男性二人のショットが反復される。状況設定ショットの反復により、時間はカナタがセーズの街へと出発した朝の時間帯へと引き戻されて(設定され)、カナタ側の物語が始まる。ミシオは母親の形見である箱を探している。ユミナから事情を聞いたカナタはミシオを探す。ミシオは屋根の上におり、マフィアの芝居をしていたリオ達の銃声音に驚き、屋根から転げ落ちてしまう。雨どいになんとかつかまっていたミシオだが、雨どいが壊れ崖の下に落ちそうになるところを間一髪カナタが助ける。この時、崖の石が落下し、下にあった車をぺしゃんこにしてしまう(どういうことが原因で落石したかは不明。ミシオは一切崖に触れてはいないのに落石が起こった。ミシオが作った「音」によって落石したとも考えられる)。カナタとミシオは落石によって破壊した車の元へと行き、マフィアが市で手に入れたミシオの母親の形見を見つける。


 今挙げたように、カナタとリオ達は相互に作用している。中央からやってきたマフィアが市でミシオの母親の形見である箱を手に入れ、リオ達がマフィアの芝居をすることによって、マフィアは逃げ出し、ミシオとカナタによって落石が生じ、マフィアの車は落石の下敷きとなり車内に箱が残され、謝りにきたカナタとミシオは箱を見つける。偶然が波紋となって、様々な要素へと影響を与えている。


 この相互作用している二つの物語は最終的にリオが胸に下げている「鈴」へと集約される。


 Bパート。カナタがセーズの街から時告げ砦へと戻り、風呂上がりのリオと会話するシーン。カナタはリオの髪を拭きながら、「運命」を信じるかどうかについて問いかける。リオは、最初から与えられたり、決められたりするのは大嫌いだと言い、運命などは信じないと告げる。しかし、カナタの問いにこう答える。

「ただ、そうだな。誰かの生み出した偶然が、巡り巡って他人の人生を大きく変えることがあるのかもしれない。それを運命だと言うのなら、もしかしたら・・・」


 リオがこの言葉を発している最中、リオのクロースアップショットからディゾルヴして、密造酒を捉えたショットに切り替わり、またディゾルヴしてベッドで寝ているミシオ達とユミナをやや俯瞰から捉えたショット、ユミナのクロースアップショットと続き、再びリオのクロースアップショットへと戻る。ティルト・ダウンすると胸に下げている鈴が捉えられ、「チリン」と音を鳴らす。このカット割りによって密造酒の出来事とミシオとユミナに出来事は連繋していることが示される。印象的に捉えられた「チリン」と音を鳴らした鈴。この鈴はカナタが幼い頃出会った金髪の女性兵士が持っていたものと考えられ、それを現在リオが胸に下げている。リオと金髪の女性兵士の関係は、まだはっきりとは明かされてはいないが、過去に何かしらの接点があったことは明白だ。カメラが鈴を意図的に捉えたのには、金髪の女性兵士とリオは過去に接点があって繋がっており、カナタと金髪の女性兵士もまた過去に接点があり繋がっていることを示しているように思える。鈴が示すように、誰もが何かしらの事で繋がっていることが第6話の主題になっていると思う(リオの母親が好きだった酒が時告げ砦で作られていることなど)。そのためにこのような相互作用する構成になったのではないか(リオの台詞の「誰かの生み出した偶然が、巡り巡って他人の人生を大きく変えることがあるのかもしれない。それを運命だと言うのなら、」も主題の一つであり、第6話の構成もリオのこの台詞を体現したかったからこのような構成になったのだと思う)。 




落下する

 
 リオ達がマフィアの芝居をしている時、フィリシアは赤い薔薇を空中に投げ、赤い薔薇は上昇し、落下し、銃撃戦が行われる。銃声に驚き、ミシオは屋根から足を滑らせ落下し、カナタに助けられる。崖から落下した岩は、下にあったマフィアの車をぺしゃんこにする。

 落下の下降運動は、物語が動かし、問題が解決される契機となる。

 赤い薔薇の落下(銃撃戦)は中央から来たマフィアが怖気づいて撤退していく契機となるし、ミシオの落下はミシオの心の蟠りを解消させる契機となるし(カナタがミシオを見つける契機ともなる)、落下する岩は車を潰しミシオの母親の形見である箱をミシオの元へと戻させる契機となる。落下の下降運動は問題解消への契機として機能する。



髪に触れる


 髪に触れることが反復される。ユミナは、ミシオの髪を結うために髪を触り、カナタは、リオの濡れた髪の毛を拭くために髪に触る。ミシオの母親がミシオの髪を触るように、ユミナもミシオの髪を触る(類似した構図で髪を結う)、自分の髪を触らせることは心を許した相手にしか与えられない特権的な行為だろう(リオは髪をカナタに拭かれている最中に眠ってしまうのだから、よほどリラックスした状態だったのだろう。それは心を許していることに直結する)。

 髪を触ることは心を通わすこと、相手と繋がることであり、ユミナはミシオの髪を結うために髪を触り、ミシオの母親がミシオを抱きしめたようにユミナもミシオを抱きしめ、二人の絆は強く結ばれる。カナタもリオの髪を触ることによって、リオと繋がる。





おまけ


 ユミナの服のセンスは壊滅的だな・・・。



おまけ2


 前景にピントがあってないクレハとノエル、後景にカナタとリオとフィリシアのという、この構図が笑える。ノエルとクレハがいいな。