『けいおん!!』 第1話「高3!」が面白い〜唯と梓〜

唯と梓


 平沢唯秋山澪田井中律琴吹紬は高校三年生へ、中野梓は高校二年生へと進級しました。


 アバン、唯は誰もいない部室で一人ギターをかき鳴らす。唯の奏でるギターの音色に導かれるように、他のメンバーも続々と集まり、部室へとやってくる。ギターをかき鳴らす唯に対して、律は何やってんの? と尋ねる。唯は、新歓ライブに向けての必殺技開発中と答える。梓に、登校するの早いですねと聞かれ、目覚まし時計を見間違えて早く登校しちゃったと唯は云う。


 ここで、第1期の第1話「廃部!」と見比べてみる。


 第1期の唯(高校1年生)も、目覚まし時計を見間違えて登校した。この部分は高校1年生の唯と高校3年生の唯とでは何ら変わっていない、今も昔も共通している部分だ。ドジなのは相変わらず。だが、この部分を除き、他の部分は大きく異なっている。第1期の唯は、目標もなくただ走り、これから何があるのかわからずに登校していた。そのような状況をあらわすかのように、第1期では学校までの街中を走る唯を主に描写されていた。第2期では、街中を走る描写はなく、部室でギターを弾く唯が主に映し出される。部室でギターを弾き、そこへ仲間が集まってくる。彼女には、もう自分のやりたい事(音楽)、目標が既にあり、同じ時間を一緒に過ごせる仲間もいる。第1期/第1話の唯と第2期/第1話の唯とでは、明らかに状況が違う。明確な目標・やりたい事も見つかっていない高1の唯はそこには存在しなく、目標・やりたい事も見つかって仲間も得た高3の唯がそこにはいる。第1期の第1話「廃部!」と第2期の第1話「高3!」を対比させると、唯の成長と変化がよく感じ取れる。身体的な成長は、そこまでなくても唯は間違いなく変化し、成長している。




 ローアングルから仰角で捉えられたギターをかき鳴らす唯の姿は、窓からの光源により逆光になっていることも相まって、迫力があり、力強さが感じ取れる。彼女の逞しく成長した一面が垣間見えるように思う。逆光と云うと、どこか暗影たるものがありそうですが(人物に対して)、ここでの唯はそういうものは感じ取れませんね。



・・・・


 第1話では、新入部員をいれるのか・別にいれなくてもよくてこのままでもいいじゃん、が主題の一つになっているように思えます。その主題がどう展開していくのか。主に唯と梓に関して。


 唯は、澪達みんなと同じクラスになり、ワクワクしている。修学旅行も一緒だし、学園祭のクラス発表も一緒だし、今この瞬間がとても楽しい。

 とても楽しい気分でいる唯は、何故か桜の花びらを拾って集めている(愛でている)。どうやら、桜の花びらを1ダースを揃えようとしているようだ(別に1ダースを絶対集めようとしているわけでもなさそうだが)。唯は桜の花に興味を持ち、桜=春の季節を十分に楽しんでいるようにみえる。唯は、「桜(春の季節)=この瞬間/今/現在」が楽しくてしょうがない。それはずっとこのままでいい、現状を維持したままでいい、というのに繋がってくるように思える。

 第1話においての桜の花びらは、「現在/今」の象徴みたいなものなのかもしれない。それを唯は愛でている。




 唯は、今がとても楽しく、澪・律・紬・梓と5人でバンドが出来ればそれでいいと思っており、新たに新入部員を入れる必要性はないと感じている。唯は現状維持の意識が強い。



 新入部員が入らずこのままでいいと言っても、真鍋和に諭されるように、後輩の梓のためにも新入部員は必要となってくる。バンドは一人では出来ないのだし、廃部という可能性だって出てくる。

 梓のために、新入部員は必要だ。


 唯達は、梓のため新入生獲得に奮起する。あのちょっと不気味な着ぐるみを着てビラ配りをしたり、音楽室へと生徒を連れ込んだり、他の部がどのように新入部員を獲得しているのか探るために色々な部に体験入部してみたり、様々な活動をする。新入生歓迎ライブでも、唯は必殺技を披露して盛況に終わり、純や憂の発言からライブは成功したと云っていいものだっただろう。


 なのに、新入部員は来ない。全然来ない。ちっとも来ない。


 梓、平沢憂鈴木純の昼食のシーン。そこで梓は、軽音部はみんな結束していて、外から入りづらいじゃないのかと純に云われる。軽音部から離れた位置にいる純ならではの意見だっただろう。純の台詞の後に、ローアングルから捉えられた梓の脚を組むショット。憂のみんな仲良くて楽しいそうだもんの台詞の後に、梓のギュッと握った手のクロースアップショットが挿入される。そして、頬を赤らめる梓が捉えられる。これらを見ると、どうやら梓は唯達と仲が良いと云われることが嬉しいようだ。身体の一部位を使って、梓の心情をうまくあらわしている。最後に、顔の表情を持ってくるのいい。この喜びようから、梓も唯達5人での部活動を楽しんでおり、唯と同じく現状維持でいいと少なからず思っているだろう。少なからずじゃなく、大いに思っているのかもしれない。だが、唯達がいなくなった後の事を考えると新入部員を獲得しなければという思いもあることは確かだろう。新入部員がいないことは、梓自身に降りかかる重要なことなのだから。

 卒業していなくなる唯達と梓では置かれている状況が違う。


 梓が抱える、この矛盾した二重の想い。アンビバレントな想いを抱き、複雑な心境であろう梓はこれからどうするのか。



 部室で今後の部員獲得について話す唯達。ここで唯のPOVショットが挿入される(第1話では唯が客観的に他のメンバーを見る描写が多い)。楽しく会話する仲間、ホワイトボード、長椅子(またはドラム・黒板)。


 部室にあるものを見て、唯は現在自分が満たされた環境にあると感じたのではないか。ここには、友達がおり、楽器があり、何も不足していない。唯の今欲しいものが全て揃っている。そう、何もいらないのだ。そのようなことから、唯は「あたし、しばらくこのままでもいいな」と云ったのだろう。ちょうどその時、梓が部室を訪ねてきて、唯達の会話を聞く。唯はずっと5人でお茶したり、演奏したりしたいと皆に話す。ケーキの話題に変わり、バナナは梓が食べると思うから、残しといてと唯は云う。梓は、唯達が自分を大切におもっていることを改めて知り、自分が唯達にとって必要不可欠な存在だということも知る。そして、唯は自分の好物を知っている=自分の事をよく知っている大切な存在である。これらの話を聞いた梓は、5人のままで部活動を続けたいと唯達に告げる。梓も唯のように、この5人のままで活動することを望んだ。



 そうして、軽音部は5人のままで活動することになった・・・。一見、まるくおさまったように思えるが、どこか引っかかる。次回予告を見てしまうと、尚更に。梓のアンビバレントな想いは、果たして解消されたのだろうか? まだ、心の奥に存在しているのではないのか。


 新入部員を入れず活動することはいいことなのか? 深い絆で結ばれた5人で今後活動することは、現在はいいことなのかもしれないが、果たして「先」を考えるとどうなのか。新入部員がいない事態=一人の状態は、卒業する唯は直面しないが、残る梓には直面する問題。


 次回予告において、夕暮れの中での梓の横顔が気になる。




 ここまで、第1話について書いてきたけど、唯と梓のことしか書いてないような。この二人に重点を置いて第1話目は展開されていたように思える。っていうか、他の人物の描写が少ない。紬とか特に。


 唯の想いと梓の想いは若干ずれているように思えた。唯=現状維持、梓=現状維持+新入部員の考えになっていると思う。この二人の考えがどう変化し、解消されていくのか気になる所。


 それと、OPの石原監督もEDの山田尚子監督のも、どれも良かったです。特にOPが良かったです。



おまけ

 新歓ライブを伝えに来た和からライブ当日へと変わる所。戸外から部室を捉え、青空へとパンアップして場面転換し、パンダウンして再び戸外から部室を捉える所がちょっと面白かった。印象的な場面転換だった。時計が映されるから、時間が明確にわかるのがいい。