『裏切りは僕の名前を知っている』 第1話「刻、動き出す」が面白い〜桜美かつしとコントラスト〜


 久しぶりの桜美かつし監督作品ということで気になっていた作品。


 『あさっての方向』(06)以来の監督。コンテや演出や原画でずっと活躍していたが、監督業は4年ぶりか。


 脚本/高橋ナツコ、コンテ/桜美かつし、演出/高島大輔、作画監督/中山由美桜美かつし監督らしい第1話目でした。


 それと気になっていたのは、美術監督の栫ヒロツグさんと「ととにゃん」。『絶望先生』(08)などで美術監督やっていた時は、意識していなかったけど、『初恋限定』(09)で意識し始めた。


 『初恋限定』での美しい背景美術に惹かれて、ととにゃんと栫ヒロツグさんの名前をおぼえる。今回はととにゃんの名前がクレジットされていないけど、美術設定に加藤浩さんの名前と3D背景にかとうみつこさんの名前があったから、実質参加しているんだとは思うんだが。


 桜美かつし監督(の特徴)と背景美術がすごく合っているように思えた。



明と暗、窓の外


 第1話「刻、動き出す」を視聴していてまず目を引かれるのは、印象的な光と影のコントラストだろう(人工光を排除し、自然光で構成された、しかしそれはあまりにも極端な)。第1話冒頭での朝日が差し込む早朝のシーンは、特に印象的だと思う。




 第1話において、この光の明暗を強調する照明法は、登場人物たち(主要人物たち)の心理的な明暗にも関わってくる(第1話のみ)。


 ある登場人物の顔、もしくは身体全体が影に覆われれば、その人物の心理的な暗影を指し示しているだろうし、光に包まれ陰影が取り除かれれば、人物の心に光が差し込んでいることになるだろう。光と影のコントラストが、登場人物の心理状態を暗示し、尚且つ現在の心理状態の補強する機能を果たしていると云える(全てに当てはまるわけではないが)。人物の言動だけで人物の心理をあらわすのだけでなく、光の明暗をも利用し、視覚的に人物の心理をあらわしていく。



 その事に関して書いてきたいと思うが、全部追っていくわけにもいかなので(本編中にかなりの数がある)、いくつかピックアップする。



 Aパート。朝陽院の早朝の風景が映し出される。先述した通り、光と影のコントラストが印象的。夢から覚めた夕月は、その不思議な夢に思い悩まされているようだ。自分の見た夢が気になる夕月は、道場や木陰など陽の当たらない場所におり、一貫として陰影に覆われている。彼の心の悩みをあらわすかのように、彼は影に覆われ続ける。しかし、奏多と出会う時、夕月は影から解放される。それは、夕月にとって奏多は心の陰影を取り除いていてくれる存在、心を許せる存在だということを指し示してくれる。この後奏多は、園長先生とも会わず、木陰に佇んでいる。影に覆われている奏多をみると、彼が抱えている心の陰影/闇を暗示しているかのようだ。


 朝刊を取りに行った夕月は、新聞と一緒に手紙をみつける。その匿名の手紙には、「桜井夕月 死ね!!」と新聞の切り抜き文字で書かれていた。ポストから夕月の自室へと場所は移動する。中傷の手紙をもらいショックを受ける夕月、どうやら中傷の手紙は初めてではなく過去に一度届いたことがあるようだ。夕月の自室は、彼の現在の心境を反映したかのように、光と影のコントラストが激しく、夕月が居る場所(画面右)は、光があたらず闇に覆われている。今までの彼を覆っていた影とは比べ物にならない程の暗影は、夕月の心理的陰影を映し出したものであり、夕月は「自分はいらない人間だ」という心の陰を強めてしまう。一通目の中傷の手紙を見つける下駄箱のシーンでは、画面左半分(もしくは三分の一)が暗闇へと化している程で、夕月の心的ショックが大きかったことがわかる。




 夕月は自分の存在について悩んでおり、「死ね」と自分の存在を否定される文言にかなり動揺したのだろう。幼い時の回想(夕月は親に捨てられた事が語られる)が終わると、夕月は外光が差す窓から青空を見る。暗闇の自室から、光が差す方(青空)に向かって、「自分が生まれてきた理由を、ここいる理由を教えてほしい」と夕月は願う。彼は暗闇の自室(彼は、自分の存在理由がわからない・生まれてきた理由がわからないという暗闇の世界にいる)から、光の世界(=自分の生まれてきた意味・存在理由がわかる世界、希望の世界)を行くことを願っている。夕月は今の世界ではなく、別の世界を望んでいると云えるだろう。この窓の外と内については、後ほど詳しく。




 奏多に誘われ、夕月は学校へと登校する。樹木の影の中を歩く夕月と奏多。影に覆われている夕月を見ると、夢の事や手紙の事もあり、彼の心はまだ影に覆われているようだ。しかし、奏多に相談に乗ると云われると、影は取り除かれる。二度も陰影(=心の陰影)を取り除いてくれる奏多は、夕月にとってかけがえのない大切な存在なのだろう。



 Bパート。学校へと登校した夕月は、廊下で女子生徒達に呼び止められる。女子生徒に話かけられている最中、夕月は一貫として柱の影の中におさまっている所を見ると、彼にとって女子生徒は苦手な存在・厭わしい存在なのだろう。話の途中で逃げ出す所を見ると尚更だ。影が一切ない中で、十瑚に抱きしめられている時とは対照的。


 女子生徒から離れた夕月は、渡り廊下で花の世話をする宇筑と会う。渡りの廊下の屋根の影により、夕月と宇筑は両方とも影に覆われている。ここでは、夕月よりも宇筑の心理的陰影をあらわしていると云える。女子生徒の話によると、母親に暴力を振るわれているらしい。彼が影に覆われているのは、それが主たる原因なのだろう。宇筑が登場するシークエンスにおいて、彼は殆ど影に覆われているほどに彼の心の闇は深い。




 自分の心を夕月に読まれた宇筑はトイレに逃げ込む。そこでも彼は、光の当たらない影の世界におり、自分の心の闇を深めていく。トイレの個室の中に閉じこもっていた彼は、自分に呼びかけてくる謎の声を聞き、個室の外へと飛び出る。ここで窓を捉えたショットが挿入される。謎の声が窓から聞こえてくるようで、宇筑は窓と向かい合う。窓と向かい合う宇筑の姿は、Aパートでの窓の外を見る夕月の姿を想起させるだろう。第1話において、「窓」は境界線の機能を果たしているように思える。窓の内側は、自分の存在理由に苦悩する夕月や親の問題で疲弊している宇筑がいる現実の世界。窓の外は自分がいる世界ではない別の世界。それは、夕月が望む自分の存在理由がある世界であり、宇筑にとっては謎の声が力を与えてくれる世界。窓はあっちの世界とこっちの世界の境界として機能している。

 夕月と宇筑は今の世界(=窓の内)ではなく、別の世界(=窓の外)を見る。彼らは、今の世界ではなく別の世界を望んでいるのだろう。そして、この「窓の外を見ること」はもう一度行われる。それについては後述する。



 謎の声に囁かれる宇筑を捉えたショットでは、光と影が彼を二分する。画面上半分を影、画面下半分を光が。宇筑の身体を二分した光と影は、彼の中で光(=陽)と影(=陰)がせめぎ合っているようにみえる。



 この後、宇筑は謎の声の囁きに負け、夕月に復讐(勝手な復讐)することになる。


 逆光によりシルエットとして浮かび上がった宇筑の姿は、謎の声の誘いに導かれ、暗黒面へと落ちてしまったことを浮き彫りにする。この構図と類似した構図はこの後反復されることになる。




 奏多の自宅でのシーン。夕月は、とある本を見つける。その本は、奏多が院に来た時に唯一持っていた本で、「ラジエルの鍵」という本だった。その本の名前を最近読めるようになったという奏多は、椅子から立ち上がり、窓のそばへと行く。逆光で捉えられた奏多は、この汚れた世界を綺麗にするためには全てをリセットするしかないと思うわないか? と夕月に問う。先述した通り、光の差す方・窓の外を見る行為が夕月と宇筑に続いて、ここでも行われる。窓の外を見ることは、ここではない別の世界を求める事と同義であり、奏多も今の世界(=汚れた世界)ではなく、別の世界(=綺麗な世界)を望んでいる。 


 先述した宇筑の逆光の構図と類似した逆光の構図が反復される。逆光により黒く浮かび上がった奏多の姿は、宇筑と同じく暗黒面へと落ちるであろうことを暗示しているのではないか。奏多が今後どうなるのか気になる所。




 夜になり、夕月は院の子供たちを寝付かせるためにお話を聞かせる。この劇中劇は、今後の夕月とルカ(ゼス)の出逢いの運命を暗示させるものである。お話は王子様とお姫様の話であり、二人は会ったことがなくとも、遠い昔から互いのことを知っており、それにより二人は必ず出逢う(神様とした二人の約束)という内容のものだ。冒頭の夢の話からみると、王子様がルカであり、お姫様が夕月なのだろうか。


 子供たちを寝かしつけた後、宇筑から「助けて」というメールが入り、夕月は院を飛び出す。横断歩道の真ん中にいる宇筑を夕月は見つけるが、宇筑(幻)が消え横断歩道に取り残された夕月はトラックに轢かれそうになる。ここまで、夕月は夜の闇の中に包まれ、暗影に覆われている。そこに、ルカが現れ夕月を間一髪助ける。ルカに助けられた夕月の顔は電灯や月明かりの光に照らされ続ける。それは、夕月が夜の闇(命の危殆)から助けられ、光の世界へ(安全な)と引き戻されたことを示す。



 闇が全てを支配するとルカが告げると(夕月に迫る危急)、月光が雲に遮られ、辺りは暗闇に包まれる。だが、ルカが「俺がいる、俺が助けてやる夕月」と云うと、暗闇から月光の光へと辺りは包まれる。


 ここでも、明と暗を使用し、人物の現在置かれている状態をあらわしていく。



 先ほどの劇中劇が暗示するように、夕月はルカと初めて出会ったのに、昔から知っているように感じ、お話の通り、彼らは出逢った。

 ルカは冒頭の台詞「俺は、お前を裏切らない」を繰り返す。



最後に


 一貫とした明と暗のコントラストが第1話を彩る。見応えのある1話目でした。



おまけ


 この二人は何者なんだろう。OPでは銃を撃ったり、剣を振りまわしたりしていたが。