『Angel Beats!』 第6話「Family Affair」が面白い


 第6話「Family Affair」について色々と(BS11の再放送を見て)。コンテ・作画監督/平松禎史

直井と音無とかなで


 Aパート。SSSは生徒会長代理の直井により反省室送りへとなっていたが、翌日解放されることになる。SSSのメンバーは、一般生徒である直井がなぜこのような行動に出たかについて話しあう。会話内容と連繋するように、直井の謎(不気味さ)を煽るような不吉な旋律が鳴り響き、長い廊下(奥行きを強調した)を歩くSSSを捉えたロングショットは進むべき道を見失いかけている(かなでの失墜と直井の台頭により)SSSと直井のなんともいえない不気味さをあらわすかのようだ。このあと、SSSは直井が醸し出す不気味さの意味を身を以て知ることになる。



 ゆりはSSSのメンバーに、好き勝手に授業を受け、直井を撹乱するようにと命じる。授業中に麻雀をしたり、筋トレしたり、お菓子食べたり、机を寝床に寝たり、一分置きにトイレに行ったりと各々好きなように授業を受ける。予想通り直井が登場するのだが、思ったような成果をあげることができない。


 そんな折、ゆりは一般生徒に暴行する直井を盗視する(これが、直井がNPCでないというヒントになる)。直井の隠された側面・裏の顔(黒い本性)を示すかのように、直井は逆光の中、シルエットとして浮かび上がる。この後のシーンで、直井は裏の顔(こちらが真の顔なのだが)を再びあらわすことになるのだが、この時も直井は逆光の中に黒い影として浮かび上がる(そのシーンについては後ほど詳しく)。本性を表した時、彼はきまって逆光の中におり、逆光が直井の本性をあらわす機能を果たしていると云えるだろう。逆光の中の直井は、非常に暴力的であり、残忍さを剥き出しにするのだが、その姿はどこかむなしさと物悲しさがただよう。逆光は、彼の生前の人生によって負った心の傷とそれによって生じた彼の心の陰影をも指し示すだろう。逆光は直井の本性(真の姿)をあらわす機能を果たしていると先ほど述べた通り、直井の残忍さと彼が抱える心の陰影を同時にあらわしている。ストーリーが進むと直井が逆光から解放される時が訪れる。それは、彼の心の陰影が取り除かれ、心の傷(自分を認めてもらえなかった)が癒されるとき(承認してくれるとき)である(残忍さも取り除かれるだろう)。直井の逆光を取り除く人物とは一体誰なのか。それについては後ほど。



 埒が明かない状況にいらつく音無は、教室で一人佇むかなでを見つけ、話しかける。第6話は、かなでと音無の距離が徐々に縮まっていくさまも見所の一つ。音無がかなでに話しかける際、音無とかなでは視線を交差させることはない。音無はかなでの後ろの席に座りかなでを見ずに横を向き、かなでは後ろにいる音無に対して振り向くこともない。この位置関係が、彼と彼女の現在の心理的距離を浮き彫りにする(この時点では、二人の間に距離がある)。学食に麻婆豆腐を食べに行こうという音無の誘いに、当初乗り気でなかったかなでは興味を示し、後ろの席にいる音無を見ようとする、またこの時音無もかなでの方を見る。かなでが席を立ち、学食へと行こうと教室を出る際、はじめて音無とかなでは視線を交換する。音無とかなでは視線を交差させ、彼と彼女の距離は徐々に縮まっていく。



 場面転換し、大食堂へと場所は移動する。音無とかなでは辛くて有名な麻婆豆腐を向き合って食べる。前のシーンでは、音無は横を向き、かなでは背を向けて一切向き合うことがなかったのだが、今度は音無とかなでは向き合って食事をする。対面して視線を交差させ食事をする彼と彼女の姿からは、二人の心理的距離が少しずつ縮まっていることが見えてくる。だが、窓と壁の境界線で音無とかなでの間には線が引かれているようなレイアウト(画面左の窓にはかなでが、画面右の壁には音無が)になっており、彼と彼女の間には境界線が存在し二人は分断されているかのようだ。それがどう解消されていくのか。音無がかなでの好物は麻婆豆腐だと云うと、かなでは自分の好物が麻婆豆腐だということを知る。その会話からは、音無がかなでを少しずつ知っていくさまが窺い知れる。



 麻婆豆腐を食べている二人の前に、直井が登場する。休み時間の食事は校則違反であり、音無とかなでは監禁されてしまう。頑丈に作られた扉は、びくともせず、出られる気配はなさそうだ。閉じ込められて焦る音無とは対照的にかなでは「しょうがない」と云って寝てしまう(かなではベッドの隅で眠り、音無は扉に寄りかかる)。出られる気配もないのでしかたなく音無は部屋でかなでと一緒に過ごす。そんな中、地震のような地鳴りで音無は目を開ける。それは地震ではなく戦闘による振動と轟音だった。この時、ベッドに滴が落下するのを捉えたショットが挿入される(戦闘により、天井から水が漏れ出したのだろう)。落下する滴は、この後も繰り返し映し出される。音無は無線でゆり達と連絡を取ろうとするが、故障しており連絡が取れない。部屋から出ようと部屋中をくまなく調べるている最中、無線からゆりの声が聞こえてきた(交信することは出来ず、一方的にゆりの声を聞くだけの状況)。ゆりは、直井がNPCでなく自分たちと同じ人間だということ、一般生徒を盾にSSSを惨殺しているということを伝える。ゆりの声を聞く音無と共に、先述した落下する滴のショットが挿入される。落下する滴は、SSSのメンバーが成す術もなく殺されていく凄惨な戦いに対してのゆり(もしくはSSSのメンバー)が流す涙をあらわすものと云えるだろう(聞こえてくるゆりの声は力が無く弱弱しい)。滴の落下運動は、涙がこぼれる落下運動と照応している。この落下する滴のイメージは、このシーンだけでなく、後のシーンでも反復される。後のシーンの落下する滴も、涙の象徴と云えるだろう(それについては後述する)。落下する滴のイメージは、人が流す涙のイメージへと繋がる。



 音無は、眠っているかなでを起こし、部屋からの脱出を手助けしてくれと頼む。音無の頼みを受け、かなではガードスキル「handsonic」を発動し、堅牢な扉を開けようとするが、全く歯が立たない。ガードスキル「handsonic」は自衛用という発言を受け、音無は初めてかなでと会った時の攻撃の意味を知る。「記憶があったら、馬鹿な質問をしなかったら、お前の味方になっていたかもしれない」と音無はかなでに云うが、かなでは「味方なんていなかった。いたら消えてしまうもの」と返す。音無は、かなでが置かれている状況を深く悲しむ(おそらく、音無はかなでのために初めて涙を流した人物だろう)。攻撃の真意とかなでの絶対的な孤独の運命を知った音無は、かなでのことを誰よりも知り得る人物となっただろう。これにより、音無とかなでの心理的距離はぐっと縮まることになる。「handsonic」の複数のVersionを試しても効果はなかったが、音無のアイデアにより、Version2/Version3/Version4の組み合わせにより、堅牢な扉は破壊されることになった。部屋からの脱出に成功した音無とかなで。この時、音無はかなでの「手」を握る。音無とかなでが手を握り(互いの身体の距離がゼロに近づく)、距離があった彼と彼女の物理的距離/心理的距離は格段に縮まっていることが視覚的にあらわされる。それは、先述した通り音無がかなでの事を深く理解したからであろう。教室、食堂、独房のプロセスを経て、音無とかなでの身体が徐々接近していくのと同時に、音無はかなでのことを知っていき、彼と彼女の心理的距離は縮まっていく。



 音無とかなでは手を繋いで、SSSと直井が戦闘する場所へと急ぐ。廊下の先が暗闇に覆われている音無とかなでを捉えたショット。音無の先にある暗黒の闇は、これからの陰惨な未来(SSSメンバーの惨殺)を暗示するだろう。音無の前に待ち受けている直井の圧倒的な暴力とSSSメンバーの血の海。



 降りしきる激しい雨の中、直井とSSSの戦闘場所へと音無たちは到着する。直井により、為す術もなくSSSのメンバーは一方的に惨殺されていた(死なないのだが)。照明塔に照らされ、逆光の中の直井が反復される(先述したシーン)。彼は一貫として逆光の中に居続ける。


 直井は、ゆりを成仏させようと催眠術を使い(この催眠術で一般生徒を操っていた)、偽りの記憶でゆりを成仏させようとするのだが、音無が「紛い物の記憶で消すな」と叫び、直井に殴りかかる。「お前の人生だって、本物だったはずだろ」という音無の台詞と共に、直井の回想が始まる。枝が折れ木から落ちて、直井の兄(健人)は死んだ。折れた枝が振り子のように揺れ、直井の顔を枝の影で隠したりする。直井のPOVショットでは、折れた枝が太陽を遮る。直井は死んだ兄にすり替わり、厳しい父親のもとで陶芸家として生きていこうとする。自分を認めてもらうために、自分の人生を意味のあるものへとするために。直井の陶芸の腕は展覧会に入賞するほどになった。しかし、父親が病で倒れ、直井の未来は閉ざされる(師を失くし、工房も持てず、一人立ちもできないため)。今まで開かれ続けていた居間の障子が最終的に閉ざされるように、直井の未来も閉ざされる。



 直井は自分の人生は偽りだった。自分はどこにもいなかった、兄と父しかいなかったと吐露する。音無は、お前は人生は本物だったと云い、直井を抱きしめる。自分を認めてくれるのかと直井は云い、お前以外の誰を認めるんだと音無は返す。音無の言葉を受け、直井は回想する。それは、父親が自分を承認してくれた時の記憶だった。父親が自分を承認してくれた時、直井の見ている世界は反転する。反転した世界は、普段絶対に自分を認めてくれない父親が、自分を認めてくれた事実を強烈に印象付ける。自分を認めてくれなかった世界から(=正常位置の世界)、自分を認めてくれた世界へ(=反転した世界)。



 自分が一番聞きたかった言葉を直井は音無から聞いた。音無は自分を承認してくれたのだった。この時、直井は逆光から解放される。直井の顔は、もう陰影で塗りつぶされることはない。逆光の中に再び戻ることもない。直井の心の陰影は、音無によって取り除かれたのだった。雨は止み、光が直井を包む。



 直井が空を見上げるショットから水たまりへと落下する滴のショットへとディゾルヴする。先述した落下する滴のイメージが反復される。その滴は、多分直井の涙ではないだろう(音無に抱きしめられているため、涙はあのようには落下しない)。おそらくは雨の滴。しかし、落下する滴のイメージは、直井が流した涙の象徴だ。落下する雨の滴=直井が流した涙(落下する滴のイメージ=涙のイメージ)。直井は音無によって変わることとなる。



 落下する滴のイメージ(=涙)で第6話は終了する。



おまけ


 独房のような部屋でのシーン。靴を揃えたり、スカートを直したりとかなでの芝居がやけに細かい。それは先述した通り、焦る音無と冷静なかなでを対比的に映し出すためのものだろう。