『迷い猫オーバーラン!』第9話「迷い猫、泳いだ」のメモ


 監督・コンテ・演出/平田智浩。作画監督/大河原晴男



 第9話の監督は、平田智浩さん。BS11では、『迷い猫オーバーラン!』の後に『PEACE MAKER鐵』が再放送していたり。



 他の回と比べると、全体的に落ち着いた印象。カット割りのテンポも比較的緩やか。BGMも派手じゃないし。


 ワンテンポ遅らせるというか、ちょっと間を置いているから、ゆったりとしたリズムになるのか。


 仰角・俯瞰のアングルの異様な少なさ(わざとやってんのか?)。


 声優陣のテンションもどこか抑制的に感じる。吉野裕行さんのはしゃいでいるんだけど、一歩引いている感。第3話以降はっちゃけていたから、尚更抑制的だと感じるのかもしれない。


 そして、BパートのFIX。カメラワークの抑制(Aパートと比べると)。


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 この1カットとか、時々妙に力が入っている部分が。他にも大吾郎のスクワットとか。



 文乃が浜辺を歩いている1カット。実写を合成したかのような波。これは果たして実写の合成なんだろうかと疑問(CGなのかもしれん)。水面に反射する陽光とか、小屋での窓に滴る水とか、漁船とか。細部が気になった回。



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 Bパート。ここで徹底して描かれるのは、見つめ合うことの忌避と一定の距離の創出である。文乃と巧は見つめ合うことがうまく出来ない。見つめ合っていると、二人は必ず言い争いを始めてしまい(全部文乃が難癖をつけるのだが)、見つめ合うことは中断されてしまう。巧と文乃は見つめ合うことがうまくできないため、二人は見る対象を失い、視線は宙吊りとなり、海原や星空へと行き着いてしまう。海や星を見ている時、彼と彼女は言い争いをしなくて済む(それは、もちろん見つめ合うことをしなくていいから)。見つめ合ううこと・対面することが持続することはないのである。

 見つめ合うことの忌避の大部分を担うのが文乃。


 文乃と巧は、一定の物理的距離を保ち続ける。浜辺やボートや小屋や丘など。巧が距離の均衡を崩そうとするならば(近付こうとするのならば)、文乃は拒絶し、巧から離れようとする(文乃に聖域があるかのよう)。一定の物理的距離を保ち続けるというのは、近づいたら離れ、離れたら近付くことである。巧が近付くと、文乃は離れ、巧が離れると、文乃は近付く。二人は決して近付くこともなく、離れることもない。距離の均衡が崩される時は、イレギュラーの時だけであり(雷鳴や躓くとき)。文乃の巧に対する心理的距離を、物理的距離として描く。近付きたくても近付けないし、決して離れたくもない。この一定の距離が無効になるとき、それは恋愛の成就の瞬間。

 一定の距離の創出の大部分を担うのは、文乃である。


 これらのことによって、巧と文乃の現在の関係、文乃の複雑な心の内を徹底的に(執拗と云ってもいいのかもしれない)描き、物語(恋愛)のクライマックス(10話〜12話)へと繋げていく。


 距離の話は、裏僕第9話の記事へと続く。