『けいおん!!』第20話「またまた学園祭!」 ライブと観客


 2年生時の学園祭ライブが描かれた一期第12話「軽音!」と比較しながら、今回の学園祭ライブについて書いていきます。



 3年生である唯たちにとって、ラストとなる学園祭でのライブ。ライブの興奮が徐々に高まるのと同時に接近していく終わりの時。ライブ会場にいる皆が幸福に包まれ楽しそうしているのだが、終わりが訪れるのを知っている視聴者としてはどこか切なくみえる。

 ライブ映像をしこたま見たのか、それとも女子高の学園祭にロケハンでもしたのか。ライブの臨場感が今までとは違う。


 Aパート。HTTのTシャツを着て、唯たちは部室からステージへと向かう。ここで目にとまるのは、階段をおりる際の梓の主観ショット。唯と律が前に配置されていることから、これは梓のPOVをあらわしていると云える。主観ショットによって、まるで視聴者が唯たちと一緒にステージに向かっているような感覚を起こさせ、臨場感を味わえるようになっている。それと同時に、この主観ショットは別の役割も果たしている。そもそも、なぜ梓の主観ショットなのか。唯の主観ショットでもよかったのではないか。最後の学園祭ライブなのだから、唯たちの主観の方が適切とも考えられる(彼女たちが主役なのだから)。しかし、梓の主観ショットが選ばれた。梓のPOVから唯と律がライブに向かう様を映し出し、梓という存在を強調させ、梓にとって唯たちとの最後の学園祭ライブであることを鮮烈に浮き彫りにする。ライブ直前の高揚感と共に別れをどことなく感じさせる。



 場面転換し、ステージへと移動する。


 一期第6話「学園祭!」や一期第12話「軽音!」では、Bパートに入ってから本格的にライブが始まる構成だったのだが、今回はAパートから丸々あますことなくHTTのライブを見せていく構成になっている。学園祭ライブの最後だけあって、力の入れようが違う。一期第6話「学園祭!」ではイメージ映像が、一期第12話「軽音!」では唯がステージに向かう様とHTTのライブをクロスカッティングで見せたりしていたが、今回はライブだけを見せていくという姿勢も、他の学園祭ライブの見せ方と違ってくる所だ。多くの点で今までの学園祭ライブとは違っている。


 1年時・2年時の学園祭ライブと大きく違ってくる点は、観客とHTTの一体感であり、観客とHTTの通風性。一期第12話「軽音!」と比較すると如実にわかる。本編中繰り返し登場するこのショット。観客席からHTTを見ているという視点。観客側、通路からHTTを正面で捉えるショットは一期にも存在したが、このショットは第20話独自のものだ。繰り返し繰り返し、観客席からHTTを見ていることを強調するのは、ライブの臨場感を視聴者と同期させるのと同時に、観客の存在を強く意識させるものだろう。



 今回ライブ中多用されているのが、ステージからHTTのメンバー越しに観客側を映すこと(ライトが印象的)。これも一期ではあまり見られなかったものだ。唯たちが見ているであろう視点。唯たちはこのようにしてステージから観客を見ている。



 今までの観客を強く意識させなかった作りに対して、今回は常に観客の存在を提示する。HTTはいまや、皆のもの、ファン達のものになっている。



 ライブ中のカメラワークも一期第12話「軽音!」と随分と違う。一期ではカメラは固定されそこまで動かさなかったが、今回はしきりに動く。PANをして、画面は細やかにに揺れ続ける(現在のEDのように)。「ごはんはおかず」の時は、激しいというか、盛り上がっていることを表現したかったのか、画面は細かく揺れ続ける。「U&I」では比較的PANが多くなり、画面は流動する。曲の内容で、使い分けをしている。「ごはんはおかず」では観客との掛け合いと画面を揺らして、盛り上がる曲をより盛り上げる。ライブ中のカメラアングルも今までにないほど多彩だ。

 ライブシーンの完成度は、今までのライブシーンよりもはるかに高い。


 携帯電話の描写も気になるところ。一期第12話「軽音!」の学園祭ライブでは携帯電話は一切登場しない。今時の女子高校生が登場するのに、携帯電話を描かないのはおかしいと感じたのかどうかわからんが、今回は携帯電話を目一杯活用する。観客が携帯電話のカメラを使ってHTTのメンバーを撮影したり、携帯電話をサイリウムのように使用したりと今回の学園祭ライブでは携帯電話というガジェットを十二分に使う。



 ライブ終盤に彼女たちは一期第12話「軽音!」のように内側に向かって演奏をする(これについては一期第12話「軽音!」の感想で書いた)。ここは、前回の学園祭ライブと今回の学園祭ライブに共通している点。内側に向き合うのは、観客に向けてというよりも別のものに向けて演奏しているようにみえる。一期では内側に向き合った後、観客側に振り返るのだが、今回は観客側に振り返る描写はなく内側に向き合ったままライブは終わる。観客を見ることはなく、彼女たちは互いの顔を見てライブを終わらせる。ライブの最後、彼女たちは自分たちに向けて演奏をする。



 Bパート冒頭。オカルト研究会やマンモスの肉の店など学園祭の一風景と共に、校舎に一列にとまっている五羽の鳥(スズメっぽい)が捉えられる(この後、唯たちも部室で一列に並ぶ)。五羽の鳥は、HTTのメンバー五人を指し示しているのだろう。五羽の鳥たちは、この後も登場することになる(同じ鳥だとはいえない)。Bパート、HTTのメンバーが泣いている所が終わると五羽の鳥たちが別々の方向へと飛び立っていく。鳥たちのようにこれから唯たちも別々の進路を歩いていく。HTTから、学校から、飛び立っていくのだ。



 ライブ終了後の部室でのシーン。いつもの部室よりも空間を広く見せる空間設計。時折入る俯瞰からのロングショットが部室の空間の拡がりを強調させる。広い部室の中にぽつんといる最後の学園祭ライブを終えたHTTの切なさ・物悲しさ・寂寥感・空虚感が滲み出る。夕焼けの中の部室、窓からの自然光がこのシーンを盛り上げる。窓から差し込む光が彼女たちのこぼれる涙を光らせるのだ。一列に並んだ五人を同一フレーム内に収めたショットで各々の仕草を同時に見せる所も良い。端で澪が泣いている中、紬が「やだ、やだ」という所とか。皆が抱き合ってる中、映し出される五人のバッグで終わるのも良い(寄り添うように置かれているバッグは五人の絆の象徴なのだから。これは一期第12話「軽音!」でも描写された)。3年生が泣いてる中、落ち着いて接している梓は意外と大人なのかなと。それとも実感がまだないのか(そんなことはないと思うんだけど)。



 「いつまでも放課後です」(示唆的だ)や回り込んでの振り返りなど良い所が結構あった。ライブシーンの力の入れよう、ライブが終わってからの描写、登場人物たちの細やかな所作。素晴らしかった。


おまけ


 憂が「お姉ちゃんだよ」と後ろを振り向く所があるのだが、後ろの男女は唯と憂の両親なのかな。お父さん、ちゃんとカメラ持ってる。