『中二病でも恋がしたい!』 現実に立ち向かうために、自分の世界を変えるための中二病


 最終話「終天の契約(エターナル・エンゲージ)」、面白かったです。

 京アニがここまでド直球の青春ストーリーをするとは思わなかった。中二病というちょっと変わった題材を主題にしてはいるが、根底にあるのは思春期の少年少女が悩み、喜び、躍動するという王道の青春物だ。初めはただのラブコメかとおもったけど、ハルヒ氷菓よりも全然吹っ切れた青春物語だった。


 コンテ・演出/石立太一作監/植野千世子。この二人が組み合わさると最高の出来になる。素晴らしかった。



 前の記事でも書いたが、最終話でも落下する立花と受け止める勇太というイメージが使用された。立花が落下する時、ドラマ(メロドラマ)が生起する。彼女が落下する時、きまって彼と彼女のドラマが始まる(それは、第7話だったり、第9話だったりする。詳しくは前に書いたこの記事を参照)。


 落下という垂直の運動から紡がれて、不可視境界線という水平の運動へと帰結する。


 メロドラマの始まり、メロドラマを躍動させるのには、高低差のある舞台とは効果的なものなのだろう。勇太宅のベランダであったり、立花実家の屋根であったり、ちょっと不安定な舞台は観ている者の感情を揺れ動かす。




・・・・


「つまらない現実に戻るのか、それとも俺と一緒に、現実を変えたいと思わないのか」




 立花は父親を亡くしたが、その現実感の無さに戸惑っていた。

 皆は、父親が亡くなったことを、父親が死んだという現実を受け止めろ、と言葉には発せずとも強制してきた。でも、立花は、自分が抱えている父親への想い、父親が亡くなったことを受け入れることにまだ心が追い付いていなかった。


 そんな心境であった立花だったが、母親や姉の意見に従うように、現実に従うようにと自分に言い聞かせて、抱えている想いを押し殺そうとしていたのだった。父親との思い出が詰まった家から離れることを提案してきた姉に対して、ずっと家にいたかった立花だが、「仕方ないよね」と云って自分の想いを抑え込み、現実に従うおうとしていた。



 現実への疑問を押し込め、つらくてつまらない現実に服従する。



 自分の想いを押し込めていた立花は、偶然、勇太と出会う。中二病真っ盛りの勇太は、他人から見たら理解不明な言動を恥ずかしがることもなく、疑問にも思わず、自分の心が命ずるままに行動していた。勇太の行動は、現実の常識や規則から、逸脱していたものだった。


 現実のルールに従わない(力はあると信じること)勇太の姿に、立花は衝撃を受ける。誰もが、現実に従え、これが現実なんだから受け止めろと迫ってくる。でも、そんな現実に立ち向かう者がいた。規則に従わずに、規則を破ろうと、自分の心に素直に行動する者が。本気で力はあると信じ込み、この世界(=現実)と戦っていたのだった。


 傍(=現実)から見たら、どう考えてもバカバカしい行動、勘違いしている行動だと思う。でも立花にとっては、その勇太の行動がおそろしく強靭で、世界を変えるほどの力を持っていると思ったのだった。



 現実に従うのではなく、現実に立ち向かいたい、信じることをやめずに、世界を変えられると信じたい。



 立花にとって、勇太はこの世界を変革する存在だった。


 そして立花は、誰にも負けない、誰の力にも縛られない力。自分の想いに従うために、世界に抗うために、最強の邪王真眼を獲得したのだった。中二病は、自分の世界を変えるための彼女の武器だったのだ。


 邪王真眼を得た立花は、不可視境界線を探すことになる。もう一度父親と会って、「さよなら」を云うために。


 しかし、再会した勇太は中二病ではなくなっていた。彼は、現実に抗うことをやめ、現実に従って生きていた。ましてや、勇太は現実に従え、自分を抑制して生きろと云ってくる。今まで邪王真眼を武器に世界と戦ってきた立花だが、勇太の言葉に従い、中二病をやめることになる。邪王真眼を捨てたのだった。世界を変えることをやめた。

 勇太は、ダークフレイムマスターは、自分と一緒に世界を変えるくれる存在、不可視境界線を探してくれる存在だと思っていたのに。

 
 でも、勇太は再びダークフレイムマスターとして立花の前に戻ってくる。そして、そこであの言葉を立花に向かって云うのだ。



「つまらない現実に戻るのか、それとも俺と一緒に、現実を変えたいと思わないのか」



 自分と一緒に、もう一度現実に抗おう、現実に従うのではなく自分の心に従おうと、立花に手を差し出すのだ。立花は邪王真眼を取り戻し、ダークフレイムマスターと共に不可視境界線へと向かう。そこで、立花と勇太は不可視境界線を見付けることができた。ダークフレイムマスターに戻った勇太と一緒なら、不可視境界線を見れたのだった。


 そこで彼女は、父親と出会い、「さよなら」と告げるのだ。




 パトカーに力(?)を使う立花。やるとは思っていたし、ベタな行動だし、バカバカしいし、すごく恥ずかしいけど、やっぱこの姿の彼女は最高にチャーミングだ。