『花咲くいろは』第11話「夜に吼える」 緒花と孝一の距離の描き方


 脚本/岡田麿里、コンテ/安藤真裕、演出/篠原俊哉作画監督/川面恒介・吉田優子。

 第1話以来に皐月と孝一に再会する面白い回だった。


考ちゃんと緒花


 孝一と緒花の距離感の描き方がよかった。久しぶりにあった二人。微妙に距離が生じてしまっている二人を表現するために、選ばれたのが窓際のカウンター席だ。なぜこの席に二人は座っているのか? 別にテーブル席に座らせてもよかったのではないのだろうか。でも、そうしなかった。カウンター席が選ばれたのは、二人を向き合わせたくなかったからだ。第11話において、孝一と緒花が正面からちゃんと向き合うショットはほぼない。あったとしても、眼鏡の女の子がそばにいたり、二人の距離が離れすぎていたり、すぐに向き合うのをやめてしまったりする。孝一と緒花は互いの目を見ることができない、すぐに視線をはずしてしまう。そこから、この二人の現在の心理的距離が微妙に離れていることがわかる。孝一と緒花は隣の席というすぐそばにいるはずなのに相手と対面せずに、別の方向を向いている。



 緒花と皐月が食事をするシーンでは二人はテーブル席に座り、正面を向き合い口論をする。テーブル席で向き合い、自分の思っていることをぶちまける。

 第11話は席を使い分けて、人物の関係性を描き分ける。



 孝一も緒花も離れているうちに、ちょっとだけ変わった。「頑張っているって判断するのは自分じゃなくお客さんだから」という話を聞いた孝一は緒花のことをどう思ったのだろうか。旅館の仲居らしくなった緒花(自分の知らない緒花)にちょっと距離を感じたかもしれない。自分の知らないうちに本屋でバイトを始め、眼鏡の女の子と仲良くなっている孝一を見て緒花はどう思ったか。いつも一緒にいた二人だったが、いつのまにか孝一にも緒花にも互いの知らない面が増えていた。



 孝一と緒花は、会話中も窓から外の風景を見ている。二人が視線を交差させることはあまりない。ただ緒花はしきりに孝一の横顔を盗み見る。じっと見つめているが自分が思っていることをうまく口に出せない。



 コーラと紅茶を半分ずつにして飲む緒花独特の飲み方に、孝一は思わず笑ってしまう。離れて変わってしまったように見えていたが、昔通りの面もある。ここから、会話は進展する。

 眼鏡の女の子に告白されまだ返事をしていない孝一に対して、緒花は「ちゃんと返事をしないのは失礼」と言うが、すぐに自分のことだと気づく。気づいた瞬間にカメラは店内から屋外へと移動し、窓越しに二人をフレームの中に収める。今まで、店内から二人を後ろ越しや横からしか捉えなかったカメラが、緒花の重要な心理的変化の場面でここぞというときに移動し、緒花と孝一のうつむいた表情を正面から捉える。効果的な見せ方。


 窓を伝う雨の水滴は、まるで二人が流す内面的な涙のように映る。


 緒花は「もう行く」と云い席を離れようとするが、孝一が止めようとする。二人の手は一瞬触れ合うのだが、すぐに手を離す。微妙な二人の現在の関係性を端的に描いたところ。ここでも二人はすぐに視線を逸らし、孝一は支払いのため緒花に背を向ける。

 徹頭徹尾二人をちゃんと向き合わせないのだ。もし、二人がちゃんと向き合う日が来るのであれば、それは緒花がちゃんと返事をする日。それはいつ訪れるのか。


 「こんな背中、前にも見た」という台詞とともに映し出される緒花の顔右半面のクロースアップショット。画面右半分には緒花の顔、画面左半分には窓を伝う水滴。前述したように、その水滴は緒花が心の中で流す涙のようだ。




 このシーンは、派手な見せ方はないが、二人の距離感を堅実に描く見せ方で良いなと思った。



「許すな」


 孝一と別れ、雨の中を傘も差さず濡れながら歩く緒花。車に乗った見知らぬ男二人組に声を掛けられ、逃げる際中に紙袋が雨に濡れ弱くなり壊れてしまう。「許すな」と書かれた紙が雨に濡れていく。そこで、緒花は皐月のことと孝一のことを思う。ひどい母親だが優しくもある、孝一にちゃんと返事をしない自分、それらに対して「許すな」の文字が緒花に突き刺さってくる。母親を許すな、自分を許すな。


 
 緒花は雨の中走り出す。

 ここら辺はなんか珍しかった。『花咲くいろは』において「疾走すること」は高揚感に満ちた爽快なものなんだけど、ここの走りの描き方はちょっと不気味で爽快感もなく、どことなく暗い気持ちにさせる。走ることは前に進むポジティブなものとして描かれていたけど、ここでは逃げるというネガティブなものとして描かれるのがなんか珍しいと思った。

 走る足の描き方と手の描き方が不気味な感じ。




 緒花と皐月の食事のシーン。ここで、二枚の絵が緒花と皐月とともに映し出される。緒花には雪原と木々(だと思う)。皐月には太陽の光を浴びた高層ビル群。自然物と人工物の対照的な二枚の絵だ。寒々しい雪と木々の絵は、もしかすると緒花の現在の心情を表したものかもしれないが、とにかく自然物の絵は緒花っぽい。なぜ緒花っぽいかと感じられたのかというと、緑溢れる喜翠荘に現在いるから感じられた。緒花って田舎っぽいイメージ。高層ビル群の絵も皐月っぽい絵だ。都会で働きドライな性格の皐月は、高層ビルが似合う。

 二人の対立関係を際立たせるために、二人が別の世界に住んでいることを示すために、この自然物と人工物という対照的な絵を用いたのかもしれない。




 それと昼間っからワインっすか・・。



 都会と田舎で気になっていたのが、空間の描き方の違いだ。東京に来てからやけに高低差を感じさせる見せ方が多い。ビルの窓から下を見たり、でかい本屋をエスカレーターで昇ったりと、他にも色々あるのだが東京のシーンは垂直方向へと広がる縦の空間として描かれる。それは高層ビルが建ち並ぶ都会では当たり前の描かれたなのかもしれない。前半の温泉街のシーンは、高い建物なんてないから水平方向へと広がる横の空間として描かれる。都会と田舎を縦の空間と横の空間として描き分けているのが気になった。



おまけ

 赤い傘の子は眼鏡の女の子なんじゃないかと思い、孝一をめぐってどんな修羅場が待っているんだと期待したが、まったく違いました。