『会長はメイド様!』第17話「碓氷、敵に回る」

 第16話に続き、海での話。


 第17話は葵の話と美咲と碓氷の恋愛話が同時並行で描かれており、ここでは主に碓氷と美咲について書いていきます。


 個人的に海編に入ってからの碓氷がいいというか、語弊はあるかもしれないけど碓氷がとても可愛らしい。前回は、美咲のビキニ姿をビーチの男たちに見せたくないため、背中にキスしたりと行動が愛くるしい。


 そして、今回のこの碓氷の顔。葵と美咲がビーチバレー大会に出ることになり、メイドラテメンバーがはしゃぐ中、一人離れたところ座っている時の碓氷の表情。



 この寂しげと云うか、物憂げな表情。お前、なんちゅう顔をするんだと。優勝するとビーチプリンセスになり、盛大に祝られて、ビキニを着たり男たちと写真とったりするわけで。美咲は優勝を狙っており、多分ビーチプリンセスになってしまう。つまり、美咲がビーチの男たちに囲まれてしまう。別にビーチプリンセスになって、ビキニ着たり、男たちに囲まれたりしてもいいと思うのだが(悪いことではないんだし、なぎさもなったことがあるみたいだし)、そのことがめちゃくちゃ嫌なんだよな、碓氷は。出場すると聞いただけで、まだビーチプリンセスになるかどうかもわからないのに、碓氷はショックを受けて、今まで見せたことのないような本当に悲しげな顔を見せる。美咲が葵と出場することもちょっと嫌っぽいし。これを見ていると、ホントかわいらしい男だなと思ってしまう。この後、碓氷は「いかないで、鮎沢」と美咲に云う。『会長はメイド様!』って真面目っぽくなると、茶化すことが多いんだけど(デフォルメ・画面上における文字の多用などを駆使して)、そういうことをこのシークエンスであまりせず、真剣に「美咲に出てほしくない」と碓氷が思っていることを表していて、「碓氷どんだけ嫌なんだよ」と思ってしまった。それほど、美咲のことを大切にしている、大好きだということのあらわれなんだけど、そこまで美咲に男を近寄せたくないとは。


 美咲をビーチプリンセスになるのを阻止すべく、ビーチバレー大会に出場してしまう碓氷。美咲がスクール水着よりも肌を露出している水着を着ていることさえも嫌なんじゃないのかと思ったり。碓氷は口にはしませんが。


 美咲も碓氷も勝ち上がり、決勝戦。観客の男たちが美咲について話しているのを聞いただけで、ボールを強く握っちゃったり。ああいう男たちを美咲に近付かせたくないんだな。


 碓氷の圧倒的な強さの前に歯が立たない美咲はおもわず、「なんで碓氷が私の敵にまわってるんだよー!」と叫ぶ。いつも美咲の味方でいてくれた、守っていていくれた碓氷が敵にまわり、守ってくれなくなる。


 いつの間にか碓氷は、美咲の心の中の場所をの多く占めている存在となっていた。


 この台詞を聞き、碓氷は美咲を守る側へと戻り、大怪我をしそうになった美咲を身を挺して守ることになる。それで、ラストの二人に繋がっていく。



 第17話の白眉といえば、Bパート夜の海辺でのシーン。ここは、本当に素晴らしい。海や星空や家の灯りなどの風景をうまく使用し、視覚的に碓氷と美咲のやりとりを盛り上げていく。


 美咲は怪我をした碓氷のことを心配して、碓氷のあとついていく。



 バレーボール大会後の回想が終ると、美咲は「ゴメンな」と碓氷に謝る。この時、ダッチ・アングルで捉えられ、星空と碓氷と美咲だけが映されて、浜辺も家の明かりも排除されている。まるで、星の中に二人がいるみたいな光景。このシーンでは、碓氷を捉えたときの背景にだけ星空があるようになっていることがとても多い(それは、美咲と碓氷の身長さからくるものであり、美咲の視点からでは常に自分より身長の高い碓氷を見上げるようになっているため必然的に星空が背景になり、碓氷の視点からでは自分よりも身長の低い美咲を見下げるようになっているため砂の地面が常に背景になっている)。背景の星空によって、常に碓氷は星によって光り輝いている状態になっている(碓氷と星空と一体化しているような)。星空の風景により碓氷がより魅惑的に映し出される(碓氷の屈託のない笑顔のアップショットなどが顕著)。美咲の眼には、星空と碓氷しか映っていない。このシーンにおいて、星空は碓氷を魅力的に映し出すだけでなく、美咲と碓氷のロマンスをよりドラマティックにもする。



 碓氷が「許さない」と云った時、流れていたBGMは遮断され、海を背景にした側でなく、逆側から陸側を背景として碓氷と美咲を捉える。画面下半分が黒色に染まり(堤防)、画面上半分が幻想的な淡い光(家々の灯り)に彩られる。これは、海を背景とした側と視覚的に照応関係にあるようにみえる。星空は淡い光へと変わり、夜の海は堤防へと変貌する。この画面の変調が見るものに少なからずとも動揺させる。逆光によって捉えられために生じた暗さと画面下半分の暗黒が碓氷に「許さない」と云われた美咲の現在の心理(ショックを受けている)を補強するかのよう。この後、「許さない」は冗談だと碓氷が云う。



 碓氷が「よく見て」と云い美咲の腕を掴んだときの、美咲の顔のクロースアップ。美咲の唇に光沢が生まれ、この後彼女と彼が口づけを交わすことが示されるのと同時に、男っぽい美咲に艶が生じ、美咲を女性へと変貌させる。



 美咲と碓氷が見つめ合い、ちょっとした沈黙の後、二人は自然と口づけをしようとするのだが、碓氷と美咲の間を切り裂くように、口づけを邪魔するかのように、二人の間を花火が上昇していく。



 花火によって、口づけを一端邪魔された碓氷と美咲だが、花火の打ち上げを背景に美咲は目を瞑り(碓氷が手を前に出したため)、碓氷からのキスを待とうとする



 美咲が再びキスをしようとするっていうのが、良い。美咲は碓氷とキスをする気が満々というか、突っ走っている状態(キスをやめないところをみると)そんな美咲に対して、碓氷は美咲の頬に手を添えて「熱い」とにこやかに微笑む。すると、我に返ったかのように、美咲はキスをやめて立ち上がる。緊張して、ドキドキして熱くなった美咲を冷却するかのような碓氷。ここら辺のやりとりがベタなんだけど、やっぱりいい。


 写真を撮るとき、美咲の腕を掴むところをみると(やらしいことしてたんでしょと云いながらも)、葵も美咲のことやっぱ好きなんだよな。



 第17話は個人的に碓氷に惚れる回でした。ずっと物憂げな表情だったのに、最後に見せる碓氷の屈託のない笑顔の対比。あの笑顔は素晴らしい。