『それでも町は廻っている』第9巻 歩鳥と紺先輩と食事

それでも町は廻っている 9 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 9 (ヤングキングコミックス)



 第9巻を読み終えました。


 第71話「歩く鳥」が特に良かったです。僕が歩鳥と紺先輩の二人のエピソードが好きだっていうのもありますが、紺先輩の心情が変化していく様が良くてちょっと感動しました。



 第71話では、「食事」がキーポイントになっているように思えた。


 冒頭は、紺が南第3中学の2年生時の回想。紺が試合(卓球)の代表に選ばれたのだが、3年生を差し置いて選ばれてしまったために、3年の先輩たちの怒りを買ってしまう。仲良くしてもらっていた先輩にも、階段から突き落とされるという仕打ちを受けてしまう。


 さらに、紺の両親がイギリスへと旅立ってしまう(3年生の時の回想)。


 高校1年生になった紺。クラスメイトは親が作ってくれた弁当を持ってきて楽しそうに昼食を食べているが、紺は買ってきたパンを一人で食べていた。クラスメイトに「誘ってあげようか」などと云われ頭に来て、紺は教室を出て屋上へと続く階段の踊り場で昼食を食べる。そこで、たまたま屋上の鍵が残されており、屋上への扉が開いた。


 回想が終わり、歩鳥に誘われスケートをしに行くことになる。会話の内容からどうやら第13話&第14話「それでも町は廻っている」後のエピソードらしい。紺をスケートに誘った理由が歩鳥が頭を打って生死を彷徨いかけた時に見舞いに来てくれてたことのお礼だそうだ。


 電車に乗りながら、歩鳥は朝食を食べてない紺にアップルジュースを渡す。それを受け取り、紺は飲む。


 スケート場に着いた紺と歩鳥。歩鳥はうまく滑れないでいるが、紺はすぐにコツをつかみ滑れるようになった。紺先輩の運動神経の良さがわかる。紺と手を繋いで歩鳥は滑る。


 スケートを楽しんだ後、歩鳥は帰る途中そば屋を見つけ、ご飯を食べていこうと紺を誘う。乗り気ではなかったが、紺は歩鳥と一緒に店に入る。歩鳥はいなり寿司とそばを注文し、紺はいなり寿司だけを注文する。歩鳥はそばといなり寿司をもりもりと食べ、その食いっぷりのよさから、紺も思わず腹が減りそばを注文する。帰りの電車の中で、こんなにメシをを食ったのは久しぶりだと紺は歩鳥に云う。




 紺は先輩からひどい仕打ちを受け、少なからずとも人間不信に陥っただろう。紺の人見知りは元々あったものかもしれないが、この事件も影響しているように思える。ちょっとだけ人と接するのが苦手になったのかもしれない。故に高校1年生の紺は誰とも一緒に昼食を取ることなく一人で食べていた。それに加え、両親がイギリスへと行ってしまい、みんな親が作ってくれた弁当を食べているのに、紺だけがパンを食べていた。


 紺にとって食事とはどんなものだろうか。一人でパンを食べていて、食事は楽しいものだろうか? 


 友人もなく、家族もいない中で紺は一人で食事をしていく。紺にとって食事は楽しいものではなく、ただ栄養をとるだけのものに変わってしまっていたのかもしれない。小食に輪をかけて食事をとらなくなっていき、食欲を失っていく。


 紺が食事をあまりとらないのは、人間関係が影響している部分もあると云える。では、紺が食欲を取り戻すときはいつか? 食欲を取り戻す意味とは?


 紺は歩鳥と出会って変わっていく。第38話「俺たちは機械じゃねぇ」や第52話「秋まつり」で紺は歩鳥に引っ張られ、徐々に変わっていく。心を開いていくというか、歩鳥と心を通わせていく。紺のそばにはいつも歩鳥がいた。もう一人ではないのだ。昼食を一人で食べることもなくなった。タッツンや歩鳥や針原がいる。一人ご飯を食べることが変わっていく。


 そば屋で紺はかけそばを食べる。食欲がわいてきたのだ。久しぶりに腹いっぱいにご飯を食べる。歩鳥と心を通わせ、紺は食欲を取り戻していき、徐々に朝ご飯も食べていくようになる。

 食欲を取り戻す/食事をする=心を開いていくことのように思えた。


 食事を使って、紺が歩鳥によって変わったことをうまく描写しているのがよかった。


 第71話では、「銀河鉄道の夜」に関連するものが多く登場する。紺と歩鳥の関係をあらわすのには、最適な作品かもしれない。電車に乗せたのは、このためだったのか。


 紺先輩は大学へ行ったのか。はたまたイギリスへ行ったのか。第73話「森秋 夜空に散る」で第1志望の大学に落ちたという話が出たが、大学に進学したのかどうかはまだわからない。気になるところ。