『ましろ色シンフォニー』第1話「ましろ色の出会い」を振り返る


 脚本/浦畑達彦、コンテ/菅沼栄治、演出/サトウ光敏、作監/川村敏江・梅津茜
 
 
 改めて見直して色々と思うことがあったのでメモ。主にAパートについて書いていきます。ちなみに第1話「ましろ色の出会い」は2011年のベスト10にいれているほど好きな回(話数単位で選ぶ、2011年TVアニメ10選 - あしもとに水色宇宙)。



 
・初めて視聴したときAパートの冒頭は、はっきり云って何をやっているのかよくわからなかった。とにかく説明がない。言葉による状況説明がないのだ。なので、兄が妹を探しているという状況しかわからなかった。舞台の説明を二の次にして、登場人物の性格だけを伝える。優しくて妹を大事にしている兄と天然でおっとりした兄を慕う妹という情報だけが伝えられる。


 新吾は桜乃から送られてきた画像を見て、隅に映った柱に書かれた住所を発見する。その次のショットで照明があたる看板を見る新吾を捉える。そして、新吾は「そうか」と呟き、今まで来た道を引き返す。新吾は桜乃に「そこは旧市街か」という確認を取り、「各務モールに行ったんだな」と聞く。この一連の流れは、いつも桜乃が行っている新市街のスーパーマーケット付近に桜乃がいると思って新吾は向かっていたが、画像に映った場所は旧市街であり、旧市街にある高級スーパーに桜乃が行っていたとわかり引き返すということなんだけど、その行動の説明が一切ない(各務モールって言葉を聞いてスーパーだと一瞬にして連想できないし)。Bパートでその説明があるんだけど、説明を聞かないで見ると、ここの行動が視聴者にとってはよくわからないんだよね。


 つまり何が云いたいのかと云うと、このAパートは野暮ったい説明を一切省いて、新吾と桜乃と愛理の三人の出会いを劇的に描こうとしていること。説明台詞とか入れると、どうも劇的さが削がれてしまう。

 映像によって劇的に描いていこうという意志がいい。




・桜乃は塀の上を歩くぱんにゃを見つける。桜乃は思わずぱんにゃの後を追ってしまう。そして桜乃は、金木犀がある塀の凹みへと辿り着く。桜乃がぱんにゃの後を追わなければ、新吾は柱の住所を元に桜乃の所へと着き、二人は家に帰っていた。でも、ぱんにゃが原因で桜乃は移動し、金木犀のもとへと導かれ、そこで桜乃のは愛理と出会うことになる。ぱんにゃがいなければ愛理と桜乃は出会うことはなかっただろう。こうして見ると、ぱんにゃは桜乃と愛理を出会わせ、愛理と新吾を出会わせる役割を果たしたと云える。他のヒロインともぱんにゃを通じて新吾は出会っていたり、ぱんにゃの役割は人と人を出会わすことのように思える。




・この塀の凹みという舞台装置が僕は結構好き。なんで凹んでいるのかよくわからないが、まるで桜乃を休ませて留まらせるかのように機能する。もし塀が凹んでいなかったら、雨の中走って過ぎていった女性は桜乃が視界に入るため声を掛けたかもしれない。でも凹んでいるため視界に入りづらかった。そのため、傘を差していた桜乃だけが凹んでいる場所に桜乃がいると気づき、声を掛け二人は出会う。そしてあの塀の凹みの中にいて上を見上げると、その上に金木犀がある。塀の凹みは桜乃を留まらせて、愛理と出会わせるだけでなく、見上げると金木犀があるという状況を作り出すために凹まされていたのかもしれない。金木犀花言葉には「初恋」という意味があるらしい。この物語は「初恋」を巡る物語。金木犀を捉えたショットは新吾と愛理が携帯電話で会話している合間にも挿入される。




・桜乃が金木犀の匂いを嗅いでいると頬に雨が当たる。金木犀の匂いを感じるこの部分が結構好き。

 雨にあたっていると、愛理が傘を差しだす。愛理は「傘を差しだす女」だなと思った。第10話でも愛理は雨の中で紗凪に傘を差し出すのだ。『ましろ色シンフォニー』にとって「雨」は重要な役割を果たす。




・新吾と愛理の最初の接触は厳密にいうと公園ではなく、携帯電話の声だ。主人公とヒロインは最初に面と面を合わせるのではなく、声によって出会う。僕はこれが好きだ。携帯電話による会話のため外見がまったくわからない二人は、会話のやりとりだけで相手を知っていく。声での出会いは新鮮に思えた。こんな出会いの描写はなかなかない。


 携帯電話のやりとりも見事だ。携帯電話を使い、新吾と桜乃はもどかしいやりとりをし、新吾と桜乃と愛理はぎこちないやりとりを続ける。携帯電話は相手と相手と繋げるための道具なのに、新吾と桜乃は携帯電話に振り回され、すれ違ってしまう。このやりとりが巧いなぁと感心する。


 愛理と新吾が携帯電話で初めて会話する所。新吾が今まで走ってきた旧市街の道はまっすぐな道だけだったが、新吾と愛理が声で出会うとき、道と道が交差する十字路に新吾はいる。それは、愛理と新吾の道が交わった瞬間なのだ。




・旧市街の道をまるで複雑に入り組んだ迷路のように描く。その迷路の中に放り込まれた新吾と桜乃と愛理。その迷路の中で彼と彼女たちは彷徨い、そして出会う。新吾と愛理が出会うことにより、閉塞された迷路から抜け出し、広大で開けた公園で彼と彼女は改めて出会い、物語が始まる。あまりにもドラマティックな出会い。


 新吾と愛理の公園での出会い。なぜか愛理は突然茂みから登場して、新吾と劇的な出会いをする。なんで愛理は茂みから出てきたのか。なんで愛理を茂みから出させたのか。普通に考えると茂みから出てくるのはおかしい。あえて理由を付けるなら、方向音痴の二人だから誤って茂みから出てきたと考えられる。ではなぜ愛理を茂みから登場させたのか。それはひとえに新吾と愛理の出会いを劇的にするため、徐々に二人を近づけさせて出会わせるのではなく、突然に出会わせるために、わざわざ愛理を茂みから登場させる。その強引さが僕は好きだ。ちゃんとした理由なんてない、ただより魅力的にするためだけに用意されたもの。たとえば、凹んだ塀であり、茂みからの登場であったり。僕は物語の制約に縛られない、その強引さが好きなのだ。




・朝方、兄を携帯電話で呼ぶ妹。直接兄の部屋に行って、「お兄ちゃん」というお約束的なことはしない。そのクールさ。でも、お風呂に入っている兄のところに入る妹というお約束はする・・・。




・今居る場所を新吾に伝えるためなのに、自分を思いっきり撮ってしまう桜乃の可愛さは素晴らしい。ベストヒロインだ。




・第1話の話じゃないけど、思いついたのでOPの事を。OPで愛理と紗凪はなぜか影に覆われてる。この影は二人の今後を示すものなのかもしれない。



 思いついたことを殴り書きしました。やっぱ第1話は面白い。