『けいおん!!』最終回「卒業式!」 卒業と涙と笑顔


 脚本/吉田玲子、コンテ/山田尚子、演出/山田尚子・坂本一也、作監/堀口悠紀子


 最終回ということで、吉田玲子さん&山田尚子監督&堀口悠紀子さんの布陣(演出処理は坂本一也さんと連名ですが)。


 それほど感傷的にならず、卒業式の一日を淡々と描いているのがよかった。全体的に明るい雰囲気で、多幸感溢れるものに仕上げているのも良い。ファーストショットからラストまで、繰り返し映し出される晴天の空が印象的で、最終回を晴れやか且つ気持ちのいいものにしている。


 卒業式なのに唯たちが終始涙を流さず、朗らかにしているのは、「卒業は終わりじゃない」ということを共有しているからなのか(卒業しても一緒の大学に行くということもあるのかもしれないが)。


 唯が、第1話「高3!」(脚本/吉田玲子、コンテ・演出/山田尚子作監/堀口悠紀子)の時に拾った桜の花を梓に渡す所があって、第1話と最終回はちゃんと連繋しているんだなぁと思ったり。



唯と和のこれから


 和と唯の関係性の描写が良かった。Bパート。部室へと向かう唯たちは階段を上り、生徒会室へと向かう和は階段を下りる。階段を利用し、唯たちと和が別々の進路へ向かうことを視覚的にあらわす。



 別れ際に律や澪が「じゃあな」/「またな」と云うのに対して、唯は別れの言葉を口にせず、「一緒に帰ろうね」と云う。すると、和は何も言葉を発さず、手の仕草で唯に返答する。唯も同じ身振りを送り、「電話するね」と和に云う。二人はちゃんと言葉を交わさずとも、サインで通じ合える関係なのだ。台詞で返答しないのが効果的。澪たちと和の関係性とは違う、唯と和の特権的な関係性。唯と幼稚園の頃からの付き合いである和だが、大学では別々になってしまう。高校卒業とともに疎遠になってしまうことも多いと思うが、唯と和に関しては、大学が違おうとも決して疎遠になることはなく、二人の関係性はずっと変わらないだろう。唯の「電話するね」の台詞には、大学に行っても、おそらく何年経っても、連絡を取り続け(繋がり続け)変わらずに関係性を続けていくことが暗示されているように思える。別々の大学に行こうが、相も変わらず、唯の世話を焼く和の姿が目に浮かぶ。Aパートで、唯の破れたタイツを変えるために付き添う和の姿が指し示すように、これからも唯の面倒を見ていくのだろう。


 唯と和のやりとりが終わると、澪たちは画面上から排除され(先に部室へと行った)、階段には唯と和だけが映される。上ることと下りることで二人の別離があらわされるが、それは進路の別離であって、二人の関係性が終わる(疎遠になる)ことではない。



 階段を使用し、さりげなく二人の関係性をあらわすのがよかった。



 第24話では、脚(足)を捉えたショットが頻出する。これでもかっていう程、出てくる。たまたまなのかもしれないし(たまたまにしちゃ多い)、山田尚子監督の方針なのかもしれない。とにかくやたらと出てくる。全ての脚のショットとは云わないが、人物の脚を描写することによって、その人物の心情をより豊かに表現している脚のショットが度々ある。


 梓が唯たちの演奏を聴いているシークエンス。梓の脚が描写され、梓は脚を重ねる。梓が唯たちの曲で感極まっていること、表情や上半身の仕草だけでなく脚の仕草も利用して表現する。



 梓が唯たちに「卒業しないでよ」と云う時。「卒業しないでよ」という台詞の抑揚ともに、脚が動く。次のショットでは梓の泣いている表情が映し出される。これまた脚を巧く利用して、梓の真情の吐露を盛り上げている。



 三年の先輩の上履きを片方だけ履いていたり。仲が良かった先輩から貰ったのだろうか。細やかな描写。これは脚というか、靴のことだな・・。



 足でリズムをとっていたり。



 この他にも脚の描写は結構ある。

梓と「おでこの傷」と唯たちの卒業


 梓のおでこの傷が気になったので色々と。


 Aパート。梓は教室で卒業生に付ける「花」を手に取る。梓・純・憂は講堂に向かうため、廊下を歩いていると、廊下を走り階段を上っていく唯たちを見つける。梓は気になって、唯たちが上った階段を見ていると、あやまって柱に頭をぶつけてしまう(余所見)。おでこに傷が出来てしまった梓は、保健室で手当てをしてもらう。傷は絆創膏と前髪で隠される。

 梓が卒業生に「花」を付けていると、唯たちを見つける*1。楽しそうに話している唯たちを映した梓のPOVショット(だと思われる)。唯たちを見つめていた梓に対して、急に風が吹き、スカートがめくられ、前髪が乱れおでこの傷が露わになる。梓はすぐに手でおでこを隠す。



 卒業式が終わり、教室でぼーっと呆けている梓に声をかける純と憂。純はジャズ研の部室へと行き、これから憂は唯卒業のお祝いの準備(家族で)をするらしい。憂の話を聞き、梓は唯たちをちゃんと祝おうと決める。部室へと向うと、既に唯たちがお茶をしていた。席につくと、律たちからこれからの部員の話をされるが、梓は「大丈夫」と強気に云い、話をかき消すかのように、唯たちに書いたお礼の手紙をバッグから出す。ここではロングで梓たちを捉えたショットと手紙を渡す時の梓の表情の排除が印象的だ。唯たちが手紙を読んでいる中、梓は席を離れ、手前の長椅子へとバッグを置きに行く。バッグを置こうとすると、唯たちの卒業証書を見つける。唯たちの方を向くと、卒業生に付けた花が目に入る。卒業証書と花が目に入り、唯たちの卒業を強く意識させられる。Aパートでは、ピンとこなかった花だったが、今度は唯たちの卒業が頭をよぎる。今まで気を張っていたのだと思うが、唯たちが卒業したことを目の前にし、奥にしまっていた気持ちを堪え切れず、「卒業しないで」と吐露する。梓が泣きながら座り込むと、唯たちにおでこの傷を見つけられる。絆創膏が少し剥がれ傷が露呈し、最終的に梓は自ら絆創膏を取り、おでこの傷を露わにする。


 唯たちによっておでこの傷が生じ、卒業式へと向かう唯たちを見ていると風が吹きおでこの傷が露わになり、「唯たちの卒業が嫌だ」と表明するとおでこの傷が完全に露呈する。

 おでこの傷と唯たちの卒業に対する梓の真情は連繋しているようだ。傷は、梓の「唯たちの卒業が嫌だ」という内面そのものと云える。ずっと表出させず、内に隠していた「唯たちの卒業が嫌だ」という気持ち。おでこの傷もずっと前髪で隠されていた。つまり、傷が前髪で隠されていたということは、「唯たちの卒業が嫌だ」という気持ちをずっと内面に隠していたことと同義と云える。

 もし、おでこの傷が前髪で隠されなくなることがあれば、それは梓の「唯たちの卒業が嫌だ」という気持ちが表出したときだ。卒業生に花を付ける所で、急に風が吹き、おでこの傷が露わになったのは、卒業する唯たちを見て「卒業が嫌だ」という気持ちが表出したからであり、部室のシーンで梓が真情を吐露した時、おでこの傷が完全に露呈するのは、自分の気持ちを全て表に出したから。


 唯は露呈したおでこの傷=梓の気持ちを、絆創膏を貼って、癒す/治す。


 唯は梓に写真と桜の花びらを渡す。そして、梓に曲を贈る。その「天使にふれたよ!」という曲には、

「でもね、会えたよ。素敵な天使に。卒業は終わりじゃない。これからも仲間だから」

「ずっと永遠に一緒だよ」


 という歌詞があり、卒業しても梓と唯たちの間には絆がずっとあり続けることが示される。歌詞の通り、卒業は決して終わりではない、卒業は区切りのようなもの。一緒にいることはなくても、離れても、絆は切れることはない。


 曲を聴いた梓は、光る大粒の涙を流す。言葉の通り、本当に大粒の涙を流す。



おまけ1


 ラストの唯の台詞「わたしたちの曲、聴いてくれる?」。さわ子先生と和に云ったのかもしれないが、なんか変だ(目上のさわ子先生にこういう言い方するのだろうか)。さわ子先生や和に対してというより、この台詞は視聴者に向けて云ったのだろう。ラストの曲は、視聴者に向けての演奏。


おまけ2


 教室のシーン。さわ子先生を捉えた横移動のショットとか良かった。今回さわ子先生の扱いがやけに丁寧で、和よりも丁寧だったような。


おまけ3


 クラスメイトの描写もよかった。卒業式での伝言や眼鏡の子との写真撮影(これまた脚のショットがある)など。後ろでさわ子先生と写真撮影していたり、細かい。

*1:ここでは、梓の顔と唯たちの顔付近に焦点が合い、周りはぼやけている