けいおん! 第12話「軽音!」が面白い

成長した唯


 ギターを家に取りに行き、急いで学校に戻る唯。

 ここでは、第1話「廃部!」の冒頭のシーンと同じシチュエーションになっています。1話目の彼女はただがむしゃらに明確な目標もなく走っていたわけなんですが、今回の彼女は違います。ステージ上で待っている軽音部のメンバーのため、自分にとって大切な場所のために走り抜くのです。あと、1話目と決定的に違うのはギターを背負っているということ。このギターは自分のやりたい事と軽音部への想いが詰まったもので、それを背負って走るという事は、1話目とは背負っている重さが全く違うのです。

 軽音部の演奏と唯の一生懸命走る姿をクロス・カッティングを使って、よりドラマ性の高いものへと押し上げています。演奏と唯が走る姿が交互に描写されるため、軽音部の演奏が唯をステージに引き寄せている、呼んでいるイメージを与えます。

 また、過去の自分自身に語りかける唯のモノローグが第1話目の彼女よりも成長した姿を浮き彫りにしているのも見逃せません。





 第1話では転んでしまいましたが、今回は強く踏ん張り、転ばない。唯が成長したんだということもわかりますが、この踏ん張りには自分の事を待ってくれている軽音部のためということも含まれており、1話目とは違い彼女に大切な仲間が出来て、そのために頑張る彼女の姿が映し出されています。





上手(画面右側)方向に向かって走る唯。その次のカットで画面右側を向いて歌う澪。同じ方向を向いているので視点が違和感なく唯から澪へ移行する。



 ほどけたタイのクローズアップから、約13秒間の下手(画面左側)に向かって走る唯をミディアムショットで捉えたカットに切り替わり、最後に歯を食いしばる唯のクローズアップショットという流れは、タイを乱すくらい力を振り絞って走る唯の姿が強調されていて、「みんなのために走る」ということがとても印象的に描写されていました。話はずれますが、「時をかける少女」や最近で言えば「初恋限定。」第9話など、「ラストに全力で走る」という行為はなぜこんなにも視聴者の気分を高揚させるんでしょうか。





唯のPOVショット(主観ショット)と共に、唯にとって大切な人達が次々と描写されていきます。彼女の主観から捉えることによって、唯が見てきた仲間たちとの日常の中に視聴者が強く感情移入できるようになっています。あと、ここでちょっと気になったのは、さわ子先生が描写されないんですよね・・・・。唯にとってのさわ子先生って、一体なんだったのかなぁなんて思ったりしてしまいました。ギー太は描写されるんですけどね・・・。





凡庸な解釈ですが、光の射す方向=みんなが待っている場所=大切な場所へと走っていく唯。



1話目のシチュエーションと「対比」させることによって、成長した唯を描いている見事なシーンでした。





ライブの盛り上げ方


遅れてきた唯が加わり、軽音部の全員で「ふらふわ時間」を演奏する場面。


いつもよりも、口がとんがっている(?)というか、なんというか。まぁとにかく唯が一生懸命に歌っているさまを強調させています。曲に合わせてのリップシンクもとてもスムーズです。



カメラが引くと観客が映し出され、ステージに近い女子生徒達がリズムを取っている様が描写されます。「盛り上がっている」という事を認識させるには、演奏者を映し出すのではなく観客を映し出すことが一番効果的であり、リズムを取り軽音部のライブに熱中している女子生徒達を描写することにより、ライブが盛り上がっていく様を演出しています。



ここで、さわ子先生、和、憂の順に描写され、各々がリズムをとり「ふわふわ時間」を一緒に歌っています。リズムを取り、一緒に歌っている様は軽音部の演奏に惹き込まれているイメージを強調し、ライブをより一層盛り上げてくれます。あと憂の友人である純が頬を赤らめて軽音部の演奏に見入っているのも印象的です。



そして、ステージから飛び出て、外の出店が映し出され、熱狂する観客の声援と「ふわふわ時間」が聞こえてきます。ライブが熱狂しているさまを直接映し出さずに、視聴者の想像力に委ねることによって、ライブの熱狂を増幅させています。また、軽音部のステージを「動」とし、外の風景を「静」として、「静」=「外の風景」を見せることによって、「動」=「軽音部のステージ」をより際立たせ、ライブがいかに盛り上がっているのかを伝えています。あと、徐々にステージ上から遠ざかっていっているのは、「ふわふわ時間」が皆の所へ広がっている、熱狂の輪が広がっている様子を表しているのかもしれません。



2回目の「ふわふわ時間」は紬、律、澪、梓の順に音が増えていきます。内側に向かって演奏している姿をズームインしていき、唯が振り返って歌うのは、貯めていたエネルギーを爆発させるようなイメージがあり、ライブをより一層盛り上げる演出です。それともうひとつ、みんなが向き合って演奏しているのは、2回目は観客のためでなく自分達(軽音部)のためだけにあてた演奏ではないかとも思わせます(観客が映し出されることはなく、軽音部の部室がずっと描写されるのも、2回目の演奏は自分たちだけの演奏と思わせます)。



2回目は演奏している姿は描写せずに、軽音部の部室が映し出され、今までの軽音部の過去を振り返ったような作りになってます。五つくっ付いて並んだバッグや五つの机と椅子は、彼女たち軽音部の絆を物語っています。








最後のハートマークのアイリス・アウトは「けいおん!」という作品らしい終り方でした。暗転しても唯たちのやりとりが続くのはお約束。