獣の奏者エリン 第27話「ヒカラにおちて」がすごく面白い


 最近の「獣の奏者エリン」すごく面白いです。

 第25話「ふたりのおつかい」、第26話「リランの心」、第27話「ヒカラにおちて」、ここら辺はいつにも増して見所が多いものとなっています。


 それで、布施木一喜さんが脚本・コンテ・演出(連名)を担当した第27話「ヒカラにおちて」について色々と書いていきます。

 今回の話は、従来のエリンと比べるとかなり異質なエピソード。エリンが夢の世界に入ってしまうという、ラーゼフォン第11話「虚邪回路」みたいなお話。布施木一喜さんが脚本まで担当しているからでしょうか? 

 作監が杉本道明さんなので全体的にクオリティが高いのも見所。



恐怖感を煽る


 物語前半は恐怖感や違和感を与え続けていきます。


 部屋全体をうす暗くし、窓からの入射光を強調。光と影の部分を明確にし、いつもの部屋(通常はこんなに光と影を強調しない)との差別化、今の状態が普通とどこか違うという違和感を視聴者に与えています。また、夏休みなので生徒が誰一人おらず、その誰もいない部屋を描写していくことで異質感、恐怖感を煽っていきます。

 建物を仰角から捉え、光の射しこみ具合(逆光)から建物が真っ黒に見えます。仰角から捉えることによって、強い印象、怖い印象を視覚的に与えており、不気味さを強調しています。真っ黒な建物も不気味さに拍車をかけています。

 燃えるような赤と夜の黒が混じり合っている夕暮れの背景。いつものリランとエリンが遊ぶ場面の色使いとは異なっており、この赤と黒が不穏な空気を醸し出しています。ホント、空が焼けているよう。


 今度は暗い影を極力排除して、光を強調、画面が白い光に包まれています。強い日光を使い、今までとの画面と違う雰囲気を作り上げるのと同時に、その今までと違う雰囲気が王獣の墓の異様さを出しています。また、エリンが別世界に迷い込んだような画面作りにもなっています。流れている人を不安にさせるようなBGMにも注目したい。

蛾の反復


 前に書いた記事「「獣の奏者エリン」布施木一喜コンテ・演出回の特徴について - あしもとに水色宇宙」を参照しながら書いていきます。布施木一喜さんの特徴として、僕は同じイメージを繰り返すこと、「反復」だと書きましたが、今回の話では「蛾」が執拗にこれでもかと反復されていました。全編に渡って何度も登場する「蛾」。飽き飽きするほど、登場しました。だったら、ここまで強調されている蛾は一体何なのか? 多分、いろんな解釈が出来ると思います。断定はできませんが、ヒカラの世界、夢の世界に誘うものとしての役割を持っていたと私は思います。


 回転し続ける蛾。地べたに落ちても回り続けます。エリンがヒカラで迷っている(=エリンがぐるぐると迷走するのと蛾が回転し続けることをかけている)ことを意味しています。


 夢が終わりエリンが目を覚ますと蛾も飛び立っていく。エリンの迷いが終り、ヒカラがなくなったことがわかります。



ジョウン


 今回、ジョウンの死が次回予告で伝えられるという、ありえないというか、なんでそこで伝えんだよ! っていう衝撃的な事件(事件とは言えないか・・)があったのですが、よく観てみると本編中に、ジョウンの死が暗示されてい部分がいくつか見受けられました。


 Aパートでの、リランとエリンが麦わら帽子をお互いに投げて遊んでいるシーン。エリンがジョウンに手紙を出すことを思いつき、リランに手紙のことについて「手紙っていうのはね。遠くにいるおじさんに、私の想いを乗せて運んでくれるものなんだよ」と言って麦わら帽子をリランに向けて投げるのですが、リランは受け取ることができず、麦わら帽子は夕日の中に向かっていきます。このやりとりは、麦わら帽子=私の想いを乗せて運んでくれる手紙を暗喩していて、それが受け取られることなく夕日の中に消えていくという、エリンの手紙=想いがジョウンに届かないことを意味しています。これにより、ジョウンに何かあった(=死)ということがわかります。

 また、エリンが手紙を書いた直後に、斧で勢いよく薪を割るカットにぶしつけに切り替わるのですが、これはエリンの想い=手紙が切断されること、想い=手紙がジョウンに届かない、と捉えることができます。


 そして、ヒカラの世界でジョウンと出会うエリン。ここで、エリンはジョウンのことを「お父さん」と呼びます。多分、放送中大勢の人は、ジョウンが死亡するとは考えてもなかったわけで、エリンがジョウンに対して父だと伝える感動的な場面だと捉えていたでしょう。でも、ジョウンが死んだという事を知って視聴するとこれほど悲しい場面はありません。彼女ははジョウンに「お父さん」と直接伝える機会を失ってしまったのですから。



ソヨンとリラン


 ヒカラの世界、夢の世界に捕えられたソヨンが登場します。そこで、ソヨンは夢の世界で迷うエリンに「この霧は、あきらめや悲しみに囚われ、あなたの迷った心が作ったもの。迷いと向き合わないために」と伝えます。この迷いとは、リランをこれからどう育てていくのか、特滋水や音無し笛を使うのか、このままでは野生の王獣とは暮らせていけないのではないのか、リランは一生ここを出られないのか、など王獣に対するエリンの育て方の理想と国が定める育て方の間で揺れて迷っている心でした。

 リランへ自分なりの育て方を貫いていくことは、ソヨンを救うことでもあります。裁きの池でソヨンを助けられなかったエリン、今度リランを助けること=エリンなりの育て方をすることが、あの時助けられなかったソヨンを「救う」ことでもあるのです。


 抱き合うエリンとソヨン。迷い=霧が晴れている。助けられなかったソヨンと抱き合っているということは、エリンがリランのために自分のできる限りのことをしていこうと心に決めたことがわかります。


 ここでは、松たか子さんの「きっと伝えて」が流れます。なぜ松たか子さんなのかはちょっとわかりませんが、第7話を彷彿とさせる視聴者の気分を高揚させる効果的な挿入歌でした。それにしても、どういう繋がりが・・・・・。



おまけ、片目のエリン


 今回、蛾並みに反復されたのが、エリンの片目だけを捉えたでショットやカット。よくわからんのですが、片目だけを捉えることで、エリンの心に何か欠けている感じを出したかったのかしら。いつものエリンと違う雰囲気が出ていたのだけは確か。超クローズアップ(エクストリームクローズアップ)で捉えていたり、何かしら伝えたいことがあったと思うのですが、僕にはちょっと真意が掴めなかった。