獣の奏者エリン 第36話「卒舎ノ試し」が面白い


 気になったことを色々と。




 第36話では、「蝶」が頻出する。この「蝶」のイメージが明確な何かを示しているのかというと、それは定かではない。「蝶」は、エリンの喜びを表したり、卒舎ノ試しに受かった学童たちの喜びを表したりするが、他の場面では会話の間を調整するために挿入されたり、リランとエクとエリンを表すために使われたり、春のイメージを表したりと、そこにはこれといった一貫性はない。*1

 このような事から、多分「蝶」は潤滑油の役割を果たしているのだろう。登場人物達の心情を補完するために使われたり、会話の流れを切り替えるために使われたりと、その役割は多義に渡り、第36話を調整するために「蝶」は使用されている。




別れ


 卒舎ノ試しが終わり、学童達はみな学舎から巣立っていく。

 学舎から去る学童たちが映し出されるのだが、そのショットの間に地面に葉が落ちるショットが挿入される。去っていく学童たちに呼応するかのように、木から葉が落ちていく。木から離れる葉の落下運動は学舎から離れて旅立っていく学童たちを示し、地面が葉で覆われた頃、エリンの親友ユーヤンが旅立つことになる。



 みな巣立って行き、ユーヤンを見送るものはエリン一人だけになっていた。今まで見送る時間帯は昼間だったのに対して、今度は夕暮れの時間帯。印象強い鮮烈な赤と黒で染まった夕暮れの空は視聴者の視線を画面に注視させ、エリンとユーヤンの別れの悲しさを際立たせる。ユーヤンは目に涙を浮かべながら、エリンと話すのだが、エリンの目には涙はない。涙もろいユーヤンとエリンは違うということはわかっているのだが、このシークェンスを観ているとエリンはユーヤンとの別れをそれほど悲しんではないのかという考えが頭の中をよぎってしまう。もちろん、エリンがユーヤンとの別れを悲しまないわけはない。では、なぜ涙を流さないのか?


 荷馬車に乗り、去ってゆくユーヤンの姿が映し出される。目から涙を流すユーヤンのクロースアップショットから同じく目から涙を流すエリンのクロースアップショット切り替わる。この時、ユーヤンの側にいた時は一切涙を流さなかったエリンがユーヤンと同じくらい涙を流しているが示されるのだが、なぜユーヤンが去った後にエリンは涙を流したのだろうか。ユーヤンが去る姿を見て自然と涙が出たのかもしれないし、何かしらの理由があるわけではないのかもしれないが、意図してエリンはユーヤンの前では涙を流さなかったという解釈をしてみたい。


 荷馬車に乗り学舎から去っていくユーヤンにはエリンが涙を流しているかどうかは判別できないだろう。荷馬車に乗ったユーヤンを後ろから捉えたショットには距離が離れているためエリンは小さく映り、手を振る運動しかわからない。このショットからわかるように、ユーヤンがエリンの涙を認識できてはいない。ユーヤンがエリンの泣き顔を認識できない距離に入ってから、エリンは涙をこぼした。なぜそのようなことをしたのか。


 それは、単純に言えばユーヤンに別れを悲しませたくなかったからだろう。


 エリンとユーヤンが門付近で別れ際の会話しているシークェンスに遡る。ユーヤンが瞳に涙をためて悲しそうな表情のクロースアップショットの次にエリンが「手紙を送るね」と明るい口調で唐突に話す。「王獣一直線だから」とエリンが言い締めた直後、悲しそうな表情だったユーヤンの表情ががらりと変わり、「それでこそエリンやんか」と明るい表情に切り替わる。その後二人は一緒に笑う。この一連の流れを見ると、悲しそうなユーヤンの表情を見て、手紙の話を切り出し、ユーヤンの悲しみを取り除こうとしていたエリンの姿が浮き上がってくる。明るく元気な口調でユーヤンに語りかけ、「まぁ、ひどい」と言い、ユーヤンの別れの悲しみを一緒に笑い飛ばす。

 自分の悲しみ=涙を決してユーヤンに見せず、最後まで親友を元気づけたエリンの姿に素直に胸を打たれる。

 エリンにとってもユーヤンと別れることはとても悲しいことだったのだろう。現に彼女はユーヤンの姿が見えなくなってから(エリンがユーヤンに自分の悲しみを見せないのを徹底している様が窺い知れる)、「ユーヤン」と叫び大粒の涙をこぼしながら、去って行った彼女の後を追うのだから。自分にとっても別れは悲しいものなのに、それを最後の最後まで隠して、親友を送る。その後に、学舎で共に暮らした友の姿、ユーヤンの姿が回想として次々と映し出される。この一連の流れは視聴者の涙を誘うだろう。






卒業と胎動


 第36話「卒舎ノ試し」では、「卒業」が一つの主題となっている。その「卒業」と並行して描かれるのが、リランの妊娠、新しい生命の胎動。終わりは始まりであり、エリンの卒業は教導師の道へと続く。ムックとヌックも見習いが終わり、新しく正式な雑用になった。第36話では卒業と胎動を描き、一つの終わりと新たな始まりの間、「転換」を視聴者に強く印象付ける。この第36話を機に新たな章へと突入する。



 そして次回からは新キャラも登場する。あの異様に小っこい子供がどう物語に絡んでくるのか気になる。




おまけ


 コンテの玉川真人さんって、ヌックとモックのことを気に入っているのかな。二人のギャグシーン結構長いし、いつにも増してオーバーなリアクションだし。第25話「ふたりのおつかい」を想起させる。面白くていいな。

 「日本語かよ」って思わず突っ込んでしまった。玉川真人さんはヌック・モック使いだな(なんじゃそれ)。



*1:ポジティブなイメージという点では一致している